第883話 忍び寄る悪意⑥迷惑
ケラは真面目な顔で言った。
「いち姫は狙われてる。学園祭中は門が開かれる。どんな人が紛れ込むかわからない」
「……わたし、すっごく迷惑かけてるんだね」
学園に通いたい、学園祭にも出たい。
わたしは希望し、みんな微妙な表情で最後は許してくれたけど。
わたしが考えるよりよっぽどオオゴトであり、みんな神経を尖らせていた。
先生たちが教室内にいてくれたのも。
わたし本当に、みんなから守ってもらってるんだ。
「あのさ、いち姫は親戚だし、その中の姫だっていうのもあるけどさ。同じ学園の仲間だし。いち姫だって仲間が誰かに狙われているって嫌だろ? 守ろうとするだろ? それと同じだよ。こういう時は守られていればいいんだ。っていうか、守られてて。お願いだから、もう連れ去られたりしないで。あんな思いは二度としたくない。そのためならなんでもできる。多分、みんな同じ気持ちだと思う」
飾ったところのない、剥き出しの気持ち。
それは何よりスッと入ってくる。
「とか言って、やっぱ俺、末端で弱いんだけどさ」
わたしはケラに抱きつく。
「ありがとう。嬉しいよ」
「お、おい、いち姫」
へへっとわたしたちは笑いあう。
学園に通うことを選び、みんながそれに応え、陣を敷いてくれている。
だったらわたしのすることは、懺悔ではなく堂々守ってもらって、ありがとうということだ。
魔判定ってどういうことだろう。さっきも外で場所を聞かれた。ガーシが答えてくれた人の時は警備兵がこなかった。警備兵……顔のところが空洞って、悪いけど、なんかすっごく怖かった!
やっとわたしたちの番になる。わたしのは多かったので、袋に入れてくれた。熱々のをみんなのところに持っていって食べる。
もふもふには専用のお皿に盛り付け、他のはリュックの中に差し入れた。
家族がわらわらといるから、リュックが揺れているけど、誰も目にとめないだろう。
わたしもホルスタのお肉をいただく。
あむっ。肉汁がじわっと口いっぱいに広がる。
牛と豚の間って感じ。歯応えも良くて、塩だけで十分おいしさを際だせている。
『うまい』
ハフハフしながらもふもふは一生懸命食べている。
「ケラ、どこのダンジョンの?」
もふもふが気に入ってるから、ぬいたちもおいしいというはずだ。遠くなければ、もふもふたちの食べる分を手に入れたい。
「シンシアダンジョン9階」
「シンシアの9階まで行ったのか? 大したもんだ」
ケラの答えにお父さまがそういえば、ガーシも褒め称える。
『よし、そのダンジョンへ行こうぞ』
『ダンジョン、いいねー。この肉、うまい!』
「そうでち、ング」
『アオは話しちゃダメ』
『いいですねー、ダンジョン、最近体がなまってしまって』
『ダンジョン、ダンジョン!』
ああ、これはお休みにダンジョンに行くことになりそうだな。
魔物が魔物を倒すのは平気なのか尋ねたところ。強さの証明だから問題ないんだって。強さで全てが決まる、シンプルでなんかいいよなー。
「さっきはごめんな、リー」
目が合うと、ロビンお兄さまに急に謝られる。
言われて思い出す。
「ううん、ロビンお兄さま、さっきはありがとう」
「何かあったの?」
お母さまが心配そうな顔。
ロビンお兄さまが詳細を話せば、眉をひそめている。
お父さまは顎をしきりに触ってる。
「父さま、先生にも伝えたから」
悩んでいるようなお父さまに、ロビンお兄さまは言葉を足した。
「あ、ああ。補習組のカニャダ伯の件で、学園の内部は抑えられたと思ったんだが。そうか、まだちょっかいを出すものがいるのか」
「あなた?」
お母さまに呼びかけられ、お父さまはハッとしたみたいだ。
「いや、すまん。ロビン、ありがとうな」
とスマイルになった。
わたしはロビンお兄さまのクラブの演目の時間を確かめる。明日のお昼であっていた。クラスの子から、すっごくかっこいい演目だと聞いたので、ぜひみたいと思っている。
おいしい串焼きを食べながら、このあと行きたいところを言い合った。
わたしはアランお兄さまのクラブと、ふたりのクラスの出し物、それから鏡の間っていうのが気になっていた。鏡で作られた迷宮と説明が添えられていた。
〝鏡の間〟というと、少しお父さまの顔が強張る。
あ、そっか。迷路って護衛がしにくいか……。
「やっぱり、1のDの花幻想がいいかな」
優しいそよ風が吹き抜ける、花いっぱいの草原で一休み。との説明文だ。
「それは母さまも気になったわ」
とのことなので、行くところが決まった。
ガーシとシモーネの見たいところも聞いたけど、わたしたちのクラスやケラのクラスに行ってみたいと思って行けたので十分とのこと。
アランお兄さまの所属する魔具クラブは、わたしたちが入っていくと大盛り上がり。お母さまとエリンちゃんに大興奮と言った方が正しいかも。
いくつもの魔具が置かれている。
でもそれより、アランお兄さまの魔具の術式を描いたのが飾られていたのに驚く。絵といっても通じそうな綺麗な術式だ。
「これ、アランお兄さまが考えたの?」
そう尋ねれば、少し躊躇いながら頷く。
「これはリーが先に見つけたんだよ、この手法をね。おれはそれを式にしただけ」
こっそりささやく。
そうだったんだ、わたし魔具も作れたんだ。でもそんなこと今まで聞かなかった。当たり前すぎて言わなかったのかもしれないけど、一応確かめてみる。
「わたしって魔具をつくれるの?」
アランお兄さまはますます声を潜めて、こそっという。
「魔具も作れるし、もっとすごいこともできるんだよ、ギフトで。ここでは言えないから、家に帰った時にね」
わたしは大きく頷く。
何それ、すっごく楽しそうじゃない?
4年A組の出し物は、鉱物展覧会。
鉱物の分布図から地形の移り変わり、そして何によって地形が変わっていったかまでを推察もしていた。
実際の鉱物が置いてあり、珍しいものもいっぱい置いてある。
ダンジョンでも鉱物がドロップするのだけど、それも多くを知れば何かしらの法則性を見つけることができるはずだと結ばれていた。
ダンジョンってある日突然現れるものらしいんだよね。
その地域性っていうか、そこの土地に根付いた鉱石をダンジョンがドロップ品として作り出すってことなのかな?
なんで普通の土地から発掘される鉱物と、ダンジョンの鉱物を結びつけたんだろう? そこら辺、アランお兄さまたちに聞いてみようかな。
下級生たちの女の子も来ていた。飾られた鉱石、美しいものもあるものね。
アランお兄さまに手招きされて、わたしとエリンちゃんとノエルくんが走り寄る。お兄さまは手に真っ黒の布を持っていた。
わたしたちにその布をフサっと被せた。
あれ、明るい。
お兄さまの手にある石が発光していた。
七色の光。鉱石の割れ目から光が漏れてくる。
「きれーい」
「きれいだ」
「すっごくきれい」
「通称、虹の輝石と呼ばれている」
布が取られる。陽の光のところで見る鉱石は、茶色くて、細い傷がいっぱい入ったように見えるただの石。
うん、道端にあってもなんとも思わないやつだ。
「面白いだろう?」
言われて、わたしたち3人は大きく頷いた。




