第901話 忍びきれなかった悪意⑧打ち上げ
学園祭のあとは3日お休みなので、王都の家に帰るつもりだった。
けれど次の日はフォンタナ家へのお礼とクラスでダンジョンに行く日。今夜はリディアの部屋で同学年の打ち上げをするのもお決まりごとだそうなので、帰るのは次の日にした。今日は寮に泊まる。
お風呂に入り、やはり下駄でできた傷の手当てをする。
足が赤くなっているのを指摘されたため、今日は魔法で治せない。光魔法が使えるのは秘密のようだから。光の使い手は人が少なくて、それだけで貴重価値が高まり面倒なことがあるようなので、公けにしないことに賛成した。
食堂で早々とご飯を食べる。
寮母のロッティー女史もみんなの様子で気づいているだろうけど、こういう日だけは消灯を守らなくても見逃してくれる。あとはわりと厳しいけどね。
その間に、もふもふぬいたちは部屋でご飯を食べてもらっている。お泊まりになるらしいからね、みんなが。
部屋に戻って、歯を磨き、夜着に着替え、みんなを迎える準備をする。
床には大きなラグを敷いて、クッションをいくつもおいた。毛布なども適当に置いておく。大きなお盆をいくつか直に置いた。そこに準備しておいたお菓子を。
メインはチョコフォンデュ。家のオヤツの話をした時、みんな食べたがっていたから。
このためにテーブルを配置。そこにカットフルーツ、フォーク、取皿などを山積みして、隣にはたっぷり用意したチョコ液。チョコファウンテンの魔具をオンにして、チョコ液をいれる。
ぬいたちはベッドの定位置に。もふもふもベッドの上に避難している。
女の子たちが集まると、かしましいそうだ。
ノックがあり、レニータ、ジョセフィン 、ダリア、キャシーが夜着姿で入ってくる。それを皮切りに、何人かで固まってやってきた。
最後にライラとケイトが駆け込んでくる。
「どうしたの? 慌てて」
アンナが驚いて尋ねている。
「あ、後でね。見つけちゃったのよ」
「見つけた?」
「とりあえず乾杯しようよ」
乾杯の飲み物代はいただいている。みんなしっかりしてるよな。
クラスで、女子の貴族はわたしだけ。部屋もひとり部屋だし。お風呂とトイレも共同ではない。リディアはお店を持っていたりもするので裕福。
みんなは裕福な家の子もいるし、学費は寄付をしたがる人が多いのでかなり安いらしいけど、そこが抑えられても、子供を王都へやるわけだから、いろいろとかかってくる。家計が大変だったりするみたいだから、帰る前にみんなでダンジョンに入り、お土産代を稼いでいるという。すごい。そういうのでお小遣いなんかも賄い、イベント時の打ち上げ代なども渡されている。
コップは各自持ってきてもらった。そこに取り揃えたジュースから選んでもらって、乾杯だ。
音頭は学園祭実行委員のレニータから。
レニータは今年も黒字間違いないです!と言い切る。まだなんとなくしか計算していないけれど、利益が出ているそうだ。昨日の時点で利益出てたから、今日もマイナスにはならなかったってことだね。
「みんなで頑張ったから〝今〟だけの学園祭になったと思います。乾杯!」
乾杯と声を掛け合い、カップの縁をお互いに当てる。
大きな声になると、慌ててしーっと遣り合う。
目溢ししてくれているけど、あんまりうるさいとロッティー女史が来てしまうからね。
チョコフォンデュに目が言っているようなので説明。
列ができた。
みんな楽しそうにチョコをかけたフルーツを楽しんでいる。
「リディア、チョコ高いんでしょ? よかったの?」
預けたイベント代超えてるよね?と目が言っている。
「いっぱい買った時に、安くしてもらったやつなんだ。だから大丈夫だよ?」
と言って安心してもらう。
「えーーー?」
と悲鳴のような声があがるから、どうしたのだと尋ねれば、ウォレスが7人、ラエリンが6人に後夜祭で告白されたそうだ。
どう答えたのだ?とみんなが興味津々で尋ねれば、ウォレスの場合6人が好きですと言ったまま立ち去ってしまったらしい。残りのひとりだけからは手紙をもらった。これには返事を出すつもりだと言った。
言い去った人たちは何? 気持ちを伝えたかっただけ?
ラエリンは5年D組の先輩から告られ、休息日にデートの約束をした!
他の人たちは貴族で微妙に何いっているのかわからなかったので、その場でお断りしたという。多分みんな年上だったそうだ。
後夜祭中にそんなことが起こっていたの!?
わたしが下駄で転ばないよう気をつけながら踊っていた間に??
「ジニーはメルビンになんて答えたの? あ、言いたくないならいいのよ?」
恋バナって個人情報どこいった?になりがちだよね。
「え、ジニー、メルビンに告られたの?」
ジニーはジュースを一口飲んだ。
「クラスメイトだから今後気まずくなるのはとも思ったんだけど、断ったわ」
さらっと言った。
「あ、この場で忘れてね。ギクシャクするのは嫌だから」
おおーーー。大人な対応。
「メランはリキに応えたの?」
「えっ」
メランが怯んでいる。っていうか、情報網がすごい。本人が言ったわけじゃなさそうだものね。
ただ驚いたメランより、わたしの斜め前にいたのでチェルシーが衝撃を受けているのが見えてしまった。なんとなくチェルシーはリキに思いを寄せていたのでは?と思えた。
「私考えたことなかったの。それで、これからリキのことをちゃんと考えてみるって言ったの。それでよければって」
「リキはなんて?」
「それでいいって。まず友達になろうって」
「へーーーーーーー」
「で、リディアはアダムとどうなの?」
「ちょっと!」
レニータがマリンを嗜めた。
「だって、すっごく仲いいんだもの。っていうか、お姫さまみたいに守られているよね?」
「守ってもらっていると思うし、仲もいいと思うんだけど、婚約者ではないみたい」
そういうとシーンとした。
「……それって、婚約者だったらなって思ってるってこと?」
ジョセフィンが真剣な顔で言った。




