第874話 アクション⑪パーフェクトブラザー?<前編>
週末は寮ではなく、王都の家へお兄さまたちと帰る。
フランツが来ていた。
学園はどうだったと聞かれる。
お兄さまたちは特に目新しいこともなかったと話し、わたしは神話同好会に行ったことと、わたしのクラブである創作同好会のことを話した。部長のユキ先輩は優しいし、温かい絵を描く。エッジ先輩のお菓子はおいしい。後輩のカリンちゃんの作る木細工も可愛くて、こんなほっそい板に飾りを彫っていくんだと興奮して話してしまった。
フランツは聞き上手だ。促されるまま、いろいろ話してしまう。
王都の家のメイドさんや執事見習いもいい人だ。
週末は早い時間に帰ってしまうので、あまり接点はないけど。
わたしたちがサブルームを使って移動するから、そうしているみたいだ。
今日の夕食は領地の外れの家で、みんなと食事できるようだ。わーい。
ただ王都にいることになっているので、外には出られない。領地の子と遊んだりもね。
ちょっとがっかりしていると、フランツが明日、王都で買い物に連れ出してくれるという。ガーシとシモーネの護衛はつくけれど、楽しみになってきた。
お母さまが外出するのならと、つけ飾りを用意してくれた。
それをつけると、髪をお団子にしてまとめているように見えるものだ。
布で覆って光る石をつけ大きなリボンで整えている。中は見えないけれど、髪をまとめているように見えるだろう。
わたしはありがたく受け取った。でもこれをつけると、フランツが作ってくれた髪飾りをつけられないな、と思った。
王都の家で過ごす時は、下の双子ちゃんがわたしのベッドに潜り込んでくる。すっごく慕ってくれてるのが伝わってきて、心地よく、強請られると陥落しちゃう。
そう、わたし料理やおやつをよく作っていたみたいだ。見栄えよくや特別すごいものは作れないけど、みんながすっごく喜んでくれるから、ご飯やお菓子は手伝って作る。
収納ポケットの中にあるおやつなどは全部わたしが拵えたもののようだ。なかなかにレパートリーがあり、作ろうとすれば作れたので、本当に作ってたんだなとちょっと感動した。
お菓子といえば、寮の学園祭の出し物は毎年クレープだそうだ。
評判がすっごくいいので、学園祭実行委員から続けて欲しいと言われてるんだって。トッピングを毎年ちょっとずつ変えているようだ。
今年は甘い方ではなく、軽食になりそうなお肉系やチーズトッピングに力を入れるとのことだ。
所属しているクラブ、創作同好会の出し物も毎年決まった感じだそうだ。
ユキ先輩の絵画とカリンちゃんの木工細工を展示販売し、エッジ先輩が作るお菓子を売る。
わたしは1日1回、自分の創った物語の読み聞かせをする。
創作ノートにもう準備してあったので、これを読めばいいのだなとほっとした。
お母さまが用意してくれた貴族貴族していないお出かけ着に、つけ飾りをして家を出る。
お兄さまたちと執事のアルノルトが送りだしてくれた。
ガーシとシモーネの護衛。
もふもふと、そのリュックにはぬいたちが入っている。
馬車に乗ると、行きたいところはあるかと聞かれた。
よければ市場に行ってみたいといえば、連れて行ってくれるって!
やったー!
外出はなんだかんだ危険と言われてしまうので、ダメもとで言ってみたんだけど。
前のフランツが長い足を組み替えた。
フランツも不思議だよな。
名前がころころ変わるのも不思議だし。家族のように暮らしていたところも謎だし。でもなんか聞きづらいんだよね。聞けば答えてくれるような気はするんだけど。
フランツってわかりにくいんだよなー。
最初は睨まれて嫌われているのかと思ったけど、そうではないみたいだ。そうとは思えなかったんだけど、すっごく気にしてくれてるんだよね。わたしのことを見てる。重箱つつく系のきっちりした遂行型の人なのかもしれない。
でも、それに助けられたのも事実。
みんながマルシェドラゴンの願いを叶えるべきモードになっていた時に、わたしも気づいてないわたしの気持ちに気づいて叶えてくれた人。わたしの心を助けてくれた人。
家族のように暮らしていたというから、フランツはリディアを妹のように思っていたんだね。だからとても心地いいし、わたしを知っている、というか……。
なんて思っているうちに馬車が止まり、市場についた。
もふもふもぬいとなり、もふもふも入れたリュックをわたしは背負う。
フランツが手を出す。
「何?」
フランツが手を繋いでくる。
「私から離れてはダメだよ?」
わたしは大人しく頷いた。
18歳のお兄ちゃんからすると、13歳の妹が心配か……。
でも手を繋ぐもんかな?
双子のお兄さまたちも、すぐわたしを抱っこしたがるけど。
昨日はノエルくんに抱っこされて、それは思わず止めたけどさ。
体は大きいとはいえ、弟に抱っこってダメだろと思って。
エリンちゃんもあたしも抱っこするって駄々っ子みたいになるし。
いや、わたし、そんな小さくないからね。そんな小さい子じゃないからね。
で、なんとなくそのまま市場に。
あまりの楽しさに全てを忘れてしまった。
だって新鮮な魚や、部位別の分厚い肉、いい匂いのパン、見ているだけで楽しい気分になる果物。いやーん素晴らしいし、テンションが上がる。
わたしはフランツを引きずるようにして次々にお店を覗き込み、そして買い込んだ。お会計は全てフランツ持ちだ。
いや、わたし払うって言ったんだよ。お父さまから、楽しんできなさいとお小遣いいただいたから。それもすごい額だった。だから家族にお土産を買おうと思って楽しみにしていた。でもでも、それまで全部フランツが買ってくれる。
気にしなくていいから、欲しいものを選べって。
食材とお土産をめーいっぱい買ってみた!
好きなものを好きなだけ。それも荷物は収納袋なので重たくないし!
こんなに買い物が楽しいなんて!
もちろん厳選して選ぶのも楽しいけど。
フランツにお礼をいえば、今度は自分に付き合ってという。
わたしはもちろん頷いた。




