第923話 Get up⑭油断
「リディア嬢、今、土魔法を使った?」
ロサが首を傾げている。
そういえば、属性は水と風と公表してると家族から聞いた気がする。
「君、もしかして、属性2つをいっぺんに?」
アダムが驚いた声を上げる。
え?
なんかまずった?
身内を見ると、アランお兄さまは頼りなげな笑いを返してくれて、ロビンお兄さまはわたしに親指を突き出す。よくやったとサムズアップ。
「そうだね。風と土を使ったけど?」
あっちの方でブッタと戦っているフランツがため息をついている。
「「「「「「ふーーーーーん」」」」」」
「リディア嬢、普通、魔法はね、ひとつの属性を使うので手一杯なはずなんだ。この面子以外のところではそんな使い方しないようにね」
アダムはそんな講釈をしてくれながらも、筋肉質な大きなルギーを剣で一刀両断した。
「おい、集まり出した、気をつけろ!」
イザークの注意が飛ぶ。
言われてそちらを見れば、残っていたホルスタたちが集まっている。
みちみちと固まって。
これって合体?
恐ろしくもあったけど、わたしはなんとなく、もっと強い別のものになるのを想像した。
けれど、それは……大きい。……残ったホルスタたちがくっついたんだもん大きくなって当然なわけで。
そう、それはあくまでも大きなホルスタに変わりはなかった。
ガッカリ……したのはわたしだけじゃなかった。ありがたいはずなんだけど、なんかもっとすっごいものを期待してしまったので、みんなの「なんだよ、ボスってただの大きいホルスタかよ」感がすごい。
デカホルスタは総攻撃を受け、あっけなく倒れた。
屍がキラキラと光となって消えお宝が現れる。
お肉、ミルク、バターや生クリーム、その他に各種革が大量に。
革もでるのかーとそのひとつを手に取る。
後でみんなで分けることにして、収納袋に入れていった。
部屋を出ると、入る前よりワントーン世界が明るくなっている。
ボスを倒したからかな。
お、木の枝が絡まってできたボス部屋の枝から上に上がれるようになっている。
どうする、ちょっと覗いてく?
気が緩んでいたというのが正しい。
ボス部屋もあっけなく終わり、9階も切羽詰まったことにはならなかったので、ちょっと覗いてみようなんて、軽い気持ちで枝が絡んで作り上げた梯子を登っていた。
10階に降り立つ。
古城の中って感じだ。ところどころ光が差し込んでいる石造りの通路。
馬のいななき?
ヒヒーンという鳴き声に、みんながそちらを見た。
騎士だ。真っ黒な馬に全身鎧に身を包んだ騎士が乗っていて、剣を持った片手をあげていた。
なんで城の通路を馬で走るんだって感想が出たけど、それはおいておくとして、すかさず鑑定。
「アイアンナイト。鉄の騎士。戦うためだけに作り出された鉄の戦士! 強い攻撃しか効かない。後ろからくるのがマジックナイト。鉄の騎士の魔法を使ってくるやつ!」
探索で見ると赤い点がうじゃうじゃと、こちらに押し寄せている。
馬に乗った騎士が槍を投げてくる。もふもふがトラライズになってマジックナイトに噛みついて馬からおろし、馬も後ろ足で蹴り上げた。
馬が漫画みたいに飛んでいく。
うじゃうじゃうじゃうじゃ、鎧の騎士が集まってくる。
槍が飛んできた。わたし目がけて飛んできたそれは、見えない壁に当たって落ちた。シールドだ。
みんなそれぞれに持てる力で攻撃している。
わたしも魔法を使った。
新たな敵には鑑定をかけ、有効な攻撃法を大きな声で伝えた。
もふもふやぬいたちも交戦しているけど、なんせ数が多い。それも幅は広いけど廊下のようなところで戦っているので、味方に当たってしまいそうで、思い切った攻撃ができないもの辛い。
ガーシとシモーネもわたしの護衛としてではなく、戦力として参加してもらう。
もふもふがかなりの数を倒していく。マジックナイトがもふもふに魔法を放つ。もふもふはその白い魔法に噛みついた。ほぼ霧散し、いくつかの細い光の矢があらぬ方に飛んだ。そのひとつがわたしに向かって!
「リディー」
え?
フランツに抱えらえた。フランツの肩から血が出ている。
「なっ」
「怪我はないね?」
痛まないはずはない。だって血がでてるんだもの。なのになんで笑うの?
わたしはフランツの肩に光魔法をかける。
塞がりが遅い。
いっぱい魔力を使ったからだ。魔力は多い方だけど、遠慮なく使ってたから肝心な時に。
「ありがとう、楽になった」
「ごめん、魔力が残り少ないみたいで」
「いや、問題ないよ。敵の残りはどれくらい?」
目の前に広がるマップを見る。
!
わたしは大きな声をあげた。
「ここの残りは6体。向こうの通路にまた敵が集まってきてる。こっちにくるの時間の問題」
「退却しよう」
ロサが即座に言った。
「僕とブライ、レオで時間を稼ぐから、後は下に戻って」
それを受けて、アダムが指示を出した。
ロビンお兄さまが先陣を切って通路を確保する。
「まず、リー、来い」
フランツに押しだされて、わたしは入ってきた窓枠を乗り越える。木の梯子に手をかけて一段ずつ降りていく。
グズグズしているとみんなに迷惑をかけるからなるべく早く。
9階にたどり着いたとき、膝が笑っていた。
アオが降りてきて、ガーシとイザークは途中で飛び降りる。
ルシオとダニエルとシモーネは梯子を降りてくる。
ベアが飛んで着地。真似てアリとクイも。
ロサとアランお兄さまとフランツが途中から飛び降りる。
ブライとアダム、レオが、ほぼ上から飛び降りてきた。
もふもふもしんがりを務めて降り立つ。
負傷者はわたしを庇ったフランツのみ。
セーフティースペースで治りきらなかった傷の手当てをする。
そして脱出口から外に。
夕暮れが始まろうとしていた。




