第953話 わたしたちの王さま⑫バランス
「そういえば、リディア嬢、一昨日、帰る前に何かわかったって言ってなかった?」
「あ!」
ルシオに言われて思い出す。
「あ、もふさま、今、ここ大丈夫だよね?」
もふさまは呼ばれて犬のように一瞬顔をあげる。
『ああ、我らしかいないぞ』
言葉足らずだったけど、わたしが何を尋ねたかったかわかったようだ。
わたしは念のため盗聴防止の魔具を置く。
「11代目聖女さまの覚書きに、自分は9代目聖女とは違って、聖なる方に認められたわけではないからもっと努力しなくちゃ、と書いてあったの!」
わたしはリアクションを待ったが、誰も動かない。
「ん?」
「え? それがどうしたんだ?」
揃って首を傾げられた。
「だから、9代目聖女は聖なる方に認められたってこと!」
わたしは胸を張る。
だけれど、称賛の声が上がってこない。
ブライが不思議そうにしている。
「あれ? 聖なる方に認められたって? いや、聖女って女神さまから力を授かるんだよな? 9代目も女神さまからの力を授かっていたよな? だから聖女なわけだし」
わたしはその通りとうんうん頷く。
「あのね、もちろん、聖女になったのだから女神さまの力を授かってる。公文書では書かれていないけど、300年前にあたる11代目聖女さまの覚書きには9代目は聖なる方に認められた方だとあったの。
9、10、11代は、500年前、400年前、300年前と聖女さまが現れるまでの期間が短い。推測だけど、だから口頭で残ったんじゃないかな? 9代目聖女様は、聖なる方にも認められたのだと」
「そう覚書きがあるってことは、そう推測できるかもね」
みんな腕を組んだり、顎を触りながら頷いている。
「9代目の聖女さまはすぐに力を使えるようになった。他の人と違うところが必ずあるはず。11代目聖女さまのその覚書きを見た時に、これだって思った」
「それが違いってこと?」
わたしはアダムに頷く。
「仮説だけど。世界を創造されたのは見習い神さま。その後に見守ってくださってるのがラテアスさま。世界を育てていったのがいっぱいの神さまたちと聖霊さまたち」
みんななんでそんな話を今出す?って顔。
反応うすっ。
ちょっと、わたし重要なこと言ってるんだけど!
「その通りだと思うけど、それがどうした?」
イザークが首を傾げる。
「だからー。神さまと聖霊さまたちが喧嘩して疎遠になって、記録からは消えてしまっているけれど、世界を育てていったのはお二方たちの力があってこそなのよ」
ピンときてない。
ああ、もう、どういえば伝わるんだ?
「世界を育てていく時に、神と聖霊どちらの力も込めて作ったものだから、どちらも必要なものなの。どっちかじゃないの。どちらもなの。それが聖なる方が引っ込んでしまって表舞台に立たなくなっていって、バランスがますます崩れたんじゃないかな? それは仮定だしきっとわかることはないけれど。
でもどちらの力も必要だと思うのよ」
「それで?」
「9代目聖女さまが聖なる方に認められたってのが、本当のところなんなのかはわからない。
けど、聖女になるのが女神さまの力をもらうことなのだとしても、聖霊の力も本当は必要なんだと思うのよ!」
「……それは面白い着眼点だね」
「思いもしなかった」
アダムとダニエルがわかってくれたけど、他メンバーは反応が薄い。
立証できれば、すごく心強くいろいろなことに使えることになると思うんだけど。
「悪い、意味がわからない。そうだとすると、何がわかるんだ?」
イザークの眉根が寄ってる。
ブライはいつもこういうわからないことがある時、自分だけってのが身に染みていて肩身が狭いと思っていたのか、わからない人が他にもいて嬉しそう。
「アイリスさまが聖なる方にも認めてもらえれば、すぐに力を使えると思うの」
一瞬みんな黙る。
「でもリディー、聖なる方は地上には降りてこられないんだよね?」
兄さまに確かめられる。
「うん。でも、9代目聖女さまは500年前の方。この時も状況は同じはずなのよ」
「じゃあ、聖なる方に認められたってのが妄想ってこと?」
首を横に振って見せる。本当のところはわからないし、ある意味近いと思うけど。
「わたしはそれが〝聖獣〟じゃないかと思ったの」
「聖獣?」
みんながペタンとラグにひっついているもふさまを見る。
「500年前に聖女さまに認めると言ったり、そんなようなことがなかったかもふさまに聞いたけど、覚えがないそうよ。もしかしたら他の聖獣さまかもしれない」
「……推察の域を超えないね。それに認めるってのも、何を持ってそういうのかはっきりしないじゃないか?」
「ふふふ」
わたしが低く笑うと、みんなビクッとする。
「なんだよ、気味が悪いぞ」
気味が悪い? 覚えとけ、ブライ。
「11代目の覚書きを読んでから、9代目の聖女について思い返してみた。9代目の聖女さまって、ちょっと自信過剰なところがあるよね? それで思ったんだけど、選ばれたわけじゃなくて、関わりがあっただけとか、そんなことじゃないかと思うんだ。さすがに妄想は口にしていないと信じたいけど。
わたしが思ったのは、彼女はどんな状況で何があったかはわからないけど、聖力に触れたことがあるんだと思う」
「聖力に?」
「わたし今度アイリスさまに会えたら、聖力をかけようと思う。それでアイリスさまの力が安定したら、その考えは立証できたことになるでしょ?」
「ずいぶん自信があるようだね」
「わたし、この考え、聖女さまの授かる力に対してだけではないと思うの」
「どういうこと?」
ダニエルが鋭く言った。
「だからね、秀でていると、それだけが特化して見えるけど、本当に大事なのは土台のバランスなのよ」
「土台のバランス?」
「そう。人という土台だって、神力、聖力のバランスが整っていて、初めて特化した何かが使えるんだと思う。その上で神属性、聖属性の謎が出てくるわけだけど、それも後から説明する。
なぜ自信があるかというと、玉がその理論で安定して作れるようになってきたから」
「え、玉?」
「マジか?」
「ど、どうやって?」
「決め手はバランスだった。最初に引き算をしちゃダメだったの。
神力、聖力、魔力、瘴気をブレンドして世界樹の葉で安定させることが、まず必要だった!」
にっと笑いかけると、みんな瞬きをしていた。
本当は試しでやった同量で作ったものが成功したってだけなんだけど。
だから導き出せたんだけど。そこはわざわざ言わなくてもいいよね?




