第809話 笑うことを忘れた少女⑧必要経費
門のところでジロジロ見られた。
通行書を見せるかお金を払うように言われたので、お金を払う。
前の人たちも同じように言われていたので、子供だからって舐められたわけじゃないと思う。
街の中に入ると、お店や家が立ち並び、人の多さに驚く。
パン屋に入って、パンを買った。
エダに慣れているなと言われた。自分はお金のこともわからないので助かると言われた。
ハッとした。
わたし、お金のことわかってる。わたしも組織の出身だけど、エダたちと違って親と一緒のため自由だったのかもしれない。買い物をしたこともあるようだ。
冒険者ギルドがあったので入ってみる。
エダはすっごく嫌がったけど、強制的に連れていった。
簡易地図を見るのが目的だ。
ここはエレイブ大陸みたいだ。中央より、少し上。
バート支部と書いてあるから、バートという街なのかもしれない。
エダの手を引いて出る。
ギルドの外で伏せていた、もふもふが体を起こした。
「ここだとまずいけど、他の街でギルドに入ろう。通行証もできるし、お金を稼げる」
「……トスカはいろんなことを知っているんだね」
エダが目を瞬いた。
「記憶はないけどね。こういう時、情報集めるなら居酒屋がテッパンなんだけど、わたしたち子供だからな」
その時、目の前の肉屋のおじさんに話しかける人がいた。
「おい聞いたか? 山向こうの鉱山が崩落したってよ」
!
「本当か? 怪しいところには違いないが、逃げられたのかね? 怪我人は出たのか?」
「ほらあそこ秘密主義だから。ただ、ホメール商会がいろいろ揃えてくれと言われて運んだそうだ。子供がいっぱいいたって話だ」
「子供が? 鉱山で働かせてたのか?」
「多分そうだったんじゃねーか? だからミルクルイの衛兵が動いたそうだ」
「じゃあ、こっちにも来るんじゃねー?」
「ミルクルイはこっちにも人を送ったそうだ。だからトン爺のとこの宿屋も予約でいっぱいだとよ」
「あの、すみません」
会話に割って入る。
「ん、なんだい、お嬢ちゃん?」
「宿屋がどこもいっぱいって本当ですか?」
「ん、ああ。表通りはもちろん、外れの方もだ。商業ギルドに大量の予約が入ったみたいだから」
「ミルクルイって山越えて、さらに森の向こうですよね?」
あてずっぽうで言ってみる。
「ああ、そうさ」
確証を得て、エダに向き直る。
「兄ちゃん、パンを買う前に宿屋に行かなきゃだったんだよ。宿屋取ってなかったって父ちゃんに怒られちゃうよ」
わたしは架空の父親を作り出して、肉屋とその知り合いの人に教えてくれたお礼を言ってエダを引っ張った。
「エダ、天が味方してくれた」
「え? どういうこと?」
「組織はアリの巣を表向き鉱山だと言っていたみたい。崩落して、調べられることになった。あっちも悪いことしてたから逃げるはず。ってことは、直接会ったりしなければ逃げ切れる!」
門に近いところにあった肉屋で干し肉を少し買い足して、それから隣の街への道筋を聞いた。
寒くはない季節だから野宿は辛くない。石造りの檻の中の方が辛かったぐらいだ。なぜかもふもふが一緒にいてくれるので、わたしたちの旅はずいぶん助けられた。
どこからか獣を取ってきてくれて、それをまるで売れというように目の前におかれ、そして実際に街などで売るとなかなかの値がついた。
それで食べ物を買ったり、服を買ったりなんだりしながら、3つほど街を渡り歩いた。
わたしは夜が楽しみだった。
もふもふのそばで眠ると不思議なことが起こる。
ぬいぐるみたちがまるで生きているように会議を始めるのだ。
毎日ではないけれど、この夢を見るとわたしは幸せな気持ちになる。
そして次の街についた時、わたしたちは逃げ切れたと判断した。
もふもふが狩ってきてくれた獣のおかげでお金が少し溜まってきたので、ギルドに入ることにする。そうしたらわたしたちも報酬でお金を手にできるから。この街を拠点として、しばらく暮らすことにした。
馬は馬屋さんにひと月ずつの更新で預ける。違う街に行く時には馬がいてくれた方がいいかもしれないから、売るのは見合わせた。かといって宿屋に預けるのではお金がかかりすぎる。馬屋さんに預ければ、契約している間、馬屋さんでも馬を使いながら預かってくれるので、どちらにも利がある。
ギルドに行ったけれど問題発生、わたしにだけ。
登録するために血を一滴取ったら、わたしはもう冒険者ギルドに登録済みのようなのだ。カードがないのなら、再登録になるので、それには5万ギルかかる。
最初に作るときは5千ギルで作れるのに。
もっとお金を貯めてからじゃないと、わたしのは作れない。
4人は嬉しそうに自分のカードを見ている。あ、9歳のミミのは仮登録となるそうだ。10歳からしかギルドの仕事はできないし、カードも作れない。9歳からは仮登録を作ることができる。これは10歳になったら本登録する前提で、9歳からの身分証とすることができるそうだ。
早くお金を貯めないとということで、初心者用の依頼を探しに行った。
ギルドの壁に依頼書が貼られている。受けたい依頼書を外して受付に持って受領してもらうシステムだ。
カードを作る時に、みんな、字が読めないことを知った。自分の名前が書けなかったのだ。これからは夜、わたしがみんなに字を教えることにした。
お金のことはみんなすぐ覚えた。覚えが早いから、数字や字も早くに習得できるだろう。巣の中で食料箱の数は数えたりするために、計算の概念も持っている。10より上の計算は危なっかしかったけれど、これもやっていくうちに覚えるだろう。
わたしが依頼書を読んで、みんなでどの仕事にするかを決めた。
薬草の採集にした。
みんなの護身用に短剣を買う。森の中に入るので必要な経費だろう。
親のいない流れ者のわたしたちは、生活基盤を整える必要があった。
いきなり街に流れてきた子供たちをすんなり雇ってくれるところもあるとは思えない。だからギルド登録を推奨したけれど、冒険者ギルドにいるということは、魔物と闘うこともあるかもしれないということだ。危険がある。ミミ、エダあたりは嫌がるかなーと思ったけど、そんなことはなく、嬉しそうにしていた。




