第866話 アクション③知識
「シュタインさんは魔石の何が知りたいのですか?」
「この間、魔石に耐久性をつけるために様々なことをしているのを見ました。そういったノウハウがあるのかと本を探したのですが、魔石について書かれているものはほとんどなくて。先生ならご存知かと……」
アダムはわたしの前の席で額を押さえている。頭が痛いのかな?
「まず、のうはうとはなんのことですか?」
あ、いけね。ノウハウは前世の記憶に起因する言葉のようだ。
「ええと、専門……的な知識という意味合いで言いました」
「魔石についての専門分野はありません。
魔石は魔物の核です。魔物を扱う職種は、魔石の基本的な概略を学びます。
魔物の生態を調べるのは、冒険者ギルドが統括しています。そこでも魔石が高額か値が低いかは学ぶでしょうが、その魔石自体をどうこうする技術や考えはありません。なぜなら魔石を加工したりするには時間がかかることゆえ、短命な人族には適さないからです。長命なドワーフは魔石に興味を持ち、魔石への研究が勧められているそうです。
薬草学で取り入れている魔石の活用はドワーフの研究により世界に発表されたものの一つです。魔石の核は人体に影響を与えるのでよくありませんが、この魔素の結晶は人の取り入れられる形にして役立てることもできます。
ただ労力の割に使えるものはほんのちょっぴりなので、使うことはほとんどありません。皆さんには知識として知っていただくために、この実習を取り入れています。
魔石は魔具の源にする使い方が一般的です。
シュタインさん、私が知る魔石についてはこのくらいです。よろしいですか?」
「はい、ためになりました。ありがとうございます」
先生は踵を返して、教壇に戻っていった。
お昼休み、アダムに引っ張って行かれた。
創作同好会の部室の前だ。
「どういうつもり?」
と尋ねられる。
「なんのこと?」
「耐久性の魔石のことをなぜ話した?」
「言っちゃいけなかった?」
尋ねるとアダムは大きく息を吐いた。
「〝玉〟のことはまだあまり知られていない。魔石を玉にする方法があるって知られたら。それを悪用する考えが出たらどうする?」
それかぁ。でもわたしもむやみやたらに口にしているわけではない。
「わたしさ、情報はできるだけ周知させるほうがいいと思うんだよ」
きっとアダムはわたしがうっかり聞いてしまった事だと思ったんだろう。
ここで反対意見が出ると思ってなかったみたいで、アダムは驚いている。
っていうか、わたしが考えて言っていることだと知って驚いたのか。
失礼だな。
「今は玉のことまだ知られてないけれど、そのうちみんなの知ることになる。徹底的に隠せるのなら話は違うけど、そうじゃないなら時間の問題。いずれ知ることになる。悪用はそれがなんのことにせよ、考えるやつは考えるし、考えない人は一生考えない。
知られなくてもいつか誰かが魔石をどうにかできないかなんて思うかもしれない。そこに材料がある以上、道は絶対にできていく。
魔石がある以上、いつかはそういう考えも生まれる。知られたことは知らなかったことには決して戻らない。だったら、わかる知識を総動員して事に挑むほうが絶対いいよ!」
アダムは額を押さえている。
「……バッカスは精霊を捕まえていた。精霊のことも知ってるし、精霊を捕まえることができる人が相手なんだよ? これはもうなりふり構わずに情報を得るところなんじゃない?」
アダムは苦虫を噛み潰したような顔だ。
「アダムは情報屋って言ったよね? それは全部自分が動いて情報をとってくるわけ? 違うよね? アダムが指揮官になって、得意そうな人から情報を得るんじゃない?」
「言いたいことはわかる。けれど、誰かれ構わず話すわけではない。信頼できるものとわかってから情報は共有する」
「それもわかるよ。でも、もうカウントダウンは始まってるんだよ?」
アダムの顔が苦痛の顔になる。
わたしたちの後を走ってきたもふもふは、後ろ足で首のところをかいかいしていた。
「アダムも思ってるんでしょ? バッカスが終焉に関係してるって」
アダムの顔を覗きこむ。
「なぜそう思った?」
「ユオブリアへの攻撃は瘴気解放に繋がり世界の終焉を意味する。
これは各国のトップが知っていること」
アダムは一拍おいて頷く。
「ってことは、今各国のトップでない人が、ユオブリア攻撃を計画している可能性が高い。ユオブリアの王様は魔力が絶大。騎士のレベルも低くないし、辺境伯も強い。周りの国とも関係は特に変化なし。ただし、ここ数年大陸の違う、セインやらから手を出されている」
「そうだね」
「ある程度の敵は事前に対処できてる。終焉にまでってことは相当の敵か、思わぬところからということ。国のお偉いさんも知らないような精霊の知識があり、捕らえて使うこともできる。まさに終焉の敵に当てはまる」
「捕まえて時が過ぎなければ何事も確かにはならないけれど、かなりの確率でバッカスが終焉に関係しているとは思っている」
わたしは手をグーにして思い切って聞いた。
「終焉のこと、皆に知らせないの?」
アダムの目が少し大きくなる。
「難しいだろうな」
アダムは握った片手を顎に置いて、静かに言った。




