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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
17章 わたしに何ができたかな?

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第804話 笑うことを忘れた少女③脱出

 それから奴隷商人が来るという話が出るまで、わたしたちはいつもの無気力か怯えたフリをして仕事を続けた。

 ゴミの中から使えそうなものは、きれいにしてとっておくようにした。

 外でも着のみ着のままではいられない。

 食べるものだって確保しなくては。お金もいる。

 わかっていても、うまいこと集められはしなかった。

 

 外へのルートは覚える必要はない。

 出入口はひとつ。食料の搬入とゴミ出しのために毎日行っているからだ。

 扉は日中、閉ざされている。大きな錠前の鍵は上層部の看守が持っている。

 扉が開くのは朝の食料の搬入の時と、幹部が出かけたりする時だけだ。


 搬入の手伝いをしているけれど、扉より外に出るのは、ゴミを外のゴミ置き場に置きに行く時だけだ。搬入は大人たちが扉の内側に運んできたものを食糧庫に入れる。搬入の時、それより先の扉寄りにいると、目立つことになる。

 ゴミを出しには出るけれど、その時は見張られている。

 手伝いをするフリをしてそのまま外へというのは難しいだろう。いなくなったらすぐにバレて、探されてアウトだ。


 とうとうその日がやってきた。

 わたしたちが外に出るには、最初からその場にいる者ではない(イコール)手伝い要員ではないことが最低条件だ。そして出入口に人の目が向かないようにする必要がある。

 そこでハプニングを起こすため、前日に発注品の桁をひとつ足しておいた。それもナマモノ。50個が500個だ。どちらの発注ミスだとしても、どちらも簡単には認めたくないだろう。

 アリの巣側は金額だって恐ろしい額になるから、払いたくないし、商隊側もナマモノの返品、それも450個は痛すぎる。

 取引自体に待ったがかかり、ゴタゴタをなすりつけあうだろう。その時がチャンスだ。

 人が多いほど、言い合いで勝てると思っている巣の人たち。きっと喜び勇んで商隊の人たちに突っかかるはず。その隙に、扉の裏から外のゴミ置き場に隠れる。あそこにしゃがみ込んで、人がいなくなるのを待つ。それがわたしたちの立てた計画だ。

 


 奴隷商人が来る前日の晩ご飯は、少しばかり豪華だった。パンにチーズがついてきた。わたしはそれを食べずにポケットの中にしまった。

 明かりが消され、看守が出ていけば、朝まで誰もこない。

 牢のような檻の鍵だって閉められたことはない。

 でもわたしたちは入れと言われたら檻に入るし、出ろと言われるまで出たりしない。

 檻から出ても行くところがないからだ。


 でももっとひどい境遇になるのがわかっているなら、逃げ出すのは今しかない。 

 わたしたちは、暗闇の中で隠していた荷物を、大きめの布に風呂敷包みにして背負った。

 鉄格子の扉を動かせばキーッと錆びた音が響く。

 ジン、わたし、ミミ、エダ、シンガリはお調子者のマトンの順で歩く。

 わたしたちは一歩ずつ、息を潜めて進んだ。

 この近辺の穴には、わたしたちしかいない最下層。2階層上に上がれば通路には薄暗い明かりが灯されている。


 ここは下っ端の人たちが暮らしているエリアだ。この階層の人たちも魔力が低く、そして摂取されまくっているのでいつも元気はない。

 ここの人たちも眠るのは早いので静かだった。


 次の階層は通路に夜でも普通の明かりが灯っている。

 わたしたちは移動して、人のいない穴にこもる。ここで1時間ほど時間を潰そう。上に行くほど、夜遅くまで起きているから。


 誰もちゃんと外に出たことがなかった。正確にはここに来る前、そして来た時は外からなのだが。わたしの場合は以前の記憶はないし、袋に入れられて運ばれてきたので、独房から独房の移動という認識しかない。どの大陸のどこにアリの巣があるのか、わたしたちは知らなかった。そこは不安だ。

