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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第843話 潜入⑦ 咎

「リ……この者はその願いを叶えると言いましたか?」


 フランツがドラゴンに問いかける。


『……我を……屠って……くれ』


 それには答えず、ドラゴンは願いを繰り返す。

 軽いため息の後に、アダムが剣を抜いた。


 え。


「ちょっと待ってくれ」


 それをフランツが止める。


「トスカはどう思う?」


 え、わたし?


「トスカはドラゴンの願いを叶えたいと思う?」


 頭の中に声が響く。


 ーー魔物を屠るのは当たり前のこと。


 その通りだ。

 ……この有様は酷い。残酷で醜悪で汚くずるい。

 光魔法って切り落とされた手足が生えてくるの?

 もしそうじゃなかったら、壁から外されたとしても動くのが困難な、大変な状態なんじゃない?

 元気になったとして、人族にやられたわけだから、よくもやってくれたなって襲ってくるかもしれないし。

 何よりドラゴン自身が、屠ってと願っている。

 わたしは恐る恐る頷く。


 するとフランツはアダムの剣を奪って、柄の方をわたしに差し出した。


「「え?」」


 わたしとアダムの声が重なる。


「君がそう思うなら、ドラゴンの望みを叶えよう」


「おい、彼女にそれをさせるのは酷ってものだろう」


 アダムがフランツに声を荒げた。


「ひとりではさせない。私が同じ咎を負う」


 迫力ある一喝にアダムは一歩下がる。


「君が考えて出した答えなら一緒にそれを背負う。だから流されるな。ちゃんと考えるんだ。自分がどうしたいかを。したいことが見つかったなら、それを全力で支える。だから怖がるな。君はそれができる」


 剣を持たせられる。フランツも一緒に握っている。

 フランツは本気だ。

 ドラゴンの願いを叶えてやりたいと思うなら、わたし自身で止めをさせと言っている。自分も手を貸す、と。


 急に暑くなったわけではない。けれど汗が出てきた。それなのに、身体からだの温度は冷えていく気がする。身体が冷たい。

 わたしは首を横に振った。


「どうしたの? 願いを叶えたくないの?」


「ドラゴンは魔物なの」


「そうだ」


 フランツは頷く。

 視界がひどく狭まっていた。同じ剣を握っているフランツしか、この時見えていなかった。


「魔物を殺すのは当たり前のこと」


「……そうだな」


 目の前のフランツは頷く。


「魔物は瘴気を減らすために、生まれた存在なんだから」


「……それで?」


 フランツは目を少し細くしながら促す。


「人と魔物は共存できない。らなければられるだけ」


「そうだな」


「魔物を屠るのは当然なの!」


「その通りだ」


「瘴気が蔓延すれば、みんな死んじゃう」


「そうだな」


「神さまは酷い。地上に干渉するのはタブーだからって、瘴気を蓄えられる魔物を創り出した。地に還る時、瘴気も消滅するように。そんな世界を救ってくれてる救世主の魔物を、人々は恐れながらも屠る」


「……君はいろんなことを知っているようだね」


 一拍置いてから、フランツはそう言った。わたしは続ける。


「生まれたのに、死ぬことを望まれた存在」


「そう思うなら屠ればいいのに、さっきからどうして言い訳ばかりしているの?」


 フランツに目を覗き込まれる。

 言い訳?


「ドラゴンも願っているし、私たちも誰もそう思うことを責めていないよ? それなのにどうして君は言い訳ばかりしているの?」


「それは……」


「それは?」


「……生きて欲しいから」


「……それで?」


「こんな酷いことをした人族を許してなんて言えない」


「言えないね」


「切断された四肢を、光魔法でどうにかできるものなのかもわからない」


「そうだね、わからない」


「元気になったら、人族を許さないとも思う」


「そうだね」


「でも……。本当はそんな思いも、神さまのしたことも、関係なくて。

 目の前でそんなふうに酷いことをされた子を、そのままになんてしたくない!」


 フランツの声のトーンが変わる。


「……治せるかわからないし、元気になったら襲いかかってくるかもしれないよ? それでも助けたい?」


「元気になって、許せないと屠ろうとされたら、わたしも闘うわ。だって、それが道理でしょう?」


「そうだ。道理だ」


「けど……」


「けれど?」


「治してまた屠るのは、わたしのただの自己満足。辛い思いを長引かせるだけ」


「そうだね、人族の傲慢な気持ちだ」


 フランツは容赦ない。けれど、それがありがたかった。


「だからこのまま屠るべきとも……」


 迷う心に、フランツが切り込んでくる。


「欺瞞、傲慢、それでもいいよ。でも、君の最初の気持ちは何? このドラゴンに何をしたい?」


「……助けたい」


 目頭が熱くなり、わたしは呟く。


「そうだ。それこそが、わたしの知ってるリディーだ」


「……リディー?」


「君はこの小部屋に入るのを怖がっていた。見てはいけないと我々に警告してきた。何が怖かったの?」


「知らない」


「いや、知ってるはずだよ」


「おい、フランツ」


 今まで黙っていたロサが、フランツの肩を持って止める。


「このドラゴンが見ていた。君は弁護人と言い合っていた。それぐらいは思い出せるはずだ。何が怖いの?」


「怖くなんかない」


「そっか。怖くないんだね?」


「怖いけど、怖くない。怖がるのを喜ぶから」


「……君のせいだと言われたんだね?」


 急に。のびやかに、意気揚々とした声が頭に響く。


ーーお前が殺したんだ。お前のせいだ


「わたしは殺してない。わたしのせいじゃない」


「そう言われたんだね? 君が殺した。君のせいだと」


 熱いものが目からボロボロと落ちる。


「兄さま、いじめちゃ嫌でち」

『リー、泣いてる』

『リー、泣かないで』


 フランツがわたしの手から剣を抜き取って、アダムに返した。


「大丈夫だ。よく見て。ドラゴンは生きてる。まだ間に合う。君は殺してない。君のせいじゃない」


 わたしはドラゴンを殺してない? わたしのせいじゃない?

 目の前の赤い塊は、話すのもやっとだけれど、生きている。

 屠ってくれと懇願する……生きているから。

 わたしは殺していなかった。わたしはドラゴンを殺していなかった。


「どういうことでち?」


 アオがみんなを見上げる。


「マルシェドラゴンの話を聞いただろう? 途中で気を失ったから、トスカは最後まで見ていない。それをいいことに、トスカのせいでドラゴンは死んだと聞かされたんだ。だから、ここには()()()ドラゴンがいると思った」


「それで怖くて、見てはいけないものだったんだな」


 腕を組んで隣にいたイザークが続け、納得したとばかりに頷いた。





 

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― 新着の感想 ―
リディアは自分の気持ちに正直に動いた方が良いと思う。事態もよく好転することが多いし。ホルクの誘導に流されず気持ちを曝け出せてよかった。 他の人達はともかくフランツは家族としてずっと一緒だったのに急に初…
弁護人の言葉が頭に響いていても自分の気持ちに正直に自分の信じた道を突き進む、それこそがリディアですよね。 ここから治療に入りますが完治してくれると良いですね。
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