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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第857話 逃走劇⑨帰路

「トスカ、怒ってるわけじゃないから」


 わたしはわかってるとフランツに頷いてから、慌てて言った。


「フランツもアダムも遊びに行ってきていいよ。わたし、もふもふとここにいるから。息抜きもしないと」


 ふたりが黙り込んでしまう。お荷物は嫌われる。嫌われるのはイヤだ。


「……えっと、クラブとか、あ、スッキリするお店とか行ってきて」


「何を言ってる?」


 眉を寄せたアダムがフランツを見て、フランツはおでこを手で支えている。


「何があったんだい?」


くだんの女性が礼だと誘ってきてね」


「……そういうこと。で、スッキリするお店って?」


 フランツはアダムに耳打ちするように何か話した。

 アダムが目を大きくしている。何かに驚いているようだ。


「トスカの情報は間違っているよ」


 アダムはにこりと笑う。


「間違ってる?」


「確かにそういう店はあるけど、誰もが当てはまるわけじゃない。一途な奴ほどね。それだけは覚えておいて。僕たちが今一番大切にしているのは君のことだ。何をおいてもね。だから今は余計なことは考えないで」


 ふたりを見上げる。わたしのことは気にしないで、好きにしてくれていいんだって訴えかける。


「わたしお荷物になりたくない。だって、お荷物はイヤなものでしょ?」


 わたしは続けた。


「守ってもらってるよ。十分だから! だから、宿にいる時ぐらいは自由にしていて」


 ふたりは顔を見合わせて、軽く息をつく。


「トスカの言うことはわかったよ。自由にする。

 でも私たちもトスカを大切に思ってる。好きで君を守っているんだ。お荷物なんて思ったことはない。それは君も心に刻んで」


 フランツの目は真剣だ。


「それじゃあ、この話は終わりだ。……お腹空いたんじゃない? 食事にしようか」


 ご飯のことを思い出したら、お腹が空いていたのを思い出した。

 お腹がグーっとなる。


「わかった、食べる」


 わたしは素直に食欲を優先させた。



 次の日は朝一番に乗合馬車に乗った。乗客は3人。

 急いでいると言って、聴取を夜に済ませてきたらしい。わたし眠っちゃったから知らなかったんだけど。

 その道は護衛がついていて、別の意味で怖かった。一度山側から獣が降りて道を横切ったので、護衛の人たちがピリッとしたけど、トラブルらしきものはそれだけだった。

 夕方前にはナミンコーワの街についた。

 食事処兼居酒屋みたいなお店に入る。

 ご飯かなーと思ったら、お店の中を通り過ぎて奥の入り口からそのまま出た。

 周囲を警戒しながら、一軒の家に。

 フランツがノッカーを鳴らす。

 出てきたのは〝戦士〟の格好をした人だ。

 中へとすぐ通された。

 すぐその先にいたのは、高齢の男性。華美ではないけど、質のいいものを着ている。

 薄い金髪に翠色っぽい瞳。背は高く、背筋がしゃんとしている。

 わたしに視線を定める。その瞳がとても優しかった。

 一歩一歩近づいてくる。おじいさんの瞳が潤んでいた。

 わたしの前で屈み込む。


「小さなレディ、よく頑張ったね」


 あ。フランツのお父さんと一緒だ。

 とても温かい言葉。

 あんまり頑張れてなくて助けてもらってばかりなんだけど、そう言われるとグッとくるものがある。


「……いっぱい助けてもらいました」


 なんでだろう、言ってるうちに涙が出てくる。

 あったかい腕に抱きしめられた。


「もう大丈夫だ。さ、ユオブリアに」


「トスカ、クジャクさまだ。転移で私たちをユオブリアに連れていってくださる」


 わたしは涙を拭いた。


「あの、トスカです。わたしのためにありがとうございます。感謝します。よろしくお願いします」


「ワシのことはおじいさまと呼んでくれるか」


 え。いいのかな?


「お……じいさま?」


 わぁ。

 もう一度おじいさまに抱きしめられる。


「孫ができたようで嬉しいよ」


「あの、わたしもおじいさまがいたら嬉しいです」


「そうか……では、トスカはワシの孫だ。ワシを頼っておくれ」


 胸があったかくなる。

 アダム、ロサ、フランツ、イザーク、ルシオ。ガーシ、シモーネ、フォンタナ家の戦士たち。

 もふもふ、ぬいたち。

 フランツのお父さんやクジャクのおじいさま。

 わたし本当にいっぱいの人に助けてもらってる。守ってもらってる。

 こんな恵まれてていいのかな?


 その時、ドアがノックされた。

 おじいさまが立ち上がる。


「みんな近くに来てくれ。一気に転移する」


 おじいさまはわたしの手を持ったままそう言った。

 激しいノックの後、体当たりしているような音がして。

 ドアの方を見ようとしたら視界がブレた。


 次にいたのは薄暗い部屋だ。

 ふかっとした赤い絨毯。

 すごい、瞬きしただけなのに景色が違う。

 少しだけお腹辺りが落ち着かない。臓器が元の位置に戻ろうとでもしているかのような……。

 フル武装の鎧の人が、おじいさまに向かって手を胸に当ててから60度に腰を曲げる。戻すときに足を踏み鳴らしたので驚いた。


「クジャク公爵さまで、お間違いないでしょうか?」


「そうだ」


 コウシャク? 貴族ってこと?


「皆さま、隣の部屋にて待機していただきますよう、お願い申し上げます」


 部屋は8角形で、辺にあたるその8箇所全てが扉だった。

 鎧の人がそのひとつのドアを開けた。

 そこにはロサとイザーク、そしてガーシとシモーネがいた。


「みんな!」


「無事、合流できたな」


 ロサが笑うけど、なんか違和感。


「どうした、変な顔して?」


 イザークに言われる。


「あれ、なんか?」


「ようこそ、ユオブリアへ」


 ロサがにっこりする。


 あ、そっか。ここはもうユオブリアで。

 あれ? そういえば。言葉。あれ? あれれ?


「トスカはユオブリア語も堪能なようだ。よかったな」


 と続けた。


 そうだ。フォルガード語じゃない。

 鎧の人もフォルガード語じゃなかった。

 でも、わたし理解できた。それに()()()


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― 新着の感想 ―
トスカのこの強迫観念は記憶を取り戻すまで消えなさそうだなあ。 合流地点、突入してきたのが組織の人間なら組織にめっちゃバレてるけどどういうことだろう? 偽装が無駄だったにしても追いつくの早すぎるような…
遂にユオブリアへと帰還。 少しは落ち着いた暮らしができるといいんですが。 そういえばリディアの翻訳って同時通訳的な聞こえ方なのかそれとも全て日本語で聞こえてくるのかどっちなんでしたっけ?
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