第872話 アクション⑨神話同好会<中編>
そして頬を上気させてわたしに尋ねる。
「神獣さまとお話しされたことはあるのですか?」
みんな目がキラキラしてる。
それか!
同好会の人たちが快く迎えてくれたのは。
「す、すみません。話したこともあるようなのですが、記憶を失くしてまして」
一瞬にして笑顔が固まる。
「こちらこそ、すみません。そうですよねー。記憶を失くされて大変なのに、すみません」
と謝ってくれた。
謝りながらも落胆してるので、思い出したら絶対また遊びにくると約束した。
するとちょっと復活。よかった。ふーと汗を拭う。
「あの、禁忌の神話を知って、どうなさるんですか?」
アダムが尋ねる。
「え?」
「だって、人に良くないことで、神が咎を負うようなことなんですよね? それを知ってどうされたいんですか? 知ってそうだったのか、合ってた合ってなかったと確めたいと、そういう気持ちですか?」
アダムが言葉を足すと、部長さんはああと鷹揚に頷く。
「全部、ですね。推測したことが当たってるか確かめたい気持ちもあります。神話を読んだことがあるなら思われたことがあると思うんですけど、間違えるっていうか、神がひどいことをしでかすことが結構あるんですよ。
私は神さまに守ってもらいたいと思っているんだと思います。
どこにも隙がない、高みからみんなを見ていて、全ていいように導いてくださる、初めはそれが神さまだと思っていたんです。けれど神話を読むとそうじゃないんですよね。失敗もするし、右往左往してるし、高飛車だけで力のないと言われる方もいる。
存在する意義が世界を守ることで、その対象は人だったり獣だったり、自然のような環境だったり。皆さまが何かしらを守りたいとして、力を使ってくださっている。
そして、獣や環境に味方される神には、人族は有害です」
ハッとする。
「そう、神は人族を守ることが意義ではありません。世界を守ることです。だから禁忌の神話とは人族にはよくないことであるけれど、世界には優しいことなのかもしれません」
膝の上の手をギュッと握る。
魔物の話は、いったい誰に優しいことなのだろう?
「もちろんこれはただの私の推測です。神話は驚く内容のことが多いです。それが通るのかって思うことも。知ってどうするのかって言いましたね?
私はね、きっとどんなことを知っても結局神さまを信じたいんだと思っています」
「神さまを信じる?」
「はい。どんなことがあったのだとしても、何があったとしても、時には間違えることがあったとしても、世界を守ることに意義のある方々。
そんな方たちに見守ってもらった世界だったのだと安心したいんだと思います」
その時わたしはなぜかショックを覚えた。
表情を崩さないよう力を入れる。
「シュタインさんたちも、やっぱり禁忌の神話を知りたくて、神話同好会にいらしたんですね?」
部長さんが微笑む。
「どうしてそう思われたんですか?」
もちろん神話に興味があると、ロペスくんには伝えたけれど。
「経験です」
と苦笑い。
「私たちの活動に興味を持ってもらえた大半は〝禁忌の神話〟のみに対して、でしたから」
わたしはアダムと顔を見合わせる。
なんか悪いことをした気分。バツが悪い。
「なんか、ごめんなさい」
「いや、謝らないでください。何にしても神話に興味を持ってもらえたのなら、私たちは嬉しいんです」
3人がぺかーっと糸目で微笑む。仏さま! あれ、仏さまって何?
「シュタイン領の評判のお菓子をいただいたことだし、こちらもとっておきの話をしましょうかね」
と3人で微笑み合う。
何ですと、とっておきの話?
「といってもすみません、禁忌の神話については、本当に知らないんです。
神話同好会は今までに3度、廃部の危機がありました」
部長さんはそう話し出す。
「あ、人数ではありません。5人を満たすことはありませんでしたが、全学年で4人までは常に在籍者がいたんです。不思議なことに」
3人でふふっと笑ってる。
「その3度の危機とは、全て禁忌の神話を知りたくて、先輩たちが無茶をされたんです」
無茶?
2年生のミラグロスくんが、温かいお茶に入れ直してくれた。
1度目は253代前の先輩たちで、神殿に禁忌の神話のことを教えてくださいと突撃。教えられないし、我々も知らないといってもしつこくまとわりついたので、神殿から学校に注意がいき、廃部になりそうになった。
2度目は179代前の先輩。神殿のトップである大司祭さまに手紙を送ったという。ユオブリアの学園生であり、神話を愛する同好会の者である、と。禁忌の神話についてどうしても知りたい、と。
時間は経っていたけれど、この神話同好会は以前も神殿に聞こうとしていた。ってことで、厳重注意を受けることになり、2回目の廃部の危機。
3度目は53代前。
ユオブリア王都の神殿に、他の偉い神官さまがやってくることがあったそうだ。その、大勢の人がいる時に突撃して、禁忌の神話とは何なのですか? なにゆえ禁忌としたのですか?と無視できないよう大声で喚き散らしたという。
取り押さえられ、厳重注意となり、廃部をとうとう言い渡された。
そこに一通の手紙が届く。大司祭さまのすぐ下の位の司祭長さまからのものだった。




