表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

919/1169

第919話 Get up⑩ハード・ハーダー・ハーデスト

『リディア』


 誰かに呼ばれてる?


「もふもふ?」


 もふもふの声だ。目をこする。


『大丈夫か?』


 大丈夫? えっとなんだっけ。ここは?

 寮じゃない。王都の家でも町外れの家でもない。


『ここは王宮の地下だ。庭園でお前は悲鳴をあげ倒れた』


 え?

 あ、ああ。


「大丈夫でち?」


「アオ、大丈夫だよ。驚かせたね」


『リー』

『リー』

『顔色が悪いですよ』


 ベアの言葉に顔を触る。触っても色はわからないんだけど。


『どうしたんだ、一体?』


「……アダムの顔を近くで見たら急に怖くなって……わ、わたし誰かを刺したことがあるのかもしれない。フランツが真っ赤に染まって。剣を刺した時の感触が」


 両手を見ると、血に染まってはいないけれど微かに震えている。

 それに、他にも倒れた誰か。動かなくなった誰か……。女の子の姿も……見えたような……。


「両手が血塗れに見えた。わ、わたし、それが怖くて、思い出せずにいるのかもしれない」


『それは違うよ』


「違う?」


『誤解は早いところといたほうがいい。な、主人さま?』


 レオがもふもふに同意を求める。


『我もそう思う。奴らも心配しているし、そう話してみるのはどうだろう』


「みんなを呼んでくるでちか?」


「わたしが行くよ」


 ベッドから降りる。

 深呼吸する。手にどろっとした血の感触があった。

 押し戻される抵抗を感じながらも、ズブっと入ったリアルな感覚。


 わたしはみんなに支えてもらうようにして、先ほどの部屋へと赴く。

 ノックをしてから入ると、みんながこちらを見ていた。


「大丈夫か?」


 駆け寄ってきてくれたのはお兄さまたち。わたしをソファーに導いてくれた。


「思い出した?」


 イザークに首を横に振る。


「思い出してはいないのだけど、聞きたいことがあって」


「うん、どうした?」


 ロサが促してくれる。


 アダムとフランツはわたしから一番遠いところに腰掛ける。

 明らかにふたりを見て、悲鳴をあげたもんな。


「思い出したわけじゃないんだけど、一瞬映像が浮かんだの」


 聞こうとして手が震えだすと、もふもふがタンと膝に乗ってくる。

 ぬいたちもわたしに寄り添ってくれた。


「わ、わ、わたし、人を……刺したんじゃないかしら。

 け、剣で刺した時の、か、感覚と。血塗れの誰かと、血塗れのわたしの手が見えた。倒れた男女も……。わ、わたし誰かを刺して、死なせてしまって。それを忘れたくて記憶が戻らないのかも」


「それは違う!」


 フランツが叫ぶように言った。


「リディー、私が怖いかな? 近くに行っていい?」


 わたしは頷く。

 フランツがわたしの足元で膝をおり、わたしの両手を掴んだ。


「リディーは悪くないんだ。リディーの心の傷を作ったのは私だったんだね。本当にごめん。違うんだ。私がリディーの剣を持つ手を持って、自分を刺したんだ」


「え?」


 ど、どういう状況?


「君は苦手な瘴気に操られて、呪いのかかった剣を手にした。その剣は私を刺す呪いがかかっていた。君はそれに抗って。……私はその手を持って、自分を刺したんだ。

 あの時私は、君に生きて欲しいと思って、その気持ちだけを優先して、君の気持ちを考えなかった。優しい君が、呪いだとしても私を刺してしまった後のことを思いやれなかった。生きていてくれればいいと思ったんだ。君が今も傷ついたままだとは思わなかった」


 呪いの剣? 刺した?

 ああ、やっぱりあの手の感触は、剣で人を刺したんだ。

 目眩で倒れられたらいいのに。ぐわんと頭の中が回るような感覚に耐えながらきく。


「そ、その傷は大丈夫なの?」


「私が自分で刺した傷は、リディーが光魔法で治してくれた。リディーは何ひとつ悪くないんだ。私が自分で」


 そう声を詰まらせたフランツの背中をロサが叩く。


「リディア嬢、フランツの言ったことは本当だ。

 あの時は、君かフランツが……」


「私が間違ったんだ。リディーに深い傷を残してしまった」


 フランツが遮るように大きな声を出す。


「もふもふ、ぬいたち、ふたりの言ったことは本当? わたしは他の誰かを刺して、死なせたりしてない?」


『ああ、フランツがリディアの持つ剣で自分を刺したんだ』


 な、なんでそんなことを……。

 いや、話は聞いたわけだけど。

 わたしは立ち上がる。


「ごめん。いっぱいごめん。けど、寝る」


 みんな目が大きくなった。

 いや、意味わかんないよね。

 わたしもわからないもん。でもキャパオーバー、消化できない。

 もふもふたちに支えられながら、また部屋に戻る。

 簡素なワンピースでよかった。ドレスだったら眠りづらい。

 わたしはベッドに飛び込んだ。


「ごめん、本当に寝る。1時間ぐらいで起こしてくれる?」


 アオが引き受けてくれた。

 ベッドの中で目を瞑る。

 呪いの剣って何よ、リディア、ハードすぎるでしょっ。





「リディア、1時間経ったでち。夕方でち。帰らないとでち。それとも泊まるでちか?」


 泊まる? その単語で飛び起きる。


「起きた」


『大丈夫か?』


 レオが不安そうな声だ。

 フーと息を吐く。


「まだ混乱しているけど、落ち着いてきた。ごめん、心配かけたね。みんなにも謝らないと」


 人を刺した件はとりあえずわかったけど、アダムが怖く思えたのはなんでだろう。いっつも守ってもらって、あの時も支えてもらったのに、すっごい失礼だった。

 ノックをしてドアを開ける。

 みんなの視線が集まる。みんな不安げな顔をしていた。


「ごめんなさい、心配かけて。

 急に映像が見えて混乱しちゃったの。その過去の話、今じゃなくてもいいから詳しく教えて。ただ怯えるのは嫌だから」


 そう言うと、アダムが弱々しく頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
何度でも言っちゃうけどやっぱり剣を奪うなり気絶させるなり時間を稼いでトルマリンさん呼ぶなり、まぁ何でも良いけど他の方法を模索すらせずリディアの手を使って刺したの、ないわ〜〜って思うな。 フランツは余裕…
あまりに記憶を無くした状況と似ていたのでまさか…と思いましたが目を覚まして良かったです。 フランツの一件もかなり心に刻まれているみたいですし立ち直って欲しいですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