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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第841話 潜入⑤失った記憶<後編>

「気に入られたのなら、ついでにそのドラゴンからも加護をもらってはどうだ? 君の持つ加護の力を封じ込めることが目的だから、ひとつ増える」


「加護の詳細を知らないくせに」


 わたしも知らんけど。

 男は嫌味たらしく笑った。


「実際の護りは関係ないのですよ。加護のある何かがあれば安心するものだ。

 もうすでに、いくつかの王家から、加護玉に高値がついています」


 需要があるってのが厄介なところね。

 加護玉は新たな商品なのね。

 新たな商品ってことは、今まではなかったもの。そう、新たな加護という原本が手に入ったということ。

 見込みだけど、わたしの〝加護〟だ。

 どれくらい時が経っているかはわからないけど、わたしが誘拐されたことは公けにされているだろう。つまり、加護玉の加護はわたしの加護から何かしたってわかりそうなもの。それなのに、高値をつける王家がいるわけね。

 厄介だわー。


 怖くないと言ったのは嘘だ。

 こんなドラゴンの状態を見てしまったから、憤った怒りで強くいられたけど。

 魔法も使えない状態で、たったひとりは心細すぎる。

 残酷な団体……。わたしが生きているだけで加護の力を抜き取れるものとされたら、わたしも四肢を切り落とされて磔にされるかも。

 わたしじゃ、どこか1ヶ所切られ血を10分も流せば御陀仏(おだぶつ)だろう。すぐ死んじゃうよ。組織の人たちは、それぐらい想像できる頭あるよね? 

 怖がっているのはバレちゃいけない。常に強気で、でもドラゴンが教えてくれたことを守って煽らずに。


「では、加護について話してもらいましょうか。魔法で取り込むことはできなかったようなので。〝詳細〟をあなたは知っているのでしょう?」


 2歩、3歩と近づいてきた。


「嫌よ。わたしをこんな目に合わせた人のいうことは、意地でもきかないわ」


 もう高値がついているということは、わたしの命は保証される。

 加護の力が玉に込められるまでは。

 気を失っている状態のわたしからは、加護を移せなかったようだから。

 そしてそれは、どんな方法をとったとしても永遠にできない。

 だって、わたしには加護なんてないんだから!

 わたしにあるのは神獣・ノックスさまの祝福だ。

 聖獣・もふさまにおいては一緒にいるだけで、加護や祝福をもらったりはしていない。

 ただ時は有限。

 実際の護りは関係ないって言っているから、あまりにもできなさそうだったら痺れを切らして、嘘の加護玉を作るかもしれない。

 いつ豹変するか、わからない。もうお前いらないってなったらアウトだ。

 でも最初は加護をこめられないかと四苦八苦することだろう。


 っていうか、この場に誰もこないな。

 この男、実はえらい人なのかもしれない。高位の何かがついている人。

 この人に(ちょく)で憑いているのか、バックについているのかはわからない。


「加護玉を作るのに協力するなら、このドラゴンを開放してもいいですよ」


 手を変えてきた。何が目的?


「……どうしてそれが、わたしの利益になると思うの?」


「この数分、あなたとのおしゃべりを楽しんでいたわけではありません。

 あなたの人となりを見ていたのです。あなたは魔物にも愛情を向けるタイプの人間だ。そしてこの状態のドラゴンが、あなたに手を出そうとした私に攻撃を仕掛けた。あなたたちにはわずかな時間で絆が生まれている。ということは、あなたもこのドラゴンを助けたいと思っているでしょう。違いますか?」


 わたしが黙っていると続ける。


「助けるのはやめた方がいいと思いますね。力が少しでも戻ったら、すぐにやられますよ。人を恨んでいるでしょうから。100年もこうして生き血を注いでもらって、そろそろ変えようかと思っていたんです」


「100年?」


 思わず反応してしまった。

 痛々しいドラゴンを見上げる。こんな状態で100年も?

 長い間って、そんなに? それは辛すぎる……。憎んで破壊したくなるのも当然で、むしろわたしを助けてくれたことが異例だ。

 何で、なんで組織は、こんなひどいことができるんだ……。

 ドラゴンは浅い息を繰り返す。


『……我を……屠る……人族よ。……弱き……者よ。……我……の息が……ある間……だけ……加護を……授けて……やろう』


 驚いて壁を見上げる。痛々しい姿に、目の奥が熱くなる。

 ここで声を出したら、話せることがわかってしまう。


「変えるって……?」


「そのドラゴンを用済みにして、新しい魔物に変えるんです。ちょっと魔物が用意できなくてと溢せば、融通するのを条件に、喜んで魔物を差し出してくれるでしょうからね」


 男は笑みを浮かべる。


「醜悪でしょう、人間は? 滅びるべきは人族なんですよ」


 クックックッと喉の奥で笑う。

 軽い口調だったけど、重たく響く。


「なるほど、お嬢ちゃんにはこちらの方が効くんですね」


 男は急にドラゴンに近寄った。


「ちょっと何する気」


 わたしは走った。


『……マルシェ……ドラゴン……の……ホルクが……弱き……人族に……我の……護りを……永遠……に……』


「ダメです、やめてください!」


 ドラゴンに叫ぶ。

 そんな状態で加護なんて力を使ったら、絶対まずいでしょ。

 あ、なんかわたしに降りかかっている。温かい〝気〟が。


 男は振りかぶってドラゴンに短剣を突き立てようとした。

 阻止しようと間に入ると、男は笑う。


「本当にこっちの方が効くんだな。

 答えなければ、お前のせいで、このドラゴンは死ぬぞ?」


『我は……事……切れるのが……望み。……弱き……者よ、助けよ……うと……するな……』


「わたし決めたわ。ドラゴンを解放して傷を治す。あなたたちの組織を世界議会に突きつける。そして罪を償ってもらう」


「傷を治したら食われるのはまずお前だろう。そうなっても屠らないのか、食われてやるのか?」


 楽しそうに聞いてくる。


「元気になった状態から、向かってくるなら倒すわ。それが道理ってものでしょう?」


 キッパリ言い切ってやると、怯んでいる。

 わたしが答えを出せなくて、メソメソするとでも思ったか?


「泣いて戸惑うなら可愛げがあるってものだが、意思が強すぎてつまんねーな。

 それに腹に信念がある奴は、自分に何があってもゼッテー口を割ったりしない」


 わかってるじゃないか。

 口調が砕けてきたな。きっとこっちが地だろう。


「お嬢ちゃんから聞き出すのは無理だ。加護を玉に込めるやり方はこちらであみだそう。

 さて。こいつは用済みだ」


 男は再び短剣を持つ手を振り上げた。


「やめて!」


「これはお嬢ちゃんへの罰だよ。お嬢ちゃんのせいで、このドラゴンは用済みとなる」


『惑わ……される……な。……我は……それが……望み……』


 男が何度も剣を突き立てる。

 魔法を使っているんだろう、短剣がのめり込み引き出すときに、一瞬だけ血が吹き出す。


「もう血も少ねーから血管が細くてな、吹き出すのは一瞬だけなんだ」


 何度も何度も。

 わたしはその手にしがみつく。


『弱き……者よ……、我の……望みを……叶えよ。……我を……屠って……くれ』


「いやだって言ってんでしょ! こんなのが最期の記憶なんて、そんなのダメ!」


「駄々っ子だねぇ。嫌だろうが駄目だろうが……これは全部お嬢ちゃんが引き起こしたことだ」


 そんなわけあるか!

 わたしは短剣を持つその腕に噛みついた。

 男が手を払い、わたしは吹っとび、壁に激突した。

 目の前が霞む。

 血を吹き出すたびに、呼吸が弱くなるドラゴン。


「お前の願いは叶わない。お前のせいで、このドラゴンは死ぬ。お前が殺したんだ」


 頭を振る。視界が揺れるけど、そんな場合じゃない。

 魔力はまだ使えない。震える足で立ち上がる。

 再び突進しようとしたわたしに、男はため息をついて、ポケットから何かを放り投げる。細い黒い煙がこよりとなり、わたしに向かってくる。


「お前が殺したんだ。お前のせいだ」


 目の前で吹き出す赤い血。

 茨のようにところどころトゲをかかげ、わたしにまとわりついてくる黒い煙。


《お前が殺した》


 わたしじゃない。


《お前のせいだ》


 違う。


《お前が殺した。殺していいんだ。だって瘴気を多く宿す()()なんだから》


 違う!


《お前は当たり前のことをしている。だって魔物は人に害をなすのだから》


 そうとは言い切れない。

 わたしは知ってる。レオも、アオも、アリ、クイ、ベア。みんなのことを知ってる。


《屠っていい魔物とそうじゃない魔物の差はなんだ?》


 ……こちらが捕食の対象かどうか。


《本当にそれだけか?》


 それだけだ。


《いいように決定づけてないか?》


 …………。


《ずるいな》

《非道なのは誰だ?》

《残酷なのは誰?》

《一番悪いのは誰?》

《見ないフリしている人》

《わからないフリしている人》

《心の内の醜さに、気づかないフリしている人!》


「いやーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!」


「瘴気も効くか……」


 誰かに覗き込まれている。


「お前は悪い子だ。ドラゴンを殺したのはお前だ」


 ……わたしは悪い子で、わたしはドラゴンを殺した。

 視界が黒い煙に埋め尽くされ、あとは何もわからなくなった。


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― 新着の感想 ―
えっ魔法やスキル、ギフトだけでなく加護も玉に込められるの?何処の王家だろう? 魔法で取り込めなかったって実際は加護持ってないからセーフだっただけで、リディアの意志関係なく寝てる間に本来は取り込めたって…
リディアが先に行きたがらなかったのはこの先にドラゴンがいる(いた)からなんですね。 途中で人族は滅ぶべきと言ってましたがもしかして弁護人は人ではなく彼自身が何か高位の存在なんでしょうか?
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