第890話 忍び寄る悪意⑬木漏れ日の間
「アランお兄さまもロビンお兄さまも、あの人もクラスメイトだったんだ」
「うん、そこそこ仲が良かった。荒れてからはデヴォンはオレたちから距離を置くようになって。仕方ないってオレたちも諦めた。今は疎遠だけど、今日切羽詰まっているのはわかった」
「それでのったんだね」
「それだけじゃないけどね。演武中の乱入、あれはロビンを攻撃してた」
わたしは頷く。
「最初はリーに対する牽制か陽動かと思ったけど、多分違う。ロビンはあの場で亡き者にされそうになっていたんだと思った」
え。
大人ふたりが演武中に真剣で切り込んでいったのだ。その可能性は頭に過ぎったけれど、しっかりと言葉にされると、身が縮こまる。
え? あれ、けど、そう思っていたのに、ロビンお兄さまのところに駆けつけなかったし、自分はひとり行動をした?
でも待って、この感じ。
「お兄さまは、そうされる心当たりがあるの?」
「今のリーは覚えてないだろうけど、オレとロビンは母さまの姉さまの子供なんだ。本当はリーの従兄妹。届出を父さまと母さまがしてくれたから、正式にシュタイン家の第一子と第二子になってるけどね」
え。唖然とする。
もふもふがわたしの腕から飛び降りて、体をブルっとさせる。
あれ、フランツも、息子としてシュタイン家にいたみたいなこと言ってなかった?
「あ、リー、それからエリンとノエルは正真正銘、父さまと母さまの子だよ」
シュタイン家、秘密ごとが多すぎないか??
「そしてオレたちの血の繋がった父上は恐らく、ガゴチの初代将軍、ジェイと呼ばれていた人だと思う」
え、え、え、えーー?
「ガゴチの前将軍が学園祭に来ると聞いて、もし会ったら、オレたちのこと予想がつくと思うんだ」
わたしは口があいたままだ。
「ガゴチの前将軍は初代のジェイを妬み、引き摺り下ろして自分が将軍になろうとした。それを察したジェイは逃げたと言われている。その逃げた先で、オレたちの母上と会ったのだと思っている」
その後もお兄さまの話は続いた。
お兄さまの話をまとめると。
・お兄さまたちはガゴチ初代将軍のジェイと、お母さまのお姉さまの子供である。
・お兄さまたちの本当のご両親は亡くなっている。
・大きくなるにつれて、お兄さまたちは父であるジェイに似てきた。初代のジェイ将軍を知っている人に、似ていると言われたことがある。
・ガゴチの初代将軍は、副将軍に妬まれて策略に嵌められそうになったところを逃げた。今も初代将軍をと求める声も多く、未だジェイは探されている。
・副将軍が前ガゴチ将軍。前将軍、現将軍はジェイをよく思っておらず、邪魔だと思っている。
前ガゴチ将軍が学園祭に来るにあたって、自分たちの容姿が父親に似ていることから、自分たちも邪魔だと排除しようとするかもしれないと思っていた。
それでロビンお兄さまが攻撃を受けたのを見て、自分たちを邪魔に思って排除しようとするか、ジェイの居処を知ろうとするのではないかと考えていたという。
恐らく自分たちを見たかなんかして、前ガゴチ将軍たちは頭に血がのぼっている。脊髄反射でまず自分たちを排除しようとしたのではないか。けれど、少し冷静になれば思うはずだ。ジェイのことを知りたい、と。
そこに思いつめたようなデヴァンが、アランお兄さまにアプローチをかけてきた。アランお兄さまは捕まって、指示しただろうガゴチ前将軍に会うつもりだった。ジェイは亡くなったと話すつもりで。
ところが連れて行かれた先にいたのは傭兵。間に人を入れ簡単に足がつかないようにしているということは、ちょっと嫌な感じだ。
傭兵はガゴチのあるエレイブ大陸の共用語であるフォルガード語で話していないから、この国の傭兵崩れで、お金で動いているのだとあたりをつけた。
そこには怯えている少年がいた。髪の色も瞳の色も同じことからデヴァンは弟を人質に取られたんだと察した。
自分を連れてきたのにデヴァンの弟は解放されない。それから指示をした人も出てこない。ただ捕らえられているだけという状況に疑問が湧く。
オレが目的なだけじゃないのか?
もしかしてジェイだけでなく、オレを理由にリーも捕まえようとしている?
と思いあたった時、サイレンが鳴ってアナウンスがあり、ふぅとひと息ついたらこの空間、聖樹さまの元に呼ばれてた。
聖樹さまからここに呼んだと言われ、弟くんは聖樹さまと繋がっていないのでこの空間では意識が保てないと教えてもらう。そこにわたしが現れた、と。
「聖樹さまはどうしてわたしをここに呼んでくださったんですか?」
わたし急にいなくなってる?
アランお兄さま、それから弟くんも急に姿が消えてみんなパニック?と思ったけど、この空間は異空間であり、戻す時にここに来る記憶の最後の〝時〟に置いてもらえるようだ。
アランお兄さまたちの保護はわかるけど、わたしは?
保護したことを教えてくれるために呼んでくれたのかな?
『お前をここに呼ぶのが、解決の1番の近道になると思ってな』
そうか、それはありがたい。
「では、こちらで少々作戦会議をさせていただきます。
でもその前に、ひとつお尋ねしていいですか?」
『なんじゃ?』
「わたし、記憶を失っています。聖樹さまと話したことがあり、〝リディア〟と聖樹さまが親しかったのかもしれないと思いますが、どんな関係かはわかりません」
『うむ』
犬みたいに、弟くんの匂いをかいでいたもふもふがわたしを振り返る。
「それなので不躾となり、リディアでは絶対聞かないことかもしれませんが、わたしは単刀直入にお尋ねします。
聖樹さまはバッカスの犯罪ごとにおいて中立なんですか? それとも世界の終焉において中立なんですか?」
もふもふ、それからアランお兄さまが息をのんだ。




