第931話 Get up㉒一対一
「勝ち抜き戦なら、ゴーシュさまの独壇場になってしまうわ」
エリーがズバリ言った。
皆の視線がアダムに集まる。負けるまで試合を続けることになるわけだけど、アダムなら永遠に勝ち残っていそうだ。
みんな異論はなかったので、なし崩しにアダムの順番は最後になった。
自分やみんなの強さもわかっているので、弱い順にすんなり決まる。
わたしはアダムの次に強者と判断されたけれど、体力のないことから真ん中になった。
最初はラエリンとライリュートン嬢の戦い。力が拮抗していたので、なかなか勝負がつかなかった。ふたりの呼吸が乱れた頃、ラエリンがライリュートン嬢に足をかけ転ばせ、剣を突きつけ終わりとなった。
次はラエリンとイシュメルの勝負。
剣を合わせイシュメルがパワーで圧勝。
アマディスが挑戦者となる。アマディスがパワーの剣を避け、飛び道具でイシュメルに膝をつかせ参ったと言わせた。
勝者アマディスがユリアさまと戦う。アマディスはやりにくそうだったけど、接近戦でユリアさまの剣をすべて払い、ついに参ったと言わせた。
わたしの番だ。風を使ってアマディスを倒した。接近戦でも力で勝てそうになく、遠くにいると短剣が飛んでくる。だから速攻で風攻撃。うまくいき倒すことができた。
次はニヴァさまと勝負だ。アマディスとの対戦を見られているから、風攻撃は抑えられる。なのでこちらは水魔法で足止めをし、短剣を何度も繰り出す。避けることで精一杯にさせて攻撃を封じた。風で剣を巻き上げ、降参させる。
さて次はエリーだ。けれど息があがっていたこともあり、足がもつれてしまい、すぐに負ける。学園では〝魔力そんなない〟設定が生きているので、魔法の大技を使うわけにもいかず、個人戦となると魔法で封じ込める戦いはできず、難しかった。
エリーとアダムの試合。
アダムはエリーからの攻撃をすべていなす。魔法さえも。
エリーが決めの大技とばかりに繰り出した時、剣を弾いて終わった。
そこからアダムの独壇場だ。
アダムは魔法は使わないと決めているようで。
そこにちょっとムッときたが、それでも十分強かった。
みんなの攻撃をすべて受けていなす。それで最後に勝つ。
ひとり抜き、ふたり抜きと勝ち数を増やしていっても、息も乱れてない。
とうとうわたしの番になった。
先ほどの疲れはとれた。
ちょっとワクワクする。
アダムと戦うなんて、そうないことだからね。
わたしとアダムの力量は天と地ほどの差がある。それはわかっているけど、一度くらい、魔法を使わせてやりたい。
わたしが使えるとしている属性は、風と水。一番魔力を使わないそれぞれの魔法は風を起こすことと、水は出すこと。それから魔法は単体で使わないといけない。
負けて次の挑戦者に勝負を託した人が審判となり、試合始まりの声をかける。
ユリアさまが「始め!」と言った。
わたしは直径50センチの水玉を作り出し、アダムの足から離れないよう操作する。歩行困難を狙った。パワーの差がありすぎて、接近戦はすぐにアウトとなるから。
アダムはわたしの目を見て、考えたねというふうに笑う。
水玉を出している間、風魔法は使えない。アダムの後ろにまわり、短剣で攻撃。
ゲッ。こいつ動きにくいだろうに、水玉をつけたまま蹴りをしてきた。
蹴りを飛んでかわして、リボンを使う。攻撃用のリボンだ。マントの肩に通しておいたやつだけど、今は短剣にくっつけといた。
アダムは急に現れて、自分を縛ろうとしたリボンに驚いたようだけど、慌てず騒がず、剣でその戒めを解く。
水を解いて、風の渦巻の中に閉じ込める。
お、表情が変わった。
え?
わたしは吹っ飛んだ。尻餅をつく。
嘘、風の渦巻きをパワーだけで切り裂いた?
「風ってこうして使うんだよ?」
風の渦巻きだ。わたしと違う中央まで風を通してない渦巻。それはわたしが息を普通にできるということ。風の渦巻きは上に吹き上がる。どこまでも。
円の中で戦う規定はあるけど、天地の上下の枠は指定されなかったものね。
上へ上へ。こ、降参するまで上にあげるつもり?
後のことを考えず、思わず剣で風を裂こうとしたけれど、風は渦を巻き上を目指し、どうにもならない。
わたしは1メートルの大きな水玉を作り出して、それを目測でアダムのところに落とす。
風は緩まない。
となれば捨て鉢だ。
反対方向の渦巻きをアダムの渦巻きと反対方向に作り出す。
魔法が拮抗したんだろう。風の渦巻がなくなった。
風の魔法で押し上げられていたわけだから、それがなくなればわたしは落ちる。ただかなり上に飛ばされていたから、落下速度は早かったものの間に合った。
地面に激突する前に風の逆噴射。と、地面に穴が掘られていた。
焦った顔のアダム。
……土属性使えるの秘密にしているのに、使ったんだ。
わたしを怪我させないために。
「降参」
アダムが言ったところで、先生の終了の合図があった。
「え、なんでアダムが降参なの?」
わたしが言おうと思ったのに。
「魔法を使ったら、降参と決めてたんだ」
アダムはにっこりと笑う。
手を差し伸べて立たせてもらう。
「君は実践を経て、学び取るんだね。もっと強くなれる。レベルアップってそういうこと?」
「含まれるけど、ちょっと違う。
けど、予想外だわ、褒めてもらえたのは」
アダムからもっと強くなれると言われたぞ。実践で学び取るとも。
捨て鉢攻撃だったんだけど、それが強くなる秘訣かな? うーむ。




