第897話 忍びきれなかった悪意④将軍たちの考え
そりゃそうよね。魔法を使えなくしてある教室。
棟にはわたしたち以外、誰も外から入ってこなかった。
最初にこの棟に人がいないのを確めただろうし。
驚きっぷりから、転移みたいのでも入ってこれない何かをしていたのかも。そういうことができることなのかも知らんけど。
自分たちに絶対有利に働く空間にいたはず、それなのに急に人が現れたのだ。
突然現れたかのように見えたのは騎士たち、それから呪術師さんとアダム。
部屋の外からはガーシやシモーネの他に、また騎士さんたちも入ってきた。
顔部分が空洞の警備兵もわんさかいる。変わった真っ白の制服の人もいた。
「こ、これはいったい」
「あいつらが呼んだのか?」
「いいえ、僕たちは最初からここにいましたよ」
告げたアダムに驚いた表情だ。
近くにいると言ってたから、耳をそば立てているはずだと思った。
学園内で〝会う〟といえば、きっとどこで〝会う〟かを予想し、対策を立てる、アダムなら。
音楽棟とわかり、範囲が広すぎると思って第一音楽室だと伝えたつもりだ。
4階にあがるにつれ、わたしの苦手な何かがあった。
呪術師に〝瘴気〟で探ってもらった時と似ていた。
それでなんか仕掛けがあると安心した。教室に入ればもふもふが窓際に行ったので、ますます何かあるんだなと思って、大丈夫だと思った。
録音はできないことを百も承知なはず。
でもそれに代わる何かを見つけているだろう。
魔法も使えないようにするのも、織り込み済み。だから〝魔〟でなく〝瘴気〟を使って何かしていて、瘴気使いの呪術師も一緒にいるんだ。
そこまで正確に思い描いてはいなかったけど、この教室のどこかには味方がいると思って、彼らの悪事を引き出した。未遂で終わっているから、大したことにはならないかもしれないけど。
「放せ!」
威圧ってやつ? おじいさんが眼光鋭く叫んだ。鳥肌が立つ。離れていてもそうなのだから、おじいさんに近いと相当のものだと思う。
騎士たちが怯むと、警備兵ががんじがらめに捕らえた。
「父上、話を聞きましょう」
お付きの人は冷静だ。
「なぜ、拘束した?」
真っ白の制服の人が進み出る。
「世界議会から派遣された、カード・バンパーです。ヒダカ・キャンベル・ガゴチさん、ホクト・キャンベル・ガゴチさん。あなた方には、昨日ロビン・シュタインくんを襲撃した件、それから本日、ゲイブ・マンドくんを捕らえ、兄であるデヴォン・マンドくんを脅し、アラン・シュタインくん、並びにリディア・シュタインさんを連れてこさせ、学園の外に連れ出そうとしたことで訴えが出ています。実行犯からの裏は取れています」
「世界議会……無駄なところに労力を使っているな。なんのことかさっぱりだ」
「ではどうして、人気のない音楽室で学園の生徒と会っているんです?」
「呼び出されたからだ。そしてこやつらが来た。
それに万が一依頼をしたとして、外に連れ出そうとすることが、どれだけの罪になるのだ?」
おじいさんはニヤリと笑う。
そこだよね。
脅したり何だりしても結局は外に連れ出すだけなら、あの傭兵崩れたちも大したことではないと思っていた。
「本人の意思でなら問題は起きませんが、彼らは学園生です。彼らの意思を曲げての連れ出そうという行為は立派な犯罪ですよ?」
そうか。未成年だから身分は学園預かり。保護されている学園の中にいるのが基本だし。無理やり連れ出されたとしたら、連れ去りだと学園は訴えられるのか。
「ワシらは何もしていない。証拠も何もないのだろう?」
横柄に言った。
「録音も証拠能力が高いですが、ご存知の通り証人も重きをおかれます。さらに、議会から認められたものがその口述を筆記などで書き留めておりますと、録音録画と同じ扱いとなります」
「はめおったか」
憎々しげに睨まれる。お兄さまがわたしの前に出てその視線を遮り、アダムも横につく。そしてもふもふがジャンプしてきた。胸に抱きしめる。
「ガゴチ国にはいくつもの訴訟が届いております。あなた方はその使者を、ことごとく追い返してきた。それらが膨れ上がってましてね。本来、学園内での軟禁ぐらいでは世界議会は動かないのですが、相手がガゴチの前将軍と現将軍ということで馳せ参じた次第です。
いろいろ認めていましたね。ロビン・シュタインくんの件は殺人未遂が適用されるでしょう。教唆ではすみませんよ。金銭が発生してますからね。
アランくん、リディアさんにも殺害予告しましたね。これは決して低くない証拠となりましょう」
「そ、それがなんだ!」
「拘束させていただきます。あなた方は留まるところを知らなかった。各方面から反感をかっています。
拘束中にどれだけの余罪が集まるか。今までの訴訟の件だけでも2年は逗留が可能です。その間に国がどうなるか……」
「待て。我らふたりとも拘束か?」
現将軍が声をあげる。
「そ、そうだ! これは全て息子がやったこと。ワシは後から知らされた」
おじいさんはそう世界議会の人に言って、現将軍に向き直る。
「そうだな? すぐに出してやるから何も心配するな」
おじいさんは現将軍の息子さんより、自分の方が力があると思っているようだ。自分が動いた方が、息子さんをすぐ釈放させられると思ったのか、普通なら子供を庇いそうなものだけど、そう言ってのけた。
「おふたりともですよ?」
世界議会の人が、認識間違いを正す。
「なんだと?」
「金銭の受け渡しは現将軍、話は前将軍がしていたと証言が取れてますからね」
「息子を呼んでくれ」
現将軍が鋭く言った。白い制服の人がひとり出て行った。
「ガインを呼んでどうする?」
おじいさんが現将軍に尋ねる。
「私は将軍の座を降ります。ニアに引き継がせ、ガインに学べと伝えます」
「な、何を言っている。将軍を降りてどうする?」
「父上、我々は2年以上拘束されるのですよ? 上が不在ではどう荒れるかわかりません。私は現将軍です。何はともあれ、国のこと、国民のことを考えなくてはなりません。上が不在の国は荒れる。それはあってはならないこと。引き継ぎをせねばなりません」
「どうしてニアに? あいつはジェイ派だそ、それならガインにやらせればいい。戻ったときには」
「父上、なぜ今も派閥にこだわるのですか? ガゴチは武力の国。私の次はニアです。ニアなら国を引き継げます」
「ばかな! ニアに渡したら、国は違うものになってしまう」




