第954話 わたしたちの王さま⑬石と魔具と玉の理論
わたしはまず〝玉〟の基本的なところを認識できてなかった。
わたしが見たことのある〝玉〟はトルネード玉、バイ玉、水玉だ。
ユオブリアのバッカスの支部で子供たちが作らされていたものと、アリの巣で使った水玉。
魔力を込め玉を投げつけると、その現象が現れる。
トルネード玉は小さな竜巻が。バイ玉は一緒に投げつけたものが倍の威力を発揮する。水玉は水が溢れる。
玉は中身が外に出た時に現象を展開させるもの。
玉は現象を入れ込んでいる、つまり何かを封じ込めている。
その〝封じ込める〟を、混同したままふんわりと認識していた。
蓮の葉の地下に行った時、わたしたちは玉を作れないかといくつかの実験をした。組織は玉を作るのに、ドラゴンの生き血だったり、世界樹の葉だったり、精霊の水だったりに漬け込んでいた。それを見て、もふさまが魔力本で見た聖霊石の作り方と似ていることを思い出した。
それで聖霊石は聖力を封じるものだから聖力と反する神力を多くしているのではないかって仮説を立てた。魔法を封じるのが目的な〝玉〟であるなら神力と聖力、そして瘴気を注げばいいのではないかと。でもその定義でいくと、少しの時間しかもたなかった。
帰ってきたときに家の地下にある魔力本を見たけれど、スキル自体を込められるような、そんな何かの作り方がズバリ書いてあるものはなかった。
ではどうしたら〝玉〟を作ることができるのか。
読み解くことは難しいと思ったけど、ヒントになればと思って、何度もドワーフが書いた魔石の扱い方の本を読んだ。
目的にあわせた魔石を作るレシピを重点的に。それは比率がバラバラだから、目的に合わせて比率が違うんだと思った。でもそこから比率を読み取るのは難しい。
例えば聖霊石の作り方。これは聖力を封じることができるもの。
500年以上生きたドラゴンの魔石を基盤にする。
それを聖水に130年以上浸し、神属性の攻撃を加え、瘴木の大きめの葉5枚。瘴木から魔を得た魔石5つ。世界樹の葉1枚。火ドラゴンの鱗(額に近いもの)1つ。これを一緒に煮込んでから、まる5日天日干しする。雨に濡らしてはいけない。
魔石は魔力の塊。聖水に130年浸すってところで聖力が入る。神属性の攻撃で神力が入る。瘴気の葉と瘴木の魔石から瘴気。火ドラゴンの鱗は魔物だから、魔力か瘴気。わかるのはそれぐらい。500年以上生きたドラゴンの魔石の魔力と、聖水に130年浸す、このどちらの方が比率が上かさえもわからない。読みとくのは無理だ。
でも、ずっと考え悩んでいて、ふと思った。聖力を封じる聖霊石。言葉で〝封じ〟と聞き、魔力封じの魔具と同じように受け止めていた。
魔具の魔力封じとは、魔力がその人から出ないように自身に封じさせるもの。魔具で封じられると、魔力がいっぱいにならないよう漏らさないと生きづらいわたしは、魔力の暴走を起こしそうになる。だから、自身に封じさせている、そういうことなんだと思う。
魔石で作る聖霊石は、魔具より玉に近いのではないのかと思う。魔具のように聖力を封じさせる何かを放出するわけでない。聖力を聖霊石が吸い取るのではないかと思う。でも吸い取る魔石を作るには比率が難しいのではないかと思う。ある物が足りないから、それを補うために吸い込む。
この本に載っているのは、力を吸い込んで、結果、封じるものなんだと思う。仮説だけどね。
そう、仮説。
まぁ、本当のところ、魔石も玉も違いはない。目的と状態が違うだけ。
世界は神力と聖力で均衡が保たれている。そして空気のように漂う魔素と瘴気があった。魔石の可能性に気づいた誰かが作り出していく。
封じ込めるための、吸い込ませる魔石を。
聖力を封じたいなら、聖力だけ足りない比率の魔石を。
魔力を封じたいなら、魔力だけを足りない比率の魔石を。
神力を封じたいなら、神力だけ足りない比率の魔石を。
瘴気を封じたいなら、瘴気だけ足りない比率の魔石を。
封じるための器が魔石なだけ。
それがいつしか、より時間のかからない安易な魔力を術式にして編み込む魔具へと変化していく。
魔石のように何かを差し引いてそこに吸い込ませるのではなく、対象に魔力が働くように魔力が編まれた。
時を経て。現在姿を現したのが〝玉〟。吸い込ませる魔石の応用。
吸い込ませたものを出せるようにしたのが〝玉〟。
なぜ魔石は比率の足りないものを吸い込むのか。
それは吸い込んだ状態が〝安定〟した状態だからだと思う。
安定した状態がプラマイゼロ。
安定していれば、動かない。発動しない。
それが器の状態で、比率は同率。これはたまたま、わかったことだけれど。
魔石という器に、聖力と神力と魔力と瘴気を同等に入れると、安定してスキルを入れることもできる器になる。それが土台。
その中に魔法やスキル、ギフトなどで起こる〝現象〟を入れ込む。
魔法やスキル、ギフトを使う時、魔力を失うから魔力が使われている。けれど〝現象〟が魔力を発しているわけではない。恐らく〝現象〟は魔力にカウントされない。だから中に入れることができる。
玉を使用するときは器のバランスを崩せばいい。少しでいい、魔力を与えれば、器のバランスは崩れ、中の〝現象〟が展開する。
それが玉の理論。




