第903話 忍びきれなかった悪意⑩禁断の先
ライラがページをめくる。
前のめりになって、文字を追う。
少しサイズの大きな文字で書いてある。
心を落ち着けて、相手に身を委ねましょう。
ええええええええええええ?????
みんな大きな声を出して、口を塞ぎあう。
「何それ」
「つっかえないーーーーーっ」
「しょうもないなー」
「散々引っ張って、何も言わないのと同じじゃん」
言いたい放題だ。でも肩透かしを喰らった感じで、文句が出るのもわかる。
「何よ、これじゃ何もわからないじゃない。誰か、この先を知らない?」
「リディア知らないの?」
うっ。なんか期待のこもった目で見られた。
「リディアは記憶がないのよ?」
何言ってるの? という感じでダリアが言った。
ダリア、ありがとう。そういうことにしておこう。
知っている感じだけど、全てを伝えるのは骨が折れそう。
「スッキリしない」
「禁断でもなんでもないじゃない」
「禁断は禁断だからいいってことかもよ?」
「またジョセフィンは謎掛けみたいなことを言う!」
クラリベルが怒った。
「でも知ったら、知らなかった時には戻らないのよ? 知らない方がいいこともあるわ」
ウォレスが髪をパサっと後ろに払いながら言う。
「何それ、ウォレス知ってるの?」
ウォレスは咳払いをした。
「本当に知りたい? 知りたくない娘がいるならそれに合わせた方がいいから、この場では言わないわ」
さぁ、どうする?
ウォレスが凄むと迫力があった。
知りたくない人は手を挙げてだの確認を取ったけど、結局みんな知りたいと言うことで意見はまとまる。
「それじゃあ、本当にいいのね?」
ウォレスは確かめてから喉を整える。
「男女が交わることで、子供ができるってのは知ってると思うけど」
ウォレスはそう前置きした。
「具体的に言うと……興奮して××した×××××を××の××に×××の」
みんな固まる。
「え、ええ? どういうこと?」
「だからー、×××××の××××××××を×××××××で×××××××
するわけ」
「え、なんでそんなことを?」
キャシーの顔が青い。
「それが目的なんだけど、その前に××××××とか×××××したり×××××××××する方法は×××××××と言われてて。個人で違うらしいわ。それで××××××だったり×××××するけど××××××××××××で、××××しないと×××××××なんだって」
半数が引いて、半数は納得いかないとばかりに質問をする。
反復される質問で、みんなわかってきたみたい。
「ウォレスは経験あるの?」
「ち、違うわよ。うちの方では羊の毛をかったり、その毛で糸を作ったり編んだりするのが女の子の仕事なの。みんなひと所に集まってね。近所のお姉ちゃんたちがね、集まるとそういう話をするわけ。耳年増になるってわけよ」
「へぇーー」
「え、でもわからないんだけど、爪切るって結局なんなの?」
「痛くて暴れても、相手を傷つけないようにってことじゃない?」
「痛いの?」
「最初はそうらしいよ」
みんなヒッと顔を引きつらせた。
「結局なんなの? 痛くても爪を切っとくとか、相手に任せるとか、それが作法なの? 女にとっていいことなくない?」
「全く、世の中全部がそうだよね」
「女は黙っとけとか、すぐ言われるし」
「でも男も男なんだからってハッパかけられることも多いから、そこはお相子なんじゃない?」
「うーーん、どうなんだろう?」
「でもさ、家を継ぐのも結局男だし、領主さまも男だよね?」
「うんうん。役割が違うのは別にいいのよ。それをさ、女ではできないからだって言われるのは腹が立つ!」
「わかる。絶対、できる人はできるのに!」
「そうだよ、リディア、領主さまになってよ」
「ええ?」
「初めての女領主さまにさ。女だってできるってところを見せてやって」
ジュースにお酒、入ってなかったよね?
「領主ねぇー?」
少ししか領には滞在できなかったけど、とても安心できる場所で大好きだなと感じた。今までのリディアが心から愛している場所だと。
「思いつきで言ってるんじゃないのよ。私、リディアが領主さまになったら、領地の人はとても楽しく過ごせるんじゃないかって思うのよ」
「うんうん、いろんな楽しいこと思いつくし、やり遂げるし。絶対、向いてるよ」
「そうそう。前に村長さんが領主さまを絶賛して言ってたんだけど。それは仕事ができるとか、領地を豊かにしてくれるとか、もちろんそういうことも大事だけど、一番はこの土地と暮らす人々を愛してくれるからだって言ってた。
私、リディアって愛情深いから、素質を兼ね備えてると思う」
「わたしって愛情深いの?」
みんなが頷く。
「家族や友達だけじゃなく〝もふさま〟やぬいぐるみにも、ずーっと愛情持ってる」
「私小さい頃大事にしてた人形あったけど、リディアほどじゃなかったんだなーって思ったよ」
みんなの視線がベッドに向かう。
ベッドの棚部分にぬいたちが鎮座しているからかな。
でもあの子たちは生きているからね。言えないけど。
「そうそう、愛情深いリディアだから、絶対領主さまに向いてるよー。女領主で成功して、名前を轟かせるのよ!」
「そう、女だってなんだってできるんだから!」
「そうよ対等なはずなのに、閨で相手に任せるなんて考えのあるとこが、そもそも女を落としているのよ」
「うーん、そうかな? これはさ、そういう意味で言ってるんじゃないと思うけど」
ジニーが思慮深く言った。
「えー、どういう意味よ?」
「だからさー、全てを委ねてもいいと思えるぐらいの人を、相手に選びなさいとも取れるじゃない?」
その言葉は不思議とストンと胸におりてきた。
全てを委ねたい人を選ぶ……ふと、眼差しを思い浮かべていた。
好きの形は、人さまざまだ。
いろんな好きがあるし、それでいいと思う。
でもいろいろ好きがありすぎて、わからなくなるときの指針となるかもしれない。
わたしの周りに素敵な人は多い。
婚約者がいるそうだけど、わたしはその人が好きだったのかな?
あの素敵な人たちよりもっと素敵な人かな?
わたしは誰か好きだったのかな?
身を委ねたいと思う人と出会えていたのかな?
……思い出したい。
わたしは誰が好きだったんだろう?




