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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第819話 笑うことを忘れた少女⑱幾重ものヴェールを纏って

 思い描いたものと違うみたいだ。


「テンジモノってどういう意味?」


 わたしは尋ねた。


「聖女さまは知ってる?」


 聖女……聞いたことがある。


「ええと、その時の危機に必要な、女神さまの聖なる力を授かる人のこと?」


 記憶にヒットしたので、嬉しくなってわたしは告げた。

 あれ? でも女神さまからってことは神属性なのに、なんで聖なる力になるんだろう?


「……女神さまの聖なる力?」


「違った?」


 そうだった気がするんだけど。


「いや、そうなのかもしれないね。聖女はその時の〝危機を丸ごと〟浄化できる力を授かる女性のことだ。

 もちろん危機を免れる。救われるわけだけど、聖女が現れた時は歴史が大きく動くとも言われている。

 聖女が現れたわけではないのに、やっぱりそうやって歴史が動く時があって。

 聖女のようなそういう力があるわけではないけれど、世の中を刷新するような考えを持つ者が現れる。その斬新な思いで世界を変えていく者をテンジモノっていうんだ。

 テンジモノが現れると一気に文明が発展する。

 古い書物にあるテンジモノを検証している人たちが、一部では聖女の男性版をそう呼ぶのではないか、とか、他の世界からきたんじゃないかと、その記憶を持っている人なんじゃないかって意見も出ている」


「他の世界?」


 胸の中で何かがコトンと音をたてた。


「創世記……は知っているかな?」


 創世記……神さまと魔物と女神さまと聖霊王。

 フランツに支えられた。

 頭が痛い。急な痛みに頭を押さえていた。


「ゆっくり息をして。大丈夫。何も怖いことはないよ。私……たちがいるからね」


 優しい声音に、そんな声も出せるんだと思いながら見上げる。

 呼吸が少しずつ落ち着いてきた。


「君は息苦しくなったのが、何故だかわかる?」


 アダムに聞かれて、わたしは首を横に振る。

 ふるふると動かしたら気持ち悪くなった。思わず口元を押さえる。


「そうなった時、何を考えていた?」


 何を考えていたって、創世記のことだ。


「創世記?のことだと思う」


 3人は目を合わせている。

 フランツがわたしの前に回り込む。


「君は記憶をなくしている。そのことで頭に負荷がかかっていると思うんだ。そんな時に頭に必要以上に働きかけると、負担がかかりすぎて頭が痛くなったりするそうだ。無理してはいけないよ。〝痛み〟は体が拒否している叫びだと思って。無理は絶対にダメだ」


 わかった?と確かめられて、頷く。


「創世記に記述があるんだけど、異界は存在する。成り立ちが違うし、世界の成長速度だって違う。魔法がもっと進んでいる世界だってあるだろう。

 その進んだ文明の世界の記憶を持つものが、この世界で生まれる。そういう人がテンジモノではないかという意見もある。

 僕はそれが正しいのではないかと思う。君は異界の記憶を持ったテンジモノなんじゃないかって」


「わたしが異界の記憶を持ってると思うの?

 それはどうか知らないけど、今は記憶をなくしているから、それもわからない」


 そうだね、とアダムは笑った。


「テンジモノだと、捕まるとか、何かあるの?」


 わたしは下からアダムの目を見る。


「……知られたら、知識に群がる人が出てくるかもしれないね」


「たとえば、悪いことに使おうとして? わたしがテンジモノで、その知識をバッカスの悪事に使ったって言ってる?」


 アダムは思ってもみなかったことを言われて驚いたように、目を大きくしている。

 わたしはみんなから何かを言われるのが嫌で、先に言った。


「わたしはバッカスで何か悪いことをしたかもしれない。でもこれは本当。何をしたか覚えてない」


 せめて嘘をついているわけじゃないと、言い訳のように言い募った。


「なんでそんなふうに思ったんだい?」


 ロサに優しく尋ねられる。彼は続けた。


「だって、君は魔力も少ないんだよね?」


「今はないって看守が言ってた。

〝アリの巣〟を崩落させた原因で怒っているなら、全員を捕まえるか、わたしたちを殺そうとしたはずだと思う。でも、どっちかというと、殺そうとしたんじゃなくて捕えようとしていた気がする」


 だって矢は射られたけど、威嚇だった。


「捕えて売るつもりなのかもしれないけど……。それに全員じゃなくて、わたしを狙ってた。ターゲットなのだとしたら、わたしになんらかの利用価値があるってことでしょ? 

 親に力があってわたしを人質にしたいからかとも思ったけど、捨てられたんだから、その可能性は低い。だとしたら、わたし自身に何かしら力があるから。必要とされることがあるから。

 わたしは何か悪いことをしてたのかもしれない。今はできなくなっているけど、またそれをできるって思われているのかもしれない。

 ……わたしがピンポイントに狙われて、すぐにみんなとわたしを引き離したってことは、何か思いついているんでしょ?」


 顔を合わせている。


「話の腰を折って悪いけど、ぴんぽいんと、とは?」


「ええと……狭まらせた狙い目? って感じ」


 3人は鷹揚に頷いたけれど、ガーシは首を傾げている。


「……誤解させたようだね。君が悪いことをしたとは思ってないし、悪いことはしていないはずだ」


「なぜわかるの? わたし、記憶がないんだよ? 何したかわからない」


「……やったかどうかもわからないことで胸を痛める人は、何があったとしても、悪いことに手を染めない」


 目の奥がじんとした。


「君は実は繊細なんだね。いつもふてぶてしかったり、興味のないフリをする態度で、何重にも自分を包んで守っていたんだ」


 自分を守っていた? ふてぶてしい態度や、興味のないフリで?

 少しだけ思い当たる。

 弱い自分を見せるのは嫌だ。それで弱いと指を突きつけられてしまったら、もう何もできなくなってしまうから。


 〝アリの巣〟で何か思うことがあっても、何か思ったことをわからないように繕っていた。

 興味もないし動じない自分を作り上げていた。


 それがいいとか悪いとかはわからないけど、今のロサの言葉でわたしは自分を守ろうとしていたことを知った。

 

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― 新着の感想 ―
聖女様、前世と今世のどっちの知識で引っ掛かったんだろう?『聖女』は神属性は必ず持つけど聖力はないんだっけ…? 異世界やテンジモノより創世記の方が刺激強いのか。人族には話しちゃ駄目な夢の中でのお話とか…
リディアが記憶を失ったのは瘴気のせいなのか他の原因があるかわからないから少しずつ思いだしていくしかないみたいですね。 「他の世界」みたいにカギとなるワードがあったりするんでしょうか?
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