 といっても、どこだったらどう暮らせるとかノウハウがあるわけではないから、結局どこだったとしても同じではあるんだけど。


 明け方が近くなり人が起きだしたのか、ざわざわしてきた。上の階層へと移動した。


 マトンが後ろを気にする。気にしすぎてる。

 マトンが手洗いに行くと言った。この階の共同トイレに。


 わたしは送り出してから、ちょっと考えて、隣の部屋にみんなを移動させた。

 みんな何で?という顔をしたけれど、したがってくれた。

 少しするとバタバタと足音が聞こえた。

 隣の穴に入っていって、いませんという確認しあう声が聞こえる。

 わたしは息をのんだミミの口を押さえた。


「あんのガキ、嘘いいやがって!」


 ジンとエダの瞳が暗くなる。何が起こったのか理解したんだろう。

 大人たちは来た道を戻っていく。足音が遠ざかっていく。

 ここにいなかったものの、最下層を見に行き、わたしたちがいないことがわかれば、出入口は塞がれる。


 あ。わたしは隣の隣の部屋へと移動した。

 朝の食材配達の時、代わりに出ていくものがある。それがゴミだ。

 ずた袋のゴミの中に入るようにミミに指示する。何で?と小さな声。涙目だ。


「動くな。わたしたちはゴミだ。ゴミになって外に出るんだ。わたしが大丈夫と言うまで動くな。そして声をあげるな」


 ジンとエダは、お互いにゴミを装う手助けをした。

 わたしは、ゴミの箱の中に入り込んだ。

 臭くて暑くて最悪だが、ここにいて売られるよりはマシなはず。

 発注量のことですったもんだあったみたいで、ずいぶん時間が経った。だから隠れる余裕があったんだと思う。


 目論見通りわたしたちは外のゴミ置き場に出された。

 ざわざわしている。文句が凄い。

 わたしたちがいなかったから、もうちょっと上のランクの人が、手伝い要員に駆り出されたようだ。文句を言いながら、食糧庫に食材を運び込み、ゴミは外に出すことも言いつけられたようだ。

 口を手で押さえて声を出さないよう気をつけた。

 落とされたらアウトだったと思う。

 わたしはまだ箱だからいいけど、袋の3人は衝撃がもっと直に伝わったはずだから、悪かったなと思う。でもわたしぐらいのサイズじゃないと、箱には入らないと思ったのだ。

 運んだ人たちは、ゴミがこんなに重いとは思わなかったと悪態をついている。普段やってないから、いつもよりかなり重くてもおかしいと思わなかったみたい。助かった。


 

 辺りが静かになり少ししてから、わたしはそっと箱の蓋を開ける。大丈夫、誰もいない。


 箱から出て、小さな声で3人を呼んだ。声をあげ動き出した袋を開けていく。3人とも無事だった。

 それにしてもお互いすごい匂い。臭くて嫌になる。


 ジンに引っ張られ、わたしたちは4人かたまって身を低くした。


「まだ見つからないのか?」


「ああ。外には出られないから、どっかの穴にいるんだろう。総出で探すって」


 新たなゴミを置きに来たようだ。

 袋をゴミ置き場に投げ入れて、ふたりは戻っていった。

 周りには建物などはなかった。

 少し先に森のようなものが見え、そこまで道が続いている。


 反対側は乾いた山に続くようだ。山と森。子供が選びそうなのは森だから、反対の山へと行きたい。けれど、水も食べ物も持っていない子供4人で、山を超えることが可能だろうか?

 ここは森に行くしかないか。


「おい」


 背中に声がかかり、わたしたちはつかまりあって息をのんだ。


「無事、脱出したか。やるじゃん」


 賭けを持ちかけてきた少年だった。

 わたしたちは少年を見上げる。

 少年の両肩にそれぞれ鳥とネズミがいたので、マジマジと見てしまった。

 動物使い?


「賭けの報酬だ。馬をやる2頭だ。これで遠くに行け」


 少年はわたしを馬にのせた。その後ろにジンが乗るよう指示する。

 もう一頭の馬にはミミとエダを乗せた。


「この馬たちは頭がいい。ただ落ちないようにしがみつけ、行け」


 わたしたちに何も言ういとまを与えず、馬の尻を叩いたのではないかと思う。

 パシンと小気味のいい音がすると、馬が走り出す。

 ジンがわたしに覆いかぶさるようにして馬に伏せった。


 馬は山道を登って行く。ジンが抱え込んでくれてなかったら、わたしは落ちたと思う。長い間走っていて、中腹辺りの川のところで馬は走るのをやめた。

 わたしたちは馬から転げるように降りた。足がガクガクしている。

 しばらく誰も口を聞けず座り込んだ。みんな馬に乗ったのも初体験だった。

 よく誰も落ちなかったものだ。


 馬は草を食んでいる。わたしたちは川で体を洗った。服ごと入って服も一緒に洗う。暑い日だったことに感謝だ。


 馬は鞍の後ろに荷物をぶら下げていた。

 そこには食べ物と水、それから5人分の着替え、そして小銭が入っていた。

 余った5つ目の服を見て、急に胸が重たくなった。

 


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― 新着の感想 ―
脱出おめでとう。トスカ、記憶がなくてもアドリブ強いね。マトン怖くなっちゃったんかな…今は逃げるので頭一杯だろうけど状況が落ち着くとへこみそう。 脱出失敗してたらガインはどうしてたんだろう? 闇ギルド…
脱出は無事に成功。でも後味が悪いですね… 始めからあちら側の人間だったのかな? そうでなかったとしても納得は出来ないです。
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