第907話 忍びきれなかった悪意⑭及ばない
謀反騒ぎにかかわっていたということは犯罪者となるだろうに、みんなして切ない顔をしている。身内というのを差し引いても、そのゴット王子殿下の言葉は嘘がないものだと信じられているようだ、強く。
まあガゴチを探ってみたら、怪しいものとつるんでいたわけだから、信じるのもわかるけど……。
ただなんで王子の言葉を疑わないの?と聞いても、この分だと盲目的に信じている発言しか集まらない気がする。
「正しくはなんておっしゃったんですか? 第1王子殿下は?」
「グレナンの生き残りとガゴチには気をつけろ。将軍はカザエルと……、そこで気を失っている」
ロサからすぐに回答がある。
「その言葉を信じるならば、グレナンの生き残り、それからカザエルと何かしらの繋がりがありそうなガゴチ、2箇所に気をつけろと言われたわけですね。
ガゴチを終焉に結びつけたのはどうしてですか? 確か限られた方にしか終焉の話はされてないと聞いていましたが、第1王子殿下は終焉をご存知だったのですか?」
「ゴット兄上は〝終焉〟とは知らなかったはずだ。けれど賢い方だから、瘴気が溢れることになるのは予想されていたと思う」
賢いとそこまで予測が立つのか?
「終焉は聖女さまの未来視の情報から特定していっている。
何かすることにより、未来視が変わっていく。それらの情報で仮説を立てる。
1年半前の謀反、それからグレナンの生き残り、それからガゴチ、カザエル。全ては1年後に起こる〝終焉〟だったのではないかと思えた」
終焉自体、全体像を掴めたわけではないけれど、ユオブリアを狙う勢力があり、内乱で弱ったところに、各勢力が総攻撃をし、落ちる。瘴気が溢れ返り→終焉という流れが見えた。
それが謀反が終わった頃から未来視が変わってくる。外国からの総攻撃は変わらないけれど、内乱がなくなる。
そして瘴気を扱う呪術師を復活させたあたりから、外国からの勢力がまた少し減る。
グレナンの生き残りとは、少しずつコンタクトを取るようになった。
すると彼らは研究が好きということがわかる。彼らが独自で何かことを起こす可能性は低く、ただし、味方に引き入れられ研究の成果を上乗せさせられると厄介な人たちということもわかってきた。
未来視からの情報分析。謀反やら外国勢力と何かがあると未来は変わった。マシな未来が見えるようになった。それですべては一緒くたに起こるはずで終焉となったのではないかと思ったってことかな?
まだ対峙していない外国勢力がガゴチとカザエル。これが残っていると思っている。
ガゴチは武力の国。一人ひとりが騎士団長ほどの腕を持つ。情報戦にも強いということはわかっている。
カザエルにしては、悪どい噂が聞こえてくるだけで、真相は闇の中。
それでカザエルに対してなんでもいいから情報が欲しいところ。
第1王子殿下が「将軍がカザエル……と」言ったということはかなりな確率で繋がっていると思われ、カザエルを知りたいと思っていた。
それが現在の話。
そこでまずガゴチを引っ張り出した。
学園祭でウチの家族に手を出した。学園内は守られた特殊な場所。大きな怪我などすることもなく、犯罪となる証拠つきで捕らえることができた。
ガゴチのトップも変わるし、これで未来視が変わっていけば、ガゴチが終焉に関わっていたことがわかり、その脅威からは逃れることができる。
ガゴチと繋がるカザエルのことを知りたい。
話を持ちかけたけれど、そこでわたしに願いがあるとストップがかかったわけね。
「わかりました。将軍の話を聞きます」
「リディー」
「リー」
「リー」
身内からの悲壮な声が飛ぶ。
「聞いてみて、のめない条件なら突っぱねます。それで良ければ」
「もちろんそれで構わない」
「やめろ、リー。相手は将軍だぞ。言葉巧みにリーを追い詰める」
「あのね、お兄さま。リディアにはリディアの強みがあり弱みもある。今のわたし、記憶のないリディアにも記憶のないリディアの強みと弱みがある。記憶のあるリディアを思い浮かべる人には、わたしはそう弱くないはずよ。リディアの弱いところとわたしの弱いところは違うから」
わたしがそう宣言すれば、家族も矛を収める。
心配してくれているのはわかっているから、心の中で謝った。
こちとら全てをなくした思いを経験した。世界がわたしに背を向け、嘲笑い傷つけられ。
でももっと辛いことを知った。そんな辛い思いも誰にもどこにも響かないことの方が、行き場をなくす暗い方へと誘われる思いだった。いてもいないのと同じことの方が辛かった。だからわたしはけっきょく行動したのだと思う。
ロサをいつも見て話してしまったけど、その横にいたみんなのお父さんたち。一言も発しなかったな。忙しい身だろうに。なんか時間を無駄にさせた気がして悪いなと思った。
後から聞いたんだけど、将軍っていうトップが関係していたことだけに、こういう報告は陛下がするつもりだったらしいのだ。それが別件でどうしてもこちらに時間を割くことができず、そこでロサ、国の重鎮たちを手配したらしい。
で、この後わたしがいないところで、いろいろと話したようだから、まだよかったけど。
将軍のところにはアダムが連れてってくれるようだ。
「君を囮にした。酷いだろ?」
ふたりきりになると……正しくはぬい入りのリュックを背負ったもふもふを抱えているし、少し後ろにはガーシとシモーネと護衛騎士たちがいるけれど、歩きながらアダムが言う。
みんな酷いことをしたと思っていて、そう詰ってもらいたいようだ。
わたしとしては、通るべき道筋のような気がするし、一番被害が少ない計画だった気もするし、世界の終焉を止めるためお前の命を差し出すのは当然という意見があっても、仕方ないと思っている。
いや、そう言われたら抗うけどね。
それに被害がなかったからお気楽でいられる。もしこれでお兄さまたちが傷ついていたら、多分こうは思えてない。
けれど実際怪我はしていないし、アドリブに自信がないので望まれたように動けているかそっちの方が気になったぐらい。
「本当に〝チャンス〟だった。フランツもいないしね」
「フランツがいないと、なんでチャンスなの?」
「フランツはそれしか方法がないとなっても、君の髪一本にだって傷をつけることを許さないから。だからカザエルとガゴチのことはフランツにも告げてない。ガゴチの若君の考えは違っている、頭でそうはわかっても、きっと血がのぼって若君とやっていけないこともわかっていたから」
フランツって愛情深いんだな。
一緒に暮らしていたみたいだし、バイエルンの家は叔父さんはいるけれど、近親の家族は他界しているみたいだし。だから妹のようなわたしにも、深い愛情を向けてくれるのだろう。
「それにしても、すごいなゴット殿下は。いなくなってからも、本当に守りたかった君のことは守ってる。フランツもゴット殿下にも、僕は全く及ばないや」
と爽やかな笑顔を向けてくる。
「でもね、及ばずながら君を守るよ」
なんかセリフがカッコ良かったので、その前のセリフの意味不明さを聞きそびれた。




