第947話 わたしたちの王さま⑥調書<前編>
「王宮所属・第三部隊ロタール・ケルバーです」
「同じく王宮所属・第三部隊パメラ・ロンゴです」
わたしの調書担当となったのは、青い短髪のなかなかのイケメンと、ショートカットで口元にホクロがある女性隊員だった。髪は短くても胸がボイーンとしているのと口元のホクロでやけに色っぽい。羨んだわけじゃないけど、なんとなく嫌な感じがした。
マップには赤い点はない。危害は加えられずとも、注意はしておこう。
「お嬢さま、まずお名前を教えていただけますか?」
「……シュタイン伯・第三子、リディア・シュタインにございます」
「シュタイン嬢、お嬢さまにはある嫌疑がかけられています。正確な調書を取るため、先に詳しいことは申し上げられません。お嬢さまの嫌疑を晴らすためお尋ねすることですので、ありのままにお答えください」
「わかりました」
「まず、ご同行願った時に、騎士たちがお嬢さまたちに何をお尋ねになったでしょう?」
「騎士さまがいらして、わたしがわたしであるかを確かめられ、それからなぜバイエルン家にいるのかと尋ねられました。クラウスさまはクラウスさまの家であり、婚約者とバイエルン家にいても不思議はないのになぜそんなことを聞くのかとお尋ねになりました。
騎士さまは今日は祝賀会でしょう?と確かめられたので、クラウスさまは祝賀会にはいかず、バイエルン家にいる理由をお話しになられました」
あとなんだっけ?
「それから、わたしとずっと一緒だったかをお確かめになられましたわ」
えっと、それから……。
「わたしにお話がおありなようでしたので、何かを尋ねました。そうしたらバルバラ・デルコーレ男爵令嬢をご存知ですか?と聞かれましたの。お答えしますと、デルコーレ令嬢が祝賀会で刃物を振り回したと聞きましたわ。わたしにはデルコーレ嬢のこと。それとわたしたちふたりに今日のことで調書を取りたいと言われましたの。それで今ここにおります」
ケルバーさんはゆっくりと頷いた。
「お尋ねすること、お話ししていただくことが重複すると思いますが、ご勘弁ください。バルバラ・デルコーレ男爵令嬢のことをご存知なのですよね?」
「先ほども申し上げましたが、手紙を3回ほどやり取りをしました」
「どんな内容かうかがっても?」
「お茶会の招待状をいただきました。不参加の返信をしたところ、祝賀会には行くかと手紙をいただきました。参加するつもりだと答えましたら、その時に会いたいと書かれていました。でしたので、お会いできたらいいですねと返信しました」
「お嬢さまは会ったこともないデルコーレ嬢をお嫌いなんですか?」
色っぽい女性隊員の問いかけは、どこが棘があるように感じられる。
わたしはロンゴさんをしっかり見据える。
「常識から外れていらっしゃるので警戒はしていました」
「常識から外れる、とは?」
ケルバーさんの声が鋭くなり、前のめりになる。
「デルコーレ嬢は学園生ではなく、面識はありません。初対面の方が間に誰かを介さずに招待状をいきなり送ってきたので、型破りな方なのだと思いました」
「警戒した方と会う約束を取り付けたのですか?」
とロンゴさん。
「いいえ。祝賀会でもし会うことができたらいいですね、としか申しておりません」
ふたりは目配せをする。
「では、今日、家を出られてからのことを教えてください」
「家族と一緒に家を出ました。わたしは婚約者の馬車に乗りました。途中でガクンと馬車が止まりました。クラウスさまが様子を見てくると馬車を降りました。少しして戻ってきて、穢れに触れたから祝賀会には行けなくなったとおっしゃいました。恥ずかしながら慶事における〝穢れ〟の知識がなかったので、クラウスさまよりどういうことか説明いただきました。
第二王子殿下に連絡を入れるのは水を差すことになるので、友人のダニエル・エディスンさまと、わたしの父にその旨の伝達魔法を送りました。
父と兄たちは祝賀会に参加、使用人たちは休暇にし、シュタイン家は誰もいないため、クラウスさまの王都の家に行きました」
「穢れとはどんな穢れだったのですか?」
「小鳥が馬車の前に落ちてきたと聞きました」
わたしは少しだけ目を伏せる。
「バイエルン家に行ってからのことをお聞かせください」
? 変なの。家にいたかの確認? 兄さま以外の館の人たちにはもう聞いているだろうし。わたしが家にいたのはわかっていることだろう。
「食事をいただいて。そのあとお茶を」
「お嬢さまたちが屋敷にいたということを証明してくれる人や、何か他に出来事はありませんでしたか?」
不審気な顔をしたためか言葉を足してくれる。
「お嬢さまが不利になった時、婚約者、それからその婚約者が主人である屋敷の使用人の証言では弱いことがあるのです」
裁判になるのが前提かよとちょっと思う。わたし首謀者説が有効に思えてるってことだろう。
「人ではありませんが……神獣さまがいらっしゃいました」
「は?」
「陛下や第二王子殿下もご存知の神獣さまです。わたしのことを心配してくださっていて、地上に久しぶりにきて探してくださったそうです。
領地の家に行ったけれどわたしの気配はなく。妹が神獣さまに気づいてわたしは王宮の祝賀会に行っていると告げたそうです。神獣さまは王宮に行ったそうですがわたしの気配はなく、探るとバイエルン家に気配がある。何かあったのかと思って、窓を割って入ってきたのです。バイエルン家の執事さんと何人かのメイドさん、使用人さんたちが、大きな神獣さまのお姿、それから割れた窓を見ていると思います」
「神獣はよくお嬢さまに会いに来られるのですか?」
「いいえ。神獣さまの手が空いて、気が向かれた時ですから、そうあるわけではありません」
「お嬢さまがバイエルン家にいたと証明するのに、うってつけの時にいらしたのですね?」
何か細工があるのだろうと言わんばかりの意地悪な言い方だ。
「わたしはしがない人族ですので、神の御使いさまの動向は計り知れませんわ。ロンゴさまはおできになるから、そうおっしゃるんでしょうけど」
ロンゴさんの目が見開かれる。まさか14歳の小娘に嫌味を言われると思わなかったんだろう。
「ロンゴ隊員が失礼な物言いをしました、申し訳ありません」
ケルバーさんが謝った。




