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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第896話 忍びきれなかった悪意③機会

 音楽棟は静まり返っていた。

 いるよね?と不安になる。

 4階までえっちらほっちらあがった。

 胸がざわざわしたので聖水を一口含む。

 もふもふがわたしを振り返った。

 大丈夫だとわたしは頷く。


 依頼人として他の奴がきたらどうしようかとも思ったけど、教室にいたのはガインのおじいさんとお父さん。つまり、ガゴチの前将軍と現将軍。

 もふもふが中に走っていき、窓際にお座りしてハッハする。

 胸がザワっとするので、聖水をもう一口飲んだ。


「リー、大丈夫?」


「4階はしんどい」


 そういうことにしておこう。

 これくらいなら聖水で耐えられる。聖水の利用法を教えてもらっておいて良かった。聖水はわたしにとって精神安定剤のような役割もしてくれる。


「ご機嫌よう、お嬢さん」


「ご機嫌よう」


「君がアラン・シュタインくん。初めまして。ヒダカ・キャンベル・ガゴチだ」


「初めまして」


 お兄さまも答える。


「さすが双子だ。ロビンくんとそっくりだ」


「身内に、間違われたことは一度もありませんが」


 おお、さりげなく、身内へと話を誘導だ。

 おじいさんは咳払いをする。


「君たちは席を外してくれるか?」


 傭兵崩れはそれに大人しくしたがった。

 わたしたちが言い出すこともなかったね。

 そりゃ、向こうの方が、知られたくないことだものね。


「さて。さすがシュタイン家の子供たちというべきか、ジェイの子というべきか」


 簡単にカードを見せてきた。その言葉をあえて使わずのスタンスで話すと思ったのに。

 わたしたちの表情を見て、嬉しそうな顔になる。


「奴らは寝返ったのだろう? それをわかっていたのにワシらがここに来たのは、君たちが何をしようが、ワシらが何かをした証拠は出ないからだ」


 バレるかなと思っていたけど、バレてたみたい。のってはきたけど。


「落胆することはない。子供にしては頭が回る方だ。だから、リディア・シュタイン嬢、今一度機会をあげよう」


「機会、ですか?」


「そうだ。君がいうことを聞いていい子にしていれば悪いようにはしない。君は貴重な子だからね」


 アランお兄さまが、わたしを庇うように一歩前にでた。


「その目、ジェイにそっくりだ。正義感溢れる強者の目。ワシはジェイのそんなところが鼻について嫌だった。散々探し回ったが、隣の大陸で子供を作り、徹底的に隠していたとはな」


 おかしそうにクックッと喉を鳴らす。


「芸術の分野は魔法が使われないよう、遮断する魔具が組み込まれている。そしてワシはこの部屋では魔法を使えなくした。ワシらはお前たち子供に非道なこともできる。守りの発動の前に、息の根を止めることも可能だ」


 余裕綽綽の顔で、ゆっくりとそう言った。


「それがこの音楽棟に招待した意味だ。

 君たちの浅知恵は想像ついている。ただ君たちの身の振り方を、自身で選ばせてやろうと思ったから、ここまで来てやったんだ」


 のってやったんだと恩着せがましい。


「お遣いさま、でしたかな。攻撃しようなどと思わないことだ。あなたが動いた時、シュタイン嬢か、子息。どちらかを助けられますが、どちらかは命を落としますよ」


 もふもふが窓際から、イラッとした視線をおじいさんに向ける。


「子供というのは相手の力量を測れない。お遣いさまがいるといっても、たったふたりで我らに敵うと本当に思ったのか?」


 そう言ってご満悦の表情。


「シュタイン嬢、選ばせてやる。兄の死か、我らとガゴチにくるか。さあ、選べ」


「……わたしをガゴチに勧誘する理由はなんですか?」


「使いようがあるからだ。孫の嫁にちょうどいい」


「嫌です」


「いや、とな?」


「はい、能力や何かを買われたならともかく、嫁にちょうどいい、そんな理由でなんで他国にいかなくちゃいけないんです? それを頷くと思う考えがそもそもわかりません」


「わかるもわからないも、従えばいいんだ。

 わかっているのか? いうことを聞かなければ、お前の兄がどうなるか」


「わたしがついて行ったとして、兄の命を保証されるとは限りませんよね?」


 おじいさんはニヤッと笑った。


「そこに気づくとはますます嫁にいいな。気づいた賢さを評価して、兄も大人しくいうことを聞くなら命を保障してやる」


「数分で言うことが2転も3転もしているのに、何を信じろと?」


「信じなくてもけっこう。言うことを聞かなければ死あるのみ」


「結局はそうなんだから、最初からそう言えばいいのに」


 こういう人は信じられない、とわたしは思った。


「いう通りにすれば、命はとるつもりはなかったぞ?」


「いいんですか、ジェイの消息を知らないままで?」


 お兄さまが発言する。


「なぁに、子息はもうひとりいるだろう? 死を免れたロビン・シュタインが」


「やっぱり、あなたが襲わせたんですね?」


 確認する。


「ふふふ、そうだ。双子と聞いていたからな。ひとりいなくなってもいいだろうと、恨みを込めて奴の息子の息の根を止めるつもりだった」


「父上」


 初めてお付きの人が口を出す。


「何、この部屋は障害波が出ている。シュタイン嬢は録音が得意と聞いているが、障害波が出ていたらどうしようもないだろう。ワシの発言が不利になることはない」


 へー、わたしって録音が得意なんだ?

 得意ってどういうこと? この魔具って発動させれば誰でも使えるものじゃないの? 違うのかしら? そんなことを思いつつ。


「やっぱり、そうでしたか。録音で証拠もとられない。人の行き来が見える。だから、ここを選んだんですね?」


「ああ、その通りだ」


「ですよね。わたしでもそうします」


 わたしはにこりと笑う。


「ロビンお兄さまを襲わせ、命をとるつもりだった」


「ああ、そうだ」


「そして次にデヴォン・マンドの弟を捕らえて、アランお兄さまを餌にわたしを連れてくるよう依頼しましたね?」


「アラン・シュタイン、リディア・シュタイン。ふたりが欲しかったからな。考える頭のなさそうな奴らだったから、やり方を教えてやった」


「デヴォンを巻き込んだのはなぜですか?」


 お兄さまが質問する。


「昨日、シュタイン嬢と騒ぎを起こしたと聞いて、ちょうどいいと思ったからだ。まあ、弱みを握ることができれば誰でも良かった。あのつるんでいる中で奴は異質だったのだろう。役割に適しているのはあの者だと学生が教えてくれた」


 !

 それってデヴォンはあのグループの子たちから人身御供にされたってこと?

 腹立たしい気持ちになったけど、……元凶は目の前のこの人たちだ。


「……わたしたちを学園の外に出して、どうするつもりだったの?」


 聞いておかないとね。


「学園は守りが強固になったと聞く。でも同時に生徒がしたことなら目眩しになる。

 学園の守りは計ったことがないから侮れない。だから学園より外に出したかっただけだ。学園の守りがなければ子供などどうにでもなる。

 それに守りが薄くなれば、互いを守ろうとするだろう。シュタイン嬢は連れていき、息子にはジェイの居所を吐かせるつもりだった」


 概ね外れていなかった。


「本当にわたしをガゴチへ?」


「そう思っていたが、令嬢は想像以上に頭が回る。ガインでは使う前に使われてしまいそうだな。

 それなら欲しいというのにやるさ。令嬢の加護の力を欲しているから」


 加護の力ねぇ。


「さて、おしゃべりはここまでだ。アラン・シュタイン。ジェイはどこにいる? 答えろ。さもないと、お前の妹の……」


 と、学園内で刃物を出したところで決着はついた。

 警備兵もいっぱい出てきたけど、騎士たちが4人がかりでふたりを拘束した。


「な、なんだ? ど、どこから現れた?」


 おじいさんが声をあげた。


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― 新着の感想 ―
えっこんなあっさり?? 爺さんすごい親切にペラペラ喋ってくれるじゃん…現行犯逮捕かぁ… 聖水飲んでるからトルマリンさんの力なんだろうけど気配も完璧に消せるんだなぁ。 しかし不意打ちにしても武力自慢国の…
リディアの様子からして瘴気で何かしらしようとしていたみたいですけど聖水で問題なかったですね。 元将軍は余裕からかペラペラとしゃべり+刃物持ち出しで御用に。 随分と呆気ないのでまだ何かありそうな気が…
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