第950話 わたしたちの王さま⑨不審点<中編>
「ラッペ隊長のおかしいと思ったところはどこだ?」
隊長は滑らかに話した。
「会場は警備もしておりますし、魔法も限られた者しか使用できないようにしてあります。まずそんな中で何かをしようと思うことからして無謀です。本気で害するつもりなら会場ではないところで、人の目のないところを選ぶはず。
幸せそうなお二人を目にし嫉妬に狂った激情型ならまだわかりますが、捕らえられた者は、脅されてやったと言っています。
だとしたら、これは殿下の婚約者を傷つけることが目的ではなく、そう見せかけてやりたいことがあったからと思われます」
ロサは軽く目を閉じて頷いた。
まぁ普通そう考えるよね。やっていることが無謀だから、目的は違うところにあるんじゃないかと。そこをおかしいとまず感じるよね。
「隊長は何が狙いだと思ったか?」
「婚約者発表の場で珍事が起こる。殿下の足を引っ張りたいか、首謀者と名前を出されたシュタイン嬢を貶めたいか、どちらかだと思いました」
なんだ、隊長はわかってるわけね。第三部隊の総意ではないみたいだけど。
「それから?」
その促し方はアダムと似ていた。妙な威圧感がある。
「どちらを目的としていたにしても穴がありすぎます。
あの者は自分が何をしたのかわかっているかが疑問です」
「年齢は?」
「15歳です」
「15なら物の分別はつくはずだ」
「はい、男爵家の娘です。成人していないとはいえ、それなりの教育は受けているはず。公爵令嬢に刃物を向けたら、未遂であり未成年といっても修道院行きで済まされるかどうかわかりません。その上、正式に殿下の婚約者と発表された後でした。公爵家や殿下の判断で処……重たい罰もあり得ましょう。
衝動的に嫉妬なら話は通りますが、脅されたという。
王族に連なる方に刃物を向けたら処刑だってあり得る。処刑より恐ろしい脅しがあるとするならそれがなんなのか悩みます」
あ、そっか。
やり遂げたとしても、やり遂げられなかったとしても、公爵令嬢に刃物を向けるんだ、成人してないとはいえただでは済まない。それも王子殿下の婚約者であるわけだから、処刑だってあり得る。
彼女がいうように脅されたとしたら、処刑よりもっと恐ろしい脅しだったってことになるね、確かに。
「あの者がシュタイン嬢のお名前を出しておりますので、関係者からは調書をとる必要がありました。同時に、あの者の周りで人質をとられ強攻したことも考え、男爵家と共に調べております」
ロサは軽く頷いた。
「では、シュタイン嬢の調書はもう十分に取れたのではないか?」
隊長がチラッとわたしに目を走らせる。
「ケルバー、調書は終わったのか?」
「……ほぼ終えております」
その時、ノックも中途半端に慌てた様子でロンゴ隊員が入ってきた。
「お待ちください! 重大なことがわかりました!」
頬が上気している。
「報告します」
と言って、隊長とケルバーさんにヒソヒソと話す。
話終わり、睨み付けるようにこちらを見てから笑った気がした。
「重要なこととはなんだ?」
「で、殿下。確認をしてからご報告いたします」
隊長さんは焦ったようにそう言う。
ロンゴ隊員は、意味がわからないというように隊長さんを見上げる。
「隊長、確認は私が取りました!」
「ロンゴ、隊長のいう通りだ。お前は執務室で待機しろ」
ケルバーさんも慌てたように言う。
ロサは少し目を細めてる。
「ロンゴ隊員、隊長に報告したことを私にも教えてくれ」
「殿下! お叱りは私が受けます。ですからどうか、確認する時間をください!」
「悪いな。私は今回の件、非常に頭にきているんだ。婚約者に悪意を向けられたこともだし、それを私と婚約者の友になすりつけようとしているところがね、いかにも姑息じゃないか。私が気に入らないなら、私に挑めばいい。それを!」
バッグが揺れる。
今、ロサ、声に魔力を乗せたかも。お腹に響く。圧がすごい。
「だから、今、私に意見するな。ロンゴ隊員、言ってみろ」
ロンゴ隊員は胸に手を当て、ハッと短く言った。
「デルコーレ嬢に脅してきた相手の服装を聞きましたところ、黄色をアクセントに使った青いドレスとのことで、シュタイン嬢のドレスと一致しました」
意気揚々と言った。
「……調書にとったのか? デルコーレがそう言ったのか?」
「ハッ、その通りであります」
ロサは一瞬わたしの方を見て、それから視線を上にして、天を仰ぐようにする。
「デルコーレがシュタイン嬢と会ったのはいつだ?」
「祝賀会が始まる前だそうです」
「シュタイン嬢、君は祝賀会が始まる頃、どこにいた?」
「……確かな時間はわかりませんが、バイエルン家に向かう馬車の中にいたと思います」
「だ、そうだが、ロンゴ隊員はどう思う?」
「ハッ、申し上げます。シュタイン嬢の家族には転移のスキルを授かったものがいるとか。その力を使って、会場に現れたのではないかと思われます!」
ノエルまで巻き込もうとしているの?
腹が立ってきた!
「あなた、転移のことをよく知らないのね。わたしの弟が王宮の中に転移することはできないわ」
「口でなんとでも言えますよね?」
「ロンゴ、不可能だ」
「隊長、どういうことです?」
「王宮の中で転移できるのは、唯一の室のみ。それもスキルを登録したものの魔力しか受け入れない。転移は所有者が行ったところのみ行けるもの。だから成人しておらず登録していないシュタイン嬢の弟ぎみが、王宮に転移するのは不可能だ」
一瞬怯んだ顔をしたけれど言い募る。
「でしたら、王宮の外まで転移できて中に入ったのです」
「祝賀会があり警備が厳重な中、誰でも検閲もなしに入れるものなんですか、王宮というところは?」
イライラしていたので少々意地悪な言い方になってしまった。
ロンゴは隠すことなくわたしを睨みつけてきた。




