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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
3章 弱さと強さと冬ごもり
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第89話 変な子

 わたしが外に出ようと思ったのは、マップに新しい色の点が出現したからだ。もふさまがお出かけをしたので暇で、もふさまは今はどの辺かなとマップを呼び出した。地図があるところにはもふさまはいないようで白い点は見当たらず、その代わり新しいものをみつけた。

 色はピンク。なんじゃこりゃと思って、注意深く庭に出た。


「リー、どこに行くんだ? もふさまは?」


「もふさま、お出かけ」


 ロビ兄に尋ねられ、わたしは答えながらマップ画面を見せた。


「桃色の点?」


 わたしは頷く。黄色の点に少し距離を持ち、ピンクの点がある。


「気になる」




 庭から出て点の方を見ると兄さまの背中が見えた。

 黄色の点は兄さまだったのか。


「フランツさまぁ」


 兄さまが対峙しているのは女の子だった。

 その子は夢見るような声でうっとりと兄さまを見上げているっぽい。肘の角度で胸の前で手を組んでいると想像できる。


「君、どこの子? 領地の子じゃないよね? なんだって、ここに?」


「あたしは、フランツさまに逢いに来たんです」


 兄さまに会いにきた?

 何それ。


「あ、リディー」


 気配がしたのか振り返って兄さまがわたしたちに気づき、優しく名前を呼ばれる。

 兄さまと重なってスカートと一部しか見えていなかった子の全貌が見えた。ピンクの点のピンクの髪した子は、びっくりするぐらいかわいかった。兄さまと並ぶとさらに絵になる。

 ピンクの髪、だからピンクの点?


「お前、ひとりか? なんで兄さまの名前知ってる?」


「! ロビンさまですかぁ?」


 微妙に語尾が甘ったるく聞こえて、イラっとする。

 会ったことがない人が双子を見分けるのは難しい。なのに、ロビンと最初から呼んだ……。


「なんで、おれのことまで。お前、誰だ?」


 そう言ってすぐに、ロビ兄が指笛を吹いた。

 2階の窓が開いて、アラ兄が顔を出す。そしてすぐに引っ込んだ。

 ドアが開いて、アルノルトさんが出てきた。庭はそれなりの距離があるのに、一瞬で柵の外まで来た。走っているようには見えなかった。ただ歩いているだけのように見えたのに。

 アルノルトさんは胸に手をやり、少女に礼をする。


「私は領主、シュタイン家の執事にございます。どちらのお嬢さまでしょうか?」


 ピンクの髪の女の子は、完璧なカーテシーをしてアルノルトさんに挨拶する。


「隣の領地、モロールの、新領主の娘でぇす。今日はこちらのご子息さまたちの噂を聞いて、足を伸ばしてみましたのぉ」


「お付きの方はどうしたのですか?」


「はぐれて、しまいました」


 声を弾ませていう。絶対嘘だね。


「それは、ご心配しているでしょうね。モロールまでお送りしましょう」


「いえ、結構よ。それよりぃ」


「坊ちゃん、お嬢さま、家の中にお入りください」


 優しい台詞の中に本気を感じ、兄さまとロビ兄はわたしの手をとった。


「あなた、まさか、リディア・シュタイン?」


 え?

 わたしまで知ってる。


「なんで外に出ているの? 顔に火傷の痕もない。……なんで大事にされているのぉ?」


 エッ? どういうこと?


「お嬢さまを中に」


 兄さまたちが繋ぐ手に力を入れ、早足で連れていかれる。


「物語と、違う」


 呟きが聞こえる。


「あたし、帰りますわ。フランツさま、ロビンさまにお会いできて嬉しかったです。リディアさまにも」


 わたしたちは足を止めて、女の子を振り返る。

 その子はニッと笑って踵を返した。


「なんだありゃ?」


 ロビ兄が呆然と呟いた。

 わたしたちはしばらくの間、子供だけで柵より外には出ないように注意された。





 あの、兄さまたちに引けをとらないかわいい子はなんだったんだろう。

 領地の子じゃないのに、ウチのことを知っていて。

 なんで外に出ているのって言われた。顔の火傷とか、大事にされているとか。

 裏を返せば、あの子はわたしが外に出られず、顔に火傷の痕があり、大事にされていないって思ってたってことだよね? どっかにそんな噂でも出ているの?


 すぐに思ったのが、わたしが拐われたことが知れ渡ったのか?だった。

 何日間かもちろんわたしを狙った貴族のことを探したが、結果はついてこなかった。そこで出した結論として、箝口令が敷かれた。狙った貴族は、わたしを殺そうとした。それが行方知れずとなり成功したかと喜んだかもしれない。でも実際は拐われただけだ。カークさんが失敗を報告するはずはないから、きっと独自で情報を集めるに留まり、どこまでわかっているかはわからない。

 だったら、いっそうのこと、何もなかったことにしておく。わたしが行方知れずになったはずだとか、わたしに何かあったことを疑う人こそ、首謀者のはずだ。

 そう捜査を切り替えるために、わたしが人拐いにあったことはなかったことになっているのだ。

 モロールではわたしが拐われたことが知られているのかな。尾びれがついて顔に火傷をして外に出られなくなり……とか言われているのかな?

 モロールの新領主の娘って言ってた。モロール……母さまの呪いのことといい、鬼門だな。






「リー、何作ってるの?」


 アラ兄に尋ねられて現実に戻ってきた。


「人形」


 ミニーのサンドラを真似て、短いのと長い木の枝を十字に組み、布を巻き付けた。

 なんかこれ、見覚えがある。


「……へー、に、人形? なんかちょっと怖くない?」


 アラ兄を見上げれば、口を閉じた。


 同じ素材で同じように作ったのに。

 サンドラはなんとなくかわいげがあったのだが、おかしいな。

 顔がないからかな? サンドラもなかったけど……。

 わたしはナイフで顔の部分を少し削る。そして目を描いた。まんまる目に睫毛を3本。

 ………………………………。


 誰でも描ける、ただのマルと線を組み合わせただけなのに。


 ! きっと髪がないからだ。サンドラもなかったけど。

 わたしは毛糸で髪の毛を作って、頭部分に被せるようにして、それをまた違う毛糸で孫悟空の輪のように結んだ。

 なんか、想像したのと違う出来栄えになっていく。


 ますます面妖なものになってしまった。本当の子供なら泣き出すかもしれない。まあ、いいや。


 この件が終わったら、ぬいぐるみを作ろう。毛皮もいろいろあるからね。わたしは人形より、ぬいぐるみがいいや。


「……名前はなんてするの?」


 控えめにアラ兄に尋ねられる。


「……ミイラ」


「ふぅん」


 わたしもかわいいとはとても思えないが、王子対策だ。必殺子供アイテム! このミイラ相手にどこまで人形遊びができるか、試してやろうじゃないか。



 次の日、鍛冶屋さんに頼んだものが出来上がったと連絡をもらったので、父さまたちと町に行った。そこでいろんな子から情報をもらう。町にもピンク頭の子は来ていて、なんかウチのことを探っていたというのだ。すっごいかわいい子だったけれど、探っているみたいなので、気味が悪く感じられたらしい。母さまがどうしている?とか、父さまは王都に行かなかったのか、とか。兄さまたちのこととか。そしてわたしのことを。


 モロールは領主が代わったんだね。頻繁ではないけれど、領主が替わることはあることらしい。父さまみたいに子供が引き継ぐのではなく替わることがね。

 シュタイン領も、辺境でのおじいさま(ひい爺さま)の功績を受けて、新たに領地を授けるとこの地を治めることになり、亡くなったおじいさまが領主になった。その時に『シュタイン領』と名前を変えたようだ。閉鎖気味の地でもあるから名前が変わっても混乱はそうでもなかったのかな? シュタイン領の町、シュタイン領の大きな村、小さな村と呼び名は代わり、それで不自由はなかったようだ。モロールはずーっと前の領主の名前。領主は代わったが、町などの名前はそのままにしたようだ。そこら辺、自由というか、領主の考えで決まるので、領地ごとに違いがある。


 ピンクの子は、新しくモロールの領主になったうちの子で、嘘はついていなかった。平民から養女になった子だという。ただそれ以上の話は出てこなくて、アルノルトさんも調べてくれたみたいだけど、新領主の養女ということしかわからなかった。


 なんとなくスッキリしないまま過ごした。

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― 新着の感想 ―
[一言] ミイラ……wwwww、笑ってばかりですみません ^^;
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