第961話 パンドラの希望①これが?
わたしは誰にも告げなかった。
期待をさせもし違った場合、落胆は大きくなる。
落胆するのはわたしだけでいいと思ったのだ。
祝賀会にてとんでもない嫌疑をかけられたけど、割とすぐに関与していないことが認められた。捕らえられたふたりは口を割らなかったけれど、わたしを陥れたい言動があったので、かえってわたしは被害者であろうと結論づけられたわけだ。
口を割らないから地道に彼女たちの足取りを調べていくしかなく、騎士たちがそうしたところ、やはり新興宗教とも呼べるものができていて、そこに足繁く通っている人たちがいたことがわかった。
アジトなど場所を移してしまったらしく、話を聞くことはかなわなかったそうだけど、バルバラ・デルコーレもパメラ・ロンゴも、デルコーレのパートナーとして祝賀会にきたワジム・ネモフの駆け落ちした元婚約者アン・メトリもその会合に参加していたことがわかっている。
未遂といっても、相手は公爵令嬢、しかも王子殿下の婚約者に刃物を向けたとあり、バルバラ・デルコーレは成人するまで修道院に。成人したら強制労働所に収監されるということだ。パメラはロンゴ家から養子を解かれた。パメラがバルバラと共謀していたという証拠はない。彼女の罪が認められるのは、騎士の規律違反だ。情報を漏らして現場を混乱させた。騎士の称号を剥奪。強制労働半年の後、王都より追放。
二人とも、その会合のことを詳しく話せばもう少し罰が軽くなるらしい。
デルコーレは自分の処罰がわかると、うなだれるでもなく、「世界はあと少しで一旦終わる。徳を積んだ自分は新しい世界で優遇されるからいいんだ」とか何とか言ったらしい。
それを聞いた騎士はどんな徳を積んだのか?と尋ねたそうだけど、リディア・シュタインの化けの皮を剥がしてやったと言ったそうだ。
わたしはそれを聞いて、なんともいえない恐ろしい気持ちになった。
その会合ってのが新興宗教っぽいのは裏が取れた感じだ。
正しくはわからないけど、デルコーレの言葉から思うに
・世界はあと少しで一旦終わる
・つまり世界は復活する
・徳を積むと新しい世界で優遇される
・徳を積むとはリディア・シュタインの化けの皮を剥がすこと
ルシオの言っていた神殿離れ。
ダニエルの言っていたわたしに長く執拗に何かの意思が働いているんじゃないかって話。
それらがわたしの中で結びついた。
時期からしてその宗教団体は、バッカスの形態を変えた姿なんじゃないかと思っている。バッカスの時は最終目的はお金だと思えたから、この団体とは趣が違う気がしてた。けれど、わたしを蹴落とすことが新しい世界の徳を積むってことにしてみたり、そんなわたしに憎しみを向けるってあの弁護士しか思いつけない。
弁護士、組織の当主さまと呼ばれていた。それに神の領域みたいな人族より上にいるみたいにマウント取ってきたし。どんだけ偉いのか知らないけど……。
あの弁護士を当主と呼び関わりがありそうなフォルガードのお店、後から調べてみたけれど、あそこは空き店舗で、誰かがあの時だけ入り込んでいたとしかわからなかった。
ま、そんなことがあり、わたしはちょっと追い詰められていた。気分的に。
他のことは順調に進んでいる。
アイリス嬢に聖水を振りかけたら、女神さまの力を感じられるようになったと言っていた。
色の文言は、もう少し使いこなせてから教えるそうだ。
時間があればわたしたちはダンジョンに通い、いくつもの試したいことを試していった。
宗教団体については特に王都を中心に警戒を強めている。
一定以上の人が集まる時は届出を出すようにしたらどうだろうと案は出たが、終焉のことを話せない以上、人々の目には異様な過剰反応に思えるだろう。ということで、その案は却下された。騎士たちが今までより巡回を多くし、会合みたいなものもわかっていれば顔を出したりしている。
玉はわたしの推理通り、瘴気以外は詰め込めることができた。瘴気を扱える人はトルマリンかナムルしかいないのがネックだ。だから試せてない。
精霊は時々目を開けるようになった。話しかけても応答しない。聞こえてないのか言葉がわからないのかはっきりしない。ただこちらも1日1回、光魔法はかけている。
順調ではあると思う。けれど焦る。追い詰められる。
わたしは藁にもすがる気持ちで、鑑定をかけた。
悪夢が落としていったあの小さな箱に。
空っぽダンジョン108階のボスを倒した報酬。
その小箱には〝hope〟と書かれていた。
希望ってなにさ。わたしはそう思った。
でもこれまで空っぽダンジョンの恩恵を受けてきた。
ボスを倒した時も、相応のものが出てくる。
希望ってものすごく抽象的だけど。もしかしたら凄いものが入っているのかも。
鑑定では
その時、一番の希望となることが入っている
と記される。
1番の希望?
一体何が入っているのやら。
もっと切羽詰まった時に使うべきだとも思った。けれど。
そうわたしは追い詰められていて。
短い3学期が始まる前日、夕飯前の自室で、もふさまやもふもふ軍団が部屋の中で戯れあっているのを少しだけみて、それから机に向かいあった。
何気なく机に向かうよう装って。
凄いものでも、そうでなくても、平常心を保てるように。
小箱をそっと呼び出して、今開けるかどうかをもう一度悩んで。
やっぱり開けることを選んだ。
あまり期待をしないように。
今一番希望となることとは?
ええい!と箱を開ける。
メモが折り畳まれて入っていた。
震える指で紙を開いてメモを見る。
この世界は乙女ゲー
見習い神は見習い故に、7分の1の奇跡を知らない
原因と結果、物事には必ず理由がある
吹き込まれた命の紡ぎだす未来への介入は、何者も許されない
相応の罰がくだる
は?
これが希望??
どこらへんがーーーーーーーー???




