第962話 パンドラの希望②シミュレーション
とりあえず、わたしはそのメモの言葉を、そのまま書き写しておいた。
乙女ゲーってあれよね?
女性をターゲットにしたシミュレーションゲーム。
思い出していた。この世界はある異界の箱庭を模倣したもの。ルシオはそれが物語だと言った。それが乙女ゲーだったってこと?
見習い神って本当の創造神のことよね?
7分の1の奇跡って、その数字から7分の6が失われることだろうなぁ。どうしても失う方に目がいくけど、7分の1は助かるんだから、確かに奇跡だ。
ん? 見習い神さまは7分の1助かることを知らなかったってこと?
原因と結果? 必ず理由がある、そりゃそうだろうけど……。
〝吹き込まれた命の紡ぎだす未来への介入は、何者も許されない〟
何言ってんの? サッパリわからないんだけど。
相応の罰がくだる? 誰に? 介入した者にってこと?
これが希望になるわけ?
どこらへんが??
わかるように言って! 口語訳をつけて! プリーズ!
っていうか、希望を形にしてとまでは言わない。けれど、希望を教えてくれるなら教えてくれるで、わかるように言ってくれなきゃ意味ないし。
ズバリ言っちゃいけない規定でもあるわけ? 希望の箱なのに???
取り乱しかけたわたしは、大きく深呼吸をした。
『リディア、どうした?』
「あー、実はね、〝希望〟を開けてみたの」
『希望を開ける?』
みんながベッドからホップステップジャンプで、わたしの机の上にやってくる。もふさまはわたしの膝に乗ってきて、正面から顔を出し、小箱の匂いをかいだ。
『魔の匂いがする』
みんなも一斉に小箱に集まってクンクンしてる。
か、可愛い。……そうじゃなくて。
「すっかり忘れていたんだけど、記憶をなくした時に収納箱の中のリストを見たの。〝希望〟ってあって、すごく不思議だった。記憶が戻ってから、それがなんなのか思い出したの。空っぽダンジョンの108階、ボスを倒したときの報酬だって」
「報酬があったんでちか?」
「そうなの」
『希望ってなんだったんだ?』
レオがワクワクした瞳で見上げてくる。
『希望って甘いかな?』
『希望はおいしいかな?』
「食べ物じゃないから」
『えー、希望なのに、食べ物じゃないの?』
そうか、アリとクイにとって希望は食べ物なのか……。
『アリとクイは食いしん坊ですねー』
ベアが上品に笑っている。
「希望ってなんだろうって思って鑑定をかけたら、その時、一番の希望となることが入っているって出た。それで、わたしは小箱を開けた」
『中身は?』
レオが全身で身を乗り出す。
「なんだったでち?」
『なんだったのだ?』
「メモに書いてあったのは
〝この世界は乙女ゲー
見習い神は見習い故に、7分の1の奇跡を知らない
原因と結果、物事には必ず理由がある
吹き込まれた命の紡ぎだす未来への介入は、何者も許されない
相応の罰がくだる〟」
みんな揃って大きな目をパチクリさせている。
『おとめげーって何?』
「女性向けのシミュレーションゲームのことだと思う。わたしが知ってるのは恋愛に特化してるやつだったけど」
『しみゅれーしょんげーむ?』
みんなが声を揃える。
「うーん例えばね。レオがプレイヤーね」
わたしは言いながら紙に書きつけていく。1問目、赤、青、黄色。赤を選んだらそこまで。青か黄色を選んだら2問目にいけると線を下ろす。2問目はドーナツ、アイス、クッキーから選んでもらう。クッキー以外を選べれば3問目。といった感じで5問まで設問を作る。
レオにわたしと向き合ってもらって、レオ以外はわたしの方にきてもらう。
あ、アオ以外、字が読めないか。ま、文字のところを手で追っていけば多少は何かやってる気になるか。
「レオにはこれからいくつかのことを選んでもらいます。シナリオに沿って最後まで行き着ければベスト、のシミュレーションゲームです。例えば、5問の設問全部に行きつけたら、このスーッとする飴をあげちゃいます」
ミントの飴なだけで、みんないつも食べているものなのに。
ご褒美をちらつかせたら鼻息が荒くなっている。
「今はどんなものかを体験してほしいから仮で作ったの。脈絡なく、何が正しいとかないから、勘で答えてね」
レオは頷く。
「では第1問。赤、青、黄色。どれか1つ色を選んでください」
わたしは赤、青、黄色と言った時に、紙に書いた色のところを指さす。
レオはうーんと唸ってから
『黄色!』
と元気に言った。わたしは黄色の下に書いた垂直の線を指で辿る。
「では2問目。ドーナツ、アイス、クッキー、どれを選ぶ?」
『もちろんアイス!』
『アイス!』
『アイス!』
アリとクイも反応する。いや、おやつの食べたいものを聞いたわけじゃないからね。
はーい、と垂直の線を辿り
「では、第3問……」
レオは4問目でハズレを選んでしまった。
「こういうふうにね、選ぶことで結末が変わっていくゲームなの。今のは仮だから意味がない設問だけど。そういったゲームでは目標がある。その目標を達成するために何か選んでいくものなの。何通りも道があって、何を選ぶかプレイヤー次第」
面白かったようで、わたしはいくつかのシナリオを作らされた。
アオ以外字が読めないから、下手な絵を描かされるハメになる。
脱線しているうちにお風呂の時間になり、食事をして、寝る時間になった。
そこでやっと静かな時間が訪れる。
乙女ゲーか、なんで気づかなかったんだろう?
アイリス嬢のアカシックレコードリーディング。その力でアイリス嬢が小さい頃に見たという何人もとの恋愛物語。あれなんて、まさに乙女ゲーそのままじゃん。
主人公がアイリス嬢というのも符合するし、攻略対象者が生徒会メンバーだ。
まさに、まさにそうじゃん!
アイリス嬢があの中の誰かを選べば、そうなっているはずだった?
でも学園に通う前から……未来が変わっていったようだけど。
思い出せ。ゲームの中はどうなるのが筋だった?
世界の終焉なんてワードはなかった気がする。
アイリス嬢が聖女になって……。
と思っているうちに寝てしまったようで、気がついたら朝だった。
見せてもらってから時が経ってるし、あの時はただ映像が始まって驚いていたから、流して見てただけだ。これはアイリス嬢にお願いして、もう一度見せてもらおう。あの時はロサとイザークだけだったけど攻略者全員分見せてもらわないと!
わたしは朝っぱらから迷惑も考えずに、アイリス嬢と至急会いたい旨をルシオに伝達魔法で送った。




