第870話 アクション⑦啖呵
「大人しくいうこと聞くなら、悪いようにはしないぜ?」
セリフでもう気持ち悪いのに、なにかっこつけてんだ、コイツ。
だからか口に出ていた。
「気持ち悪い」
「あ?」
「セリフも、その態度も気持ち悪いって言ってるの」
カニャーダの顔が赤く染まる。
「お、お前みたいな傷モノ令嬢なんか、また婚約破棄されるって噂だぞ。2回も婚約破棄されたら、誰ももらってくれねーぜ?」
顔を歪ませて笑う。
え? わたし一回婚約破棄してんの?
別にそれも覚えてないし、2回目があってもどうでもいいけど。
「わたしプライベートも充実しまくりよ。あんたなんかに蔑まされるようなことは何ひとつないから」
「な、なんだと」
隙をついてドアを開けると、そこにはにっこり笑ったロビンお兄さま。
わたしに向けた笑顔と真逆の、冷たい怖い顔になる。
「テメェ、その振り上げた手はなにするつもりだ?」
4年生である双子のお兄さまたちは、大人ぐらい体格がいい。睨まれたらかなり怖い。
「ロビンお兄さま。カニャダさまも、モスケラさまもハウメさまも、ノートが汚れるからわたしに触れて欲しくないんですって。犯罪組織に拐われたから汚らわしいそうよ」
「そうか、そんな奴らとかかわることないぞ」
「もちろんよ。わたしだって、先生に言われて仕方なくノート集めているのに」
わたしは振り返って、顔を青くしている3人に告げる。
「わたしも話しかけないから、あなたたちも二度とわたしにかかわらないでね」
「いいぞ、リー。よく言えたな。次はどこに行くんだ?」
もふもふとロビンお兄さまと職員室を目指す。もちろん先生に彼ら3人はわたしに持ち物を触れられたくないみたいなのでと全てを告げれば、ノート集めをしないでいいことになった。わーい。
どうやらどこかから、また婚約破棄されるという噂がでたらしく、ウチを蔑みたい人が喜んで噂を流していたようだ。それをいいニュースと受け取った人がいて、その子供たちもいいことだと思って、わたしにマウントを取ろうとしたみたい。
それから3人は静かになり、わたしはロペスくんとだけは仲良くなった。
わたしの啖呵が効いて3人が静かになったのだと思っていたけど、実情はいろんなことが起こっていたのを後から知った。
まず生徒会が動いた。大変な目に遭ったわたしを気遣うならともかく、蔑み意地悪をするとは貴族の品位に欠ける。素行注意があったらしい。罰則とかはなかったそうだけど、良識ある人はよくない素行と思っていて、生徒会から見える形で注意が行われると行動も変わってくる。それからは嫌ったらしい素行が見られるとクラスメイトからも注意を受けたり、白い目で見られたりで、静かになっていったようだ。
教師たちからも注意がとんだ。よくない考えだと諭されるとともに、教師のいうことに逆らうのと同じことをしたわけだから、ポイントをマイナスされた。
お兄さまたちから、お父さまに報告が行った。学園内の子供たちの間で起こったことだからテイストではあったものの、その3人について念のため調べたところ、カニャーダ伯に嫁いだ夫人の実家が商売をしていて、王都の菓子部門で参入を狙っていた。それでRの店を蹴落としたかったみたいだ。
Rの店は主人のわたしが不在でもきちんと回っていた。それがまた許せないし、犯罪組織と関わりのあるオーナー&婚約破棄2回目などで引きずり落とせると思ったみたいだ。
実際の商売ラインはランパッド商会、商人ギルドの補佐だけでなく、親戚でもあるウッド商会からも守られている位置にあるので、全然揺らいでなかったらしい。上の人たちが上から見えるそんな図も、参入したいと下から見上げた図には大きく開きがあったようだ。
そっちが先に子供の世界に介入してきたということで、真っ向勝負で二度と手が届くかもと思わせないようなところまで追い込んだらしい。
見せしめ的な役割となってしまったっぽい。
わたしを落として、拾い上げて、有利な立場となろうとしてたみたいだから、お父さまたちは容赦無くたたき込んだそうだ。
それを知ったのは随分後のことだから、わたしの心は平静だった。
ロペスくんとは思わぬことで仲良くなった。カニャーダたちに意見してくれただけでなく、彼が神話同好会に所属していることもわかったからだ。わたしを同好会に勧誘したこともあるんだって。覚えてないけど。
神話というか、魔物と神さまのかかわりの話。マルシェドラゴンをどうするかを話し合った時、わたしが口走ったこと。それのいくつかは皆が知らないことだった。そしてそれは前世の記憶とも違うみたいで。では、どこから得た知識なのかという話になった。
家にある神話系の本は読み漁ったけど、神が瘴気を失くすために作ったのが魔物だとか、元はといえば、聖霊王と女神の子である精霊を地上に送り出す日に、他の神と女神がイチャイチャして遅刻をし、送り出す祝福がひとり足りなかったため、その悠の精霊が瘴気になったくだりは誰も知らなかったことだったし、本などにも書かれていなかった。
それではわたしはどこで知ったんだろう?
バッカスから聞いたのか??
どこかにその神話がわからないかと思っていた時だったので、神話に傾倒しよく知ってる同好会の人たちなら、いろんな神話の話が聞けるかなと思ったんだ。
同好会には入らないけれど、遊びに行ってもいいということなので、アダムと一緒に行くことにした。




