第850話 逃走劇②……からの
「ちょっと遠いところに行くんだってな。その前に会えてよかったよ」
ジンたちはわたしがちょっと遠いところに行くので、その前に買い物と食事はどうだ?と提案されたそうだ。
そっか。わたしは本当によくしてもらっているな。
遠いところ……ユオブリアとは言ってないみたいだ。
わたしはコトあるごとに注意を受けている。
それは発言についてだ。
公けにすると自由に生きづらくなることが多々あるそうだ。
わたしの場合、それがもふもふやぬいたちと話せることだったり、光魔法の使い手は少ないらしく、それもあまり言ったりしない方がいいこと。テンジモノかと思われるような言動も慎んだ方がいいとのことだった。もふもふやぬいたちのことも秘密にした方がいいそうだ。
言っていいかどうか判断がつきにくいことなら、言わない方を取るんだと言われた。それからこれからユオブリアに行き、瘴気をとってもらうことなども、言わない方がいいと。
みんながわたしのためを思って言ってくれるのはわかるけれど、禁止事項が多すぎて、なんか頭の中がぐちゃぐちゃだ。
ユオブリアに行くことはジンたちにも秘密のようだ。
その縛りは悲しいけれど、こうして会わせてくれたことに感謝しかない。
わたしはみんなと買い物を楽しむことにした。
どこのお店もすっごい愛想がいい。
「ウッド商会です。品揃えが豊富です!」
聞いてもないのに、アピール強っ。
この通りはほとんどがウッド商会が経営しているらしく、ウッド商会通りと名が通っているそうだ。
お金はけっこうある。
ドラゴンを治癒した功績が大きく、手当てを弾んでもらえた。これから精霊を癒していくのにも手当てが出るそうだ。ラッキー!
みんなも情報料の報酬をもらったので、それで何か買いたいと真剣に吟味している。
わたしはまず、ガーシとシモーネのお土産を選ぼうと思う。でもできたら、ロサ、アダム、イザーク、そしてフランツにも何かプレゼントできたらなと思っているんだ。だってすごくお世話になってるもん。フォンタナ家の人たちはいっぱいいるから、詰め合わせみたいな数の入ってるお菓子を買っていこうかな。
でも一緒にいると買いにくい。すぐ後ろで商品を見ているのは、アダムとフランツだ。
うーむ。
まずはガーシとシモーネに絞って。何にしようかな?
あ、きれい。
束ねて太くした糸を編んで丸いきれいな石を包み込んだものだ。下にはふさふさした糸を出している。
「贈り物ですか?」
店員さんに話しかけられる。
「お土産です」
わたしは声を潜めた。
「お守りとして人気なんですよ。こちらの輪っかになっているところで、持ち物にくくりつけることができます。剣の柄なんかにつけても素敵ですね」
とにっこりと笑う。
「石によって願いが違うんですか?」
店員さんは首を傾げた。
あれ、違うのか。色違いのものが揃っていたから。
「お嬢さま、どういうことでしょうか?」
「ええと、こっちの薄い緑色のは健康を願うもの。桃色なら恋愛。そんなふうに石で込める願いが違うお守りなのかと思ったんです」
「それは素晴らしい考えですわ! ぜひ採用させてください」
え?
「え、そんな」
元々、石の性質こみで作ったのでなければ、意味が違ってきちゃうんじゃない?
「主人を通して、いずれご連絡させていただきます」
と、後ろのフランツとアイコンタクトを取っている。
なんだ、知り合いなのか。
ええっ?いいのかと思いながら、わたしは愛想笑いをし、水色と、黄緑色の石のお守りを買った。
そして、この形いいなーと思った。
わたしと、もふもふと、ぬいたちとお揃いの何かを作ろうかな。
そう思っていると、次に入ったお店でいいものを見つけた。
宝石にも見える小さくてきれいな石なんだけど、まとめて安く売っている。これなんかいいんじゃない?
生きるのにどうしても必要な物とは違う、ある意味無駄遣いできるのは嬉しい。テンションが上がる。
「お嬢さん、これはクズ宝石だ。あまりにも小さいから、宝石として売るのは難しいもの。宝石としては扱えないから値段もグッと下がっているけれど、この輝きは本物だ」
その心意気が素敵に思えた。
これを加工して、糸を編み込んでぶら下げられるようにして、もふもふたちとお揃いのアクセサリーにしようと思う。
「トスカ、それ買ったの?」
「うん、もふもふたちとお揃いにしようかと思って」
あ、ミミはもふもふぬいのことは知らないんだよなー。
「へー」
ミミの興味を引くことではなかったみたい。
ミミはあんなにもふもふをもふっていたのに、今日は一度ももふもふのことを聞いてこない。もふもふラバー仲間かと思ってたのに。
「トスカはあと何を買うの?」
「お世話になってるから、みんなへのお礼に何か買おうと思ってるんだ」
ふぅんとミミは頷いた。
それから食事をとった。
見守ってくれるのはありがたいけど、トイレにまでついてくるので、お手洗いに行った時に、ミミに愚痴った。
だからだろう。食事処を出ると、ミミがわたしに耳打ちする。
「トスカはアダムたちにわからないように、贈り物を買いたいのよね?」
「うん、できたらね」
「それじゃあさ、いいこと思いついた!」
え?
「トスカ、記念にお揃いのものを買おう」
ミミが大きな声で言って、わたしの手を引っ張る。
「あの髪飾り屋を見よう」
チラリとアダムたちを見ると微かに頷く。
ウッド商会通りは自由にしていていいと言われていたし。
ミミとお揃いのものを買うことにしよう。
「ねー、これ可愛いね」
ミミが手に取ったのはカチューシャだ。
リボンとキラキラ石がついていて、そそられる。
「こっちは、きれいな布が巻いてある」
「本当だ。ね、これも可愛い」
「本当だー」
「ねートスカ、あっち!」
え? そっちは商会通りから外れちゃう。
「ミミ、そっちは」
「アダムたちに秘密で買いたいんでしょ?」
そうだけど、心配をかけるのは本意ではない。
「すぐそこよ。見えるところだわ」
それはそうだけど。
路地に入り、すぐの店に入る。
小物を売っている。ブレスレットや指輪などが置いてあった。
「トスカ、お城にいたんでしょ?」
商品を見ながらミミが何気なく言った。
「え?」
ミミはキラキラさせた目をわたしにむけた。
「どんなふうだった?」
みんなから今までのことも、これからのことも気をつけて話すようにと散々言われた。そして今日誘ったミミたちにさえ、ユオブリアに行くとは言わず、遠くと告げていた。
だから彼らが話したとは思えない。それなのに、どうしてミミはわたしが城にいたと思っているんだろう?
城にいたと思っているのは……。




