第945話 わたしたちの王さま④濡れ衣?
兄さまは執事さんを下がらせた。
フォンに出ると、アダムの焦ったような声。
「君、無事だよね? 誰とどこにいる?」
「今、兄さまと一緒で、バイエルンの家にいるわ。スピーカーにするね」
ことわってからスピーカーにして、バッグから出した耳飾りのフォンをテーブルの上に置く。
「フランツいるのか?」
「ああ、私の家だ。穢れにあったので祝賀会に行けなくなった。ダニエルとシュタイン伯には伝えてある」
「そういうことか」
「どういうこと?」
「僕は顔を知られている人がいるから祝賀会には参加していない。パーティーの様子は魔具が録画していく映像を見ていた。
ブレドが婚約したことが正式に伝えられ、二人揃って挨拶をした。
その後、人が次々とふたりへと挨拶に訪れ、その最中にある令嬢がいきなりセローリア令嬢に刃物を振りかざした」
は?
つぎはぎの情報がひとつになっていく。
リノさまがご無事なことを知っていたけど、なんてことだ。
当たり前だけど、ロサに弾かれ、衛兵に捕らえられたそうだ。
リノさまに怪我はないようだけど、驚いたみたいで、ロサの腕の中で気を失う。
捕らえられたのはバルバラ・デルコーレ男爵令嬢。
「デルコーレ男爵令嬢?」
わたしは聞き返す。
「そうだ。君が今日祝賀会場で会うと言っていた令嬢だ」
わたしと会うはずだった娘がリノさまを刃物で?
「な、なんでそんなことを!?」
「デルコーレ嬢は、弱みを握られ君に脅されてやったと大声で叫んでいた」
はい???
「わたしそんなことしてない!」
「そんなことはわかっている。けれど多くの人の前でそう叫ばれてしまった。
衛兵も君を探したが君はいない。シュタイン伯たちも事情を聞くのに連れて行かれた」
「と、父さまたちを?」
「同時に君たちを探している。ブレドが君を心配していて、連絡をもらったんだ。君は、今日王宮には来ていないんだね?」
「うん。穢れに触れて、そのままバイエルン家に来た」
「わかった。また連絡するから、ひとまず動かないで。いいね、フランツ」
「わかった」
兄さまは執事さんに指示を出すためか、部屋から出て行った。
『どういうこと?』
『なんか悪いこと?』
アリとクイが心配そうにわたしを見上げる。
「嵌められたっぽい」
『なぁに、何があったの?』
「まだよくわからないんですけど、祝賀会で第二王子殿下の婚約発表があって、そこで婚約者の令嬢が刺されそうになったそうです。その刃物を振りかざした令嬢は、今日わたしが祝賀会で会うことになっていた娘で、わたしに弱みを握られやらされたと言っているようです」
『リディアがしたことなの?』
「いいえ」
『そう疑われそうってこと?』
「はい」
『なら、問題ないわ。もし、どうしても困ったことになったら呼びなさい。真実を見せてあげるから』
フレデリカさまはそう言う。
わたしはなぜだか唾を飲み込んでいた。
フレデリカさまは今日は時間ができて地上を見てまわり思い出し、わたしの気配がないかと探してくれたそうだ。
特に用事があったわけでもなく、わたしの無事を確かめられた。美味しいお菓子も食べられたし、お酒も美味しかった。だそうで、来た時と同じように唐突に帰って行った。
今度は窓をすり抜けて。
兄さまが部屋に入ってくる。
「父さまにフォンしてみようかな?」
気が急いて、事情を知りたいし、連れて行かれたというのも心配だ。兄さまに判断を仰ぐと
「取り調べを受けているかもしれないから、今は連絡を取らない方がいいだろう。リディーのパートナーは私だから、家に騎士がくるはずだ。それまでに何かわかるといいんだが……」
と眉根を寄せた。
「どうやってわたしのせいにするつもりなんだろう?」
手紙で脅したり、指示した、とか? 手紙を捏造されたなら、それを捏造されたものだと証明できるかな?
「今までに会ったことはない?」
「手紙のやり取りだけ。お茶会の招待状をいただいた。わたしやシュタイン家にコンタクトとってきた人はアダムが全員調べてくれてる。デルコール家に問題はないってことだった。
学園生なら爵位は関係ないけど彼女は学園生じゃない。男爵家が間に人を入れず伯爵家にいきなりお茶会の招待ってのも引っかかって。お茶会には行けないけど、またの機会にって返事をしたの。そうしたら、祝賀会には行かれますか? もしそうならそこでお会いできませんかって手紙をいただいた。それで、もしお会いできましたらいいですねってお返事したの」
「その手紙は持ってる?」
わたしは頷く。
フォンが鳴った。
「アダムから」
兄さまに伝えてフォンをとり、スピーカーにする。
「騎士が向かってる」
第一声に息をのむ。
「聞いてくれ。でも大丈夫だ。いいか、君たちは騎士に尋ねられたことに、ありのままを答えるんだ。僕と連絡取ったことだけは黙っていて。僕には見えている。絶対に君が首謀者とされることはない」
「え、どういうこと?」
「いいかい、訪ねて来た騎士たちには驚いて、素直に答えればいい。真実を」
そういってアダムのフォンは切られた。
わたしと兄さまは目を合わせる。
息を静かにはくと、ノックがあった。
もふさまとみんなはぬいぐるみになった。
わたしは急いでバッグの中にみんなを入れる。
「旦那さま。騎士が来ております」
「通してくれ」
兄さまとアダムから連絡があったこととblack経由できた情報、祝賀会中にリノさまが襲われたということは知らないことにしようと決めた。あとは素直に話そうと。
少しすると、執事さんの後に、騎士がふたり入ってきた。
「バイエルン侯、失礼します」
そう頭を下げ、隙ない視線で部屋を見渡す。
そして王宮の騎士で第三部隊だと名前を言った。
礼をしてから、わたしに視線を移す。
「バイエルン侯爵さま、こちらの令嬢はリディア・シュタイン嬢で間違いありませんか?」
「おふたりは何故こちらに?」
騎士たちから問いかけられる。
「ここは私の家です。婚約者と一緒に家にいて、何かおかしなことが?」
兄さまが立ち上がった。
「今日は祝賀会です。ご参加されなかったのですか?」
「……途中に穢れに触れ、それで家に戻って来ました。友人とシュタイン伯にその連絡を入れましたが……」
騎士のふたりは顔を見合わせている。
「それは確かですか?」
「何をお聞きになりたいんです?」
兄さまは質問で返す。
「シュタイン嬢とずっと一緒ですか?」
「そうですが、それが何か? なんなんですか、あなたたちは?」
憤慨したように兄さまが言った。




