第910話 Get up①囮のペナルティー
今日も今日とて王宮。
って今日はわたしが召集をかけてもらったんだけどね。
玉のこと、聖樹さまから聞いたことなどでいくつか報告したかったから。
昨日はガゴチが主な件だったし、ダニエルたちもいなかったから、改めて時間をとってもらった。みんなのお父さんたち、忙しい方たちもいたから悪いかなとも思ったし。
少し早く出て、休日だけど一緒に学園に行ってもらい、あることを確かめた。
思った通りだった。
ガーシとシモーネには学園の門の外の馬車のところで待っていてもらう。
ここが学園の中でなければバイトを雇いたいところだが、そういうわけにもいかない。っていうか、ブツがブツだけに人にバレるとまずいのか。それならどうしよう。
あ、待てよ。わたしは土魔法が得意だと聞いた。
家の畑仕事をしていたというから驚いた。畑仕事に虫はつきものだ。いい土壌ならなおさら。虫は苦手だと思うのにどうしていたのだろうと思っていたら、なんと土人形を作りその子たちに畑仕事をさせていたというから納得。
そうよね。苦手なものとかって、記憶うんぬんで変わらないと思うもの。
ってことで、わたしは土魔法も使えるはず。リディアほど魔法をこなせないとしても……。よく使うのは風、水、光だったからな。
あ、魔力を使うと魔探知されるんだっけ。漂ってる魔素を使って、と。
普通にしているとわからない。けれど少しだけ魔力に思いを馳せると、感じることができる。
化学式みたいな感じなのかな。見えているのは化合物。けれど、それは分子が集まったもの。見えない分子も、存在しているのは間違いない……。
目を瞑って深呼吸をする。わたしの中の魔を少しだけ意識すると、そこかしこに同じようなものが漂っているのを感じる。
馴染みがいいからわかるってやつね。
この魔を集めて、
「土人形」
親指ほどの土の塊がむくっと起き上がり、揃ってわたしを見上げる。
わたしの指示を待っている。
「お願いがあるの……」
わたしは切り出した。
場所は学園だから、毎日見に行ける。
フランツ、それからお兄さまふたりと、馬車に乗って今度は王宮だ。
今日こそ、本当に簡素な服でいいと言われているので助かる。
ドレスを着飾るのも楽しいけど、見合った装飾品もつけることになるので、長い時間は疲れちゃう。普段より姿勢も仕草も気をつけないとだしね。
馬車が王宮に近づくにつれて、フランツの膝が揺れ出した。
怒りがまた出てきている。
昨日あったことを話したら、お兄さまたち、激昂していたお父さまさえ止めに入るほどフランツが噴火してね。もう大変だった。
そんな危険なこととわかっていて、そこに囮のように使うなんて!ってね。
ありがたいけど、いや、もう終わったことだし、大丈夫だからと宥めたんだけど。
そして怒ってくれるのはありがたいけど、そんなテンションでいるなら話が進まなくて困るから、行かないでくれと言ったところ、黙って頷いたのだ。
怒らないと我慢しているんだろうけど、足がいらっとして揺すられてるよ。
王宮に並ぶ馬車の列。フランツが手続きを取ると、昨日とは全く別の道に促される。
え、このまま進んだら王宮から出ちゃうんじゃない?と思ったけど、その前のポツンと佇んでいる離宮の前で馬車が止まった。
ガーシたちはここで護衛のようだ。
馬車を降りて、離宮の中を歩く。室に入ることなく……やっと奥の扉を開けたと思ったら、そこは部屋ではなく、そこからも廊下が続いている。
誰ともあわないし、すっごく静かだ。王宮の中にもこんなところがあるんだね。
いくつか廊下を曲がると、こじんまりとした扉があった。
え? ここ入るの?
扉を開けるとまた通路だ。
人が3人並んで歩くのがやっとの、手狭な石造りの通路。
不安が滲み出たのか、フランツが手を引いてくれた。
やっと少し明るいところに出た時は、ほうっと息が漏れた。
ん? 少し段差がある。
まるで玄関のような。
もふもふは走っていき、犬のようにワンと吠える。
向こうからアダムがやってきた。
「やぁ。いらっしゃい。中へどうぞ」
勝手知ったるという感じでもふもふがブルッとすると、リュックが解けて中からぬいたちが飛び出した。
思い思いに伸びをしたり、体を震わせたりして、中に入っていく。
慣れてるな。
促されて歩いていく。
地下って感じだ。部屋がいくつも立ち並んでいるけど、温もりとかそういうのを排除している空間に思えた。
「ここは王宮の中で絶対に安全なところだ、覚えておいて」
アダムはそうわたしに言った。
組織壊滅のための秘密会議などをする時に使われていたらしい。
特殊な空間で、許された人しか入れないんだって。
わたしももふもふやぬいたちも登録済み。フランツ、お兄さまたちもだ。
応接室みたいな部屋に通される。
中には、ロサ、イザーク、ダニエル、ブライ、ルシオが揃っていた。
「ここでまた会えて嬉しいよ」
とロサは言った。
スタスタと歩みを止めなかったフランツが、そのロサのほっぺを平手打ちした。
えええええええっ?
「ふ、フランツ何やってるの!?」
「いいんだ、リディア嬢」
ロサはにこっと笑うけど、頬が赤くなってる。
「僕も同罪」
そう進み出たのはアダム。
「ちょっと待ったぁ!」




