第924話 Get up⑮ナチュラル
みんなとは、また明日学園でと、転移門のところで別れた。
ガーシが馬車を調達してきて、それに乗って王都の家に帰る。
フランツの怪我は、領地の外れの家に行き、お母さまに治してもらった。
そのまま外れの家で夕ご飯を食べ、王都の家に戻る。
フランツはバイエルン家の仕事があると、王都にあるバイエルン家のセカンドハウスに帰るという。
わたしは呼び止めた。
「フランツ、話がある」
「ん?」
居間からアルノルトをはじめ、お兄さまたち、ぬいたち、もふもふまで出ていく。
え。そんなすごい話をするわけじゃないんだけど。
「どうした?」
すっごく優しい瞳。
「わたしが思い出さなくてもいいの、嫉妬も入ってるって言ったでしょ? あれってどういう意味?」
「ああ、それか……」
フランツは形のいい口を開け、何か言いかけて止めるを2回繰り返した。
わたしはフランツが話してくれるのを待つ。
「ああ、ごめんね。どう言葉を選んでもかっこ悪くて。
……言葉通り、本当にただの嫉妬だ。
記憶を取り戻したら、そんなんじゃないと君は否定するだろうけど。
……君と第1王子殿下には繋がりというか、因縁めいたものがあって……ある意味、絆があるように思える。そんな絆を君に思い出して欲しくなかったんだ。
第1王子殿下は亡くなっているのに、君と絆があるのが嫌だった。それなら彼の方のことは思い出さなくていい、そう思った。かっこ悪いだろ?
……どんな君でも私はなぜだか惹かれてしまう。
君は何時も、そして何にも縛られなくていい。自由でいいんだ」
そう引き寄せて、わたしのおでこに口を寄せた。
とても自然に。
「朝晩は冷えるようになったから、あったかくして寝るんだよ? それじゃあ、おやすみ。寒いから見送りはいいよ」
そう背を向ける。わたしの頭を撫でて部屋を出る。
アルノルトに声をかけ、遠ざかる足音を聞いていた。
13歳。
思春期、真っ只中。
恋に恋するお年頃でもある。
婚約者がいるって言われたって、異性のことを考えてしまっても仕方ないと思う。
周りにいる人たち素敵だしさ。
みんな本当にそれぞれ素敵なんだよ。
ブライは考えるより体を動かすことの方が得意だ。
男気があり、さっぱりしている。バイタリティーと瞬発力もある。
彼は不快ワードさえも明るく力技で吹き飛ばすようなエネルギーがある。
ダニエルは知的寄り。先を見据える目があり、人を言葉巧みに動かすことができる。それもその人は動かされたこととは思わせずに。策略が黒いこともあるけど、目的達成のためには厭わない。ただの黒い人ならそうは思えないけど、彼にはそれをする覚悟があり、やりぬき、また責任をとるまで行動できる人。
わたしたちの起こした様々ないざこざを、謝罪、牽制、お金、脅しなどベストなチョイスで尻拭いしてくれていた。頼りになり、また頼った重さを感じさせない人。
イザークは無口だ。あまり自分の考えを語らないけれど、意志の強さは誰よりも。時として事実というのは人を傷つける。そうだとしても彼は事実と真っ直ぐに向き合う。何があっても変わらない、変えない人。融通が効かないとも言われてしまうけど、彼を見ていると姿勢を正すことができる。正しい道を選ぶ人。
ルシオはただ優しいだけじゃない。信仰を持ち、祈り、未来を信じることで明るく照らす人。自分から意見を言う人じゃないけど、いつもしっかりとした考えを持っていて、誰よりも自分に難題を科している気がする。
ロサは全てを見据える人。天からの視点を持っているんじゃないかと思うときがある。人を従わせる何かがある。人望というか、この人のために何かしたいという思わせる気になる、何かを持ってる。
アダムは視界が広い。動物は目の付き方や形状で広さに差が出る。
その目がやっぱりロサと同じように天についているんじゃないかと思えることがある。即決力がすごい。底知れない人で、能力が高い。
フランツは一見冷たく見えるけど、とても温かい人。そしてとても真面目。物事の本質を捉えるのが早く、それにより決断も早い。我慢強くて、心の動きを大切にしている人。だけど、ちょっと怒りっぽい。細かいところに目が行きすぎ。
クラスでももっと仲良くなりたい子はいっぱいいる。
みんなそれぞれにいいところがあり、尊敬してる。
みんなの顔が浮かんでは消え、フランツの顔がまた思い浮かぶ。
……記憶を失う前のわたしは、フランツのことをどう思っていたんだろう?
どんな関係だったんだろう?
妹のような子が王子殿下と絆があったように思えるからって嫉妬するもの?
だから思い出さなくてもいいと思うもの?
第1王子との関係も無茶苦茶だよな。
生きて欲しかったって、何それ。呪いの剣がって言ってた。
なに、その剣で呪いを達成しなくちゃ、わたしが命を落とすような状況だったとか言うわけ?
だ、か、ら。それ、どんな状況だよ、全く。
わたし、なに考えてるんだ。それがどんな状況だったとしてもなにも変わらないじゃん。
だってフランツには大事な人がいるんだから。
そう、わたしは妹。
……罪作りなヤツ。
お風呂に先に入ってと言われたので、もふもふたちと一緒にお風呂に入る。
部屋に戻ると、みんながベッドで飛び跳ねながらわたしを気にする。
『リディア、どうした?』
もふもふに尋ねられる。
「え? どうしたって、どうして?」
顔に化粧水をなじませながら、尋ね返す。
『口数が少ない』
『リー、しゃべらない』
『リー、おとなしい』
そ、そうかな?
『知ってるぞ。そういう時、リディアは考え事をしてるんだ』
「迷うのが好きなんでち」
迷うのが好きって、好きで迷うわけではなく、迷うのは不可抗力なわけで……。
でも誰かからみれば、ぐるぐると考え事をして、迷ってばかりで迷うのが好きなのかって思われるってこと?
「そんなんじゃないよ、思い出したいって思っただけ」
『思い出したい?』
「うん。リディアのこと。みんなのこと」
「兄さまを刺した時のことをでちか?」
アオがわたしの胸にぴょんと飛び込んでくる。
「ま、それもだよね。眠ろっか」
みんなでベッドに入り、儀式のようにぴょんぴょん弾む。少し楽しんでから、布団の中に入りこむ。




