第886話 忍び寄る悪意⑨ロビンの演武
体育系クラブのパフォーマンス。大人気で今年から第一演習場で行うことになったそうだ。今までより広いので思い切った演武ができると張り切っている。
もちろん動き回っているのだけど、ロビンお兄さまが一番長く近くで見られるところはここだと教えてもらう。じゃあ、ここで見るねと約束。お兄さまはクラブの控え室に行った。
まだ始まるまでに時間があるので、乗馬クラブの乗馬体験を見たり、外でやっている出し物を見て過ごした。
音楽クラブのパレードが始まった。音が聞こえる。この次なので、特等席に向かうことにする。
近くにいくと、お父さまの頭が見えた。
「お父さま!」
少し離れたところで声をかけると、エリンちゃんが走ってきて飛びつかれる。
「姉さま!」
「エリンちゃん」
ノエルくんもかけてきて、ふたりと手を繋ぐ。
アランお兄さまもいた。
アダムもみんなと挨拶をした。
そんなことをしているうちに、音楽クラブのパレードが終わる。
音楽パレードを見にきていた人たちがさーっと引いた。そこに次の魔導騎士クラブの演武を見たい人たちが殺到する。わたしたちも柵の一番前を陣取った。
まだ始まってないのに、黄色い声が上がってる。
「ロビンさまー」
と、ロビンお兄さまのファンもいた!
お母さまと顔を見合わせる。なんか自分のことじゃないのに、くすぐったい。
アナウンスで魔導騎士クラブの演武が始まると告げられる。
笛が鳴った。始まりの合図だったようだ。
少年たちが声を上げ、走りながら会場を一周して中央に集まる。
みんな足が早いのと、みんなの前を通るファンサービスで、観客は熱狂した。
長い棒を持つ人と、剣を持つ人がいる。ロビンお兄さまは剣だ。
「5の陣」
大きな声。誰かの指令に「ハッ」とみんなが応える。
「ヤーーーーーーーーーーー!」
声を上げ、各自走り出した。
と思ったら人による二重の円が出来ている。みんな外側を向いている。
わたしたちの目の前にロビンお兄さまだ。
ロビンお兄さまはわたしたちを見て、ニッと笑った。
「4の陣」
片膝を立てて座り込み、剣や棒を持つ手で地につけている。次の瞬間、棒の人たちが立ち上がり、棒を回しながら足を上げ、棒を突き上げた。そしてまた座り込む。次に剣を持った人たちが同じように足を上げ、剣を天に突き立て、そしてまた座り込む。棒の人たちが立ち上がり、座っている剣の人たちをジグザグに避けながら走って一周し、元の場所に座る。剣の人たちも同じように一周した。
今度はみんな立ち上がり、中の円の人は外側、外の円の人は内側と向き合う。それぞれの同じものを手にしたパートナーとの合同演武だ。棒の人たちはその棒をお互い投げてキャッチしてと繰り返し、剣の人は剣を当てて闘うようなパフォーマンス。
やがて棍棒が横にぐるぐる回され、その合間を剣を持った人たちが戦いながら駆け抜ける。止まったと思ったら、その場でみんなが同じ動作をした。キレのある戦い感を出した踊りで、体幹が鍛えられてないと絶対できないやつだ。
「3の陣」
掛け声が上がり。3人1組。ひとつの棍棒をふたりが持ち、その上で剣士が剣舞をする。
ロビンお兄さまは棍棒の上で左足を大きく前に蹴り上げ剣を天に掲げる。剣を投げたと思ったら、棒の上で宙返り。棒の上にまた立った時も歓声と拍手が起こったけれど、投げて落ちてきた剣をキャッチ! 一際大きな歓声と拍手。
「2の陣」
完全に戦いを模した演武だ。剣と棍棒の勝負にしか見えない。中の円の棍棒の人たちが棍棒を置き、屈むような姿勢になったと思ったら、その人たちの背中に駆け上がりくるりと回って剣を繰り出すパフォーマンス。
「1の陣」
ハッと声を掛け合ったと思ったら、ダチョウみたいな鳥が現れた。各自がそれに乗って走らせながら、会場に大きな円を描きだす。その円が途切れて八の字を描き、……いつしかみんな鳥の上で立ち上がっていた。そして剣や棍棒で八の字を描き、左足を潜らせ、右足を潜らせ、飛んで着地して、剣や棍棒をバトンのようにくるくるとして前から背中に、背中から前に。そのまま飛ばしてキャッチして、天に突き上げる。
ダチョウに乗ったまま、またかけっこが始まったと思ったら、どこからともなく鎧を纏った人を乗せた馬が2頭現れた。すごいスピードでダチョウの円の中に入ってくる。
侵入者にダチョウたちが足を緩めだす。
「退却!」
そう叫んだのはロビンお兄さま?
馬に乗った人は、ロビンお兄さまに剣を繰り出した。
お兄さまは避けたけど、頬に赤い線が走る。
血?
「様子がおかしくないか?」
どこからか声がする。
動いているのは、馬2頭と攻撃されているロビンお兄さま。
お兄さまはふたりが繰り出してくる剣を、やっとのことで避けている。
「火剣!」
大きな声。ロビンお兄さまの剣に火を纏う。それで馬の人に攻撃。
きゃーっという歓声が広がる。
なんかちょっとおかしいんじゃないと思った人も、その歓声で演出なのかなと微妙な表情になる。
え、え、え??
ジリリリリリリリリリリりリリリリ
耳鳴り。耳を押さえる。
「どうした?」
隣のアダムに聞かれる。
返事をしようとした時、サイレンが鳴った。そしてアナウンス。
《第一演習場にて攻撃の魔力検知。第一演習場の近くにいる方は速やかに離れてください》
やっぱり、これ演出なんかじゃない。
ロビンお兄さまが攻撃されているんだ!
辺りは騒然となる。
唐突に現れたのは警備兵。
白いマントがたなびく。
《生徒に害なす侵入者確認。侵入者捕獲!》
警備兵に追い立てられるように馬を操って逃げ出す。警備兵が追いかける。
柵を越えたかった。お兄さまに駆け寄りたかった。
お兄さまはわたしが見た中で、一番真剣な顔をしていた。
そして声を張り上げる。
「1の陣」
ピピー
笛が吹かれる。
「1の陣」
もう一度お兄さまが声をあげた。
「ハッ!」
それに仲間たちが応えたように聞こえた。
みんながダチョウを走らせた。
そして中央に集まりながらダチョウから飛び降りる。
10人ぐらいかな? 四つん這いになった人たちが円を作っている。爪先が真ん中に向くように。その人たちの背中に手を置いて中腰。その中腰の人たちの背中に手を置いてと人で作られた山ができた。
出来上がった人の塔の上に、小さくすばしっこそうな人が駆け上がって行った。そして天に向かって剣を掲げ「ハッ」と言った。
ぱちぱちとまばらに起こった拍手がまとまり、演習場を包み込む。
アナウンスに従って一度は演習場に背を向けた人たちも、みんな最後の演武まで見て拍手した。
その時サイレンが再び鳴り、アナウンスが続く。
《侵入者確保、侵入者確保。危険は去りました。引き続き、学園祭をお楽しみください》




