第87話 選んだこと
双子と兄さまとクッキーを食べているとシヴァともふさまも起きてきた。
シヴァにご飯を食べてもらっていると、おじいさま、父さまも休憩でやってきたので、母さまも呼び、みんなでクッキーを食べた。
そこで魔物44匹分のおろした額を教えてもらった。なんと、437万2700ギル。人数で割り分配することにしたから、ひとり72万ギルだ。子どもたちはそのうち2万ギルがお小遣いとなり、70万は大きくなるまで預ける予定だった。
が、お金を遊ばせているのももったいないので有効活用と持ちかけた案を採用してくれたみたいで。その預ける70万×4人分の280万で荷馬車と馬が買えないか、父さまに相談してくれていた。
馬車を買うとしたら500万はするそうだ。でも、中古の荷馬車と引退間近の馬なら、父さまが足して400万いかないぐらいでなんとかなるかもしれない。と、昨日、町に行ってアンダーさん家で相談。馬はアンダーさんが育ててきた馬を譲ってくれるといい、荷馬車は中古を買うよりも、作ってもらった方がいいんじゃないかと言われて、ヤスのお父さんに相談してきたそうだ。荷台タイプだったら、そこまで高いこともなく、馬も合わせて300万で手にできることになった。
冬前には荷馬車とお馬さんが家にやってくる。
馬小屋、作らなくちゃと張り切っている。ああ、そのうち、モーモーとかコッコとかも飼えたらいいのにな。
わたしは石鹸とリンスが女の子たちにウケた話をした。
石鹸はみんなで石鹸をひとつ買って、川でハーブのエキスを入れ固め直してまたみんなで分けたいのだと。
それにはアラ兄の気に入ったハーブを聖域でとってくる必要があり、お願いすれば、もふさまが快く許してくれた。
おじいさまとシヴァも気に入っていて、辺境でも使いたいというので、今作ってある分を持って行ってもらうことにした。
それからリンスはみんな買ってまでも欲しいんだと言われたというと、父さまが悩んでいる。領地の人には先代が迷惑をかけたこともあり、お金をとることに懐疑的のようだ。
なので、領地の人たちには価格を落とすことを提案した。会員価格、もとい領民価格か。
冬前にホリーさんが来てくれるはずだから、そのことを相談したいと思っている。
鞄は間に合うかわからないな。縫うのは結構力がいるから大変なんだよね、小さいと。
リンスは保護剤が問題だ。蜂蜜だと成分いっぱい入っていて良さそうなのに、なんか使い心地がよくないのだ。あの蜜じゃないヌメっていた何かぐらいがいいんだよね。つまり蜜を取り除いた蜂の巣を水につけておき、その水を使うのが一番よかった。って話をすると、もふさまがベアに蜜の食べ終わった巣を貰えばいいんじゃないかと言われた。ベアは巣自体は口当たりが嫌いで、蜜だけとって舐めるらしいので、いえばくれると思うぞとのことだ。なるほど! やったー! ベアにはシャケを贈り、食べ終わった蜂の巣をもらおう!
リンスももちろんおじいさまたちには持って帰ってもらうつもりだというと、とても喜ばれた。
あとね、クッキーを喜んでもらえたから、ひとつ考えていることがある。これは商売抜き。
次の日、シヴァともふさまはダンジョンのあったケリーナの町に行った。査定をお願いしたものを取りに行くのと、エメル、ダン、エイブの答えを聞くためだ。わたしたちはそのことが気になって気もそぞろに過ごした。
お昼過ぎにもふさまとふたりで帰ってきた。
お茶にして、子供たち3人が何を選んだのかを聞いた。
「3人は、ハイネと一緒に町でまっとうに働いて生きていくことを決めました」
シヴァが微笑む。
「ハイネってあの大人と?」
アラ兄が驚いた声をあげる。
「ダンジョンの一階の野菜を収穫して、それを町の端に住むお年寄りや子供たちに届けてその届ける手間賃で生計を立てるようです」
3人は言った。盗みはやめる。悪いことはしない。でもハイネさんと働いて一緒に暮らしたいんだと。
あの3人と大人のことは自警団でも度々話が出ていたそうだ。今回外の人から子供たちをなんとかしなくてはという心意気を突きつけられ、自分たちの町のことなのに、知っていたのに結局何もしてこなかったと反省したという。それで彼らは子供たちとハイネって人ができる仕事を探したそうだ。ダンジョンから出る野菜を売るのは違反となるそうだが、それが欲しいがダンジョンまで来るのが難しい人に届ける僅かな手間賃なら、自警団の目も届くし、小さなエイブが一緒にいてもできる仕事だ。子供にも任せられる仕事をこれからも回すと、言ったそうだ。
彼らは馬小屋の掃除をする条件で、その掃除道具などを置いてある隣の小屋に住ませてもらうことが決まった。
ハイネという大人も、働かせてくれるところがあるなら働くと言ったそうだ。そして子供たちと一緒にいたいと。ハイネさんも孤児院出身で、字も読めないことから仕事で弾かれることが多かった。最初は一緒にダンジョンに入り、自分が魔石を盗んだり、冒険者にダンジョンの情報を売ったりしていたようだが、子供たちだけの方が相手も油断するので、盗むのに都合が良く、いつからか自分は待つだけになったのだと語ったそうだ。
「よかった、のかな?」
アラ兄がシヴァの顔色を伺う。
シヴァはもちろんと頷いた。
「4人でいることがとても自然で幸せそうでした。だから、3人にとってもハイネにとってもよかったと思います」
「シヴァには?」
兄さまが尋ねた。
シヴァはみんなの頭を撫でた。
「心配してくれたんですね。俺も嬉しいですよ。あの子たちが自分で居場所を見つけていたのがね」
そう笑った。
「俺も孤児院出身です。孤児院を出てからは、ギルドの裏方の仕事を手伝ったり、ダンジョンで荷物持ちになったりしました」
「荷物持ち?」
「魔石を持つ係ですね。戦わずに、パーティの荷物を運ぶんです。悪質な冒険者もいて、魔石を盗んだと濡れ衣を着せられ、荷物持ちの代金を払わない奴らも多かった。俺は体が大きいし、素早いことが評価されて冒険者になればいいと誘ってもらったんです。面倒見のいい人と会えたから、それで俺には道が開けた。保護者がいないと、守ってもらえないし、字を読めなかったり、計算が遅かったりで、働ける道は本当に狭いんです。だから、悪い道に落ちる奴が大勢いた。俺は縁があって道が開けたし、そこからまた縁がつながって辺境で仕事にもつけた。大切にしたい人たちとも出会えた。だから、できるなら同じ境遇で辛い思いをしているなら、チャンスを作りたいと思うんです。そこから何を選ぶかは本人次第ですけどね。だから、あの子たちが、ちゃんと自分で道を選んで、選びたい道があったことを、心からよかったと思っています」
カークさんに貴族にただ生まれついただけと言われたとき、反発心が湧いた。わたしも選んだわけではないと。でも、それがどれだけ恵まれていたことか、改めて思い知らされる。
わたしもいつか、シヴァみたいになれたらいいな。手を差し伸べることができて、差し伸べた手が自分に向かなくても、本当に相手のことを考えてよかったのだと微笑める大人に。