第788話 敵影②高度な魔石の使い方
魔力を魔石に入れ込むなんて、高度な魔力の使い方だ。それも純粋な魔力ではなく、技というか練り上げたものよね。
もふさまは魔石に魔力を入れて、通訳の魔具とかに魔石をするからそういう使い方があるのを知っているけど。
あれ? わたしも同じ方法で魔具を作っているか……。魔具を作るイメージだったから思い浮かばなかったけど、それって、攻撃魔法を魔石に入れ込むことができるってこと? なんで思いつかなかったんだ!?
魔石に風とか、水とか土とか火も、攻撃魔法を魔石で用意しておけば、魔力を使わなくても、それを投げるなりして使えるってことよね?
あれ、ひょっとして。
ひょっとして、スキルやギフトも魔石に入れ込めるってこと??
アラ兄がやってしまったことは、実は誰でもできること?
なんかすごいことができちゃいそうで胸がドキドキする。
いや、待て、落ち着け。
今はこっちが最優先だ。
「少し前にも、同じようにトルネード玉を作った?」
「うん、作った」
「そのトルネード玉を作った場合の威力がどれくらいかわかる?」
「いりょく?」
「そのトルネード玉を使った時、どれくらいの竜巻が起こる?」
「僕のだと両手の上で起こる竜巻ぐらいだよ」
うーん、それじゃあ、山崩れは起こせないか。
それじゃあ、山崩れはこことは関係ないのかな?
わたしはヴェルナーが、山崩れを起こした時と同じように、ここに土地に何かを起こさせる物を依頼したのではないかと思ったんだ。
でも両手サイズの竜巻なら穴だって掘れるかわからない……。
「……バイ玉と一緒に使うんだ」
トルネード玉の作り手とは違う少年の声がする。仲間に食べるのを止めた声だ。
「バイ玉って何?」
「効果を倍にするんだ」
「え? そんなものがあるの?」
と言いながら……それって〝玉〟というからには、やっぱり誰かに作らせているんじゃ?
それってスキルとかギフトを入れ込んだんじゃない?
ものすごく興味あるけど、今は我慢だ。
効果を倍に。両手サイズの竜巻が倍になったって……と思ったけど、もしその倍玉を複数使うことによって、大きな効果になるとしたら?
山崩れも、そして領地に悪さをすることもできそうな気がする。
作り手は、身寄りのない、行き場所のない子供たち。
その子供にそんなものを作らせる……、鍵はかけずに鉄格子の中に居させる嫌らしさ。それは閉じ込めて無理やりやらせているわけでなく、子供たちにやることを選ばされているように錯覚させるためだろう。飢えないぐらいに食べ物を与えて、ここにしかいる場所はないんだと見えない檻に囲われている。
子供たちをそんなふうに扱う仮面の人は、ダメ人間だと思う。
普通の矯正じゃ治らないと思う、心根は。
うん、それは法に任せよう。
「ねぇ、君たち。君たちはそこに居たい? 本当に逃げたいなら協力するけど」
一瞬、沈黙する。
「私、ここは嫌。私は外に出たい!」
女の子の声だ。
「協力するって言って、おれたちに何させる気だよ?」
先ほどの仲間を守るために、疑う役目を負ってる子の声だ。
「勘がいいね。逃げるのに協力するんだから、もちろんわたしのやりたいことも協力して欲しい」
わたしは息を吐いてお腹に力を入れる。
「逃げてもいいことばかりとは限らない。何が起こるかなんて誰にもわからないでしょ? だからちゃんと考えて。自分の人生なんだから、自分を大切にするの。どうしたいのか考えて、結論を出して。そこから出たいなら協力する。こっちも協力してもらうこともあるけどね」
「私は出る」
女の子が言った。
「お前、ちゃんと考えたのか?」
さっきの子だね。
「考えた。きっと逃してくれるなんて言ってくれる人、これから現れない」
「声だけだぞ、怪しいじゃねーか」
「食べ物、くれた」
「獣使って、テイマーってことだろ? 協力させるために餌を撒いたのかもしれない」
「それでもいい。私、もうバイ玉作りたくない。絶対、悪いことに使っているもん」
みんなおし黙る。
「僕も、協力するから逃して欲しい」
「お、俺も」
「俺も」
「キノ、キノはひとりだったら逃げられるのに、私たちがいるから逃げられなかったんだよね? 一緒に逃げよう?」
女の子が縋るように言った。疑う役目の子はキノという名前らしい。
「誰かくるでち」
アオが言った。
「また後で話そう。わたしたちのことは言わないでね」
アオたちに隠れるように指示して、フォンはスピーカーのまま繋げておいてもらった。
ドアが乱暴に開けられる音がした。
「おい、何くっちゃべってんだよ? 玉はできたのか?」
「ま、まだです」
「死にてーのか、お前は」
「もう少しで魔力が使えそうです。もうちょっと待って……ください」
「おい、ベル。お前は昨日3つしかバイ玉作らなかっただろう? 今日は7つ作っとけよ」
女の子の名前はベルというようだ。
「む、無理です」
「お前も殴られてーのか?」
啜り泣きが聞こえる。
「うるせー、泣きやめ。無駄に泣いて体力使ってないで、玉を作りやがれ。仕置きだ、夕飯はナシだ」
またガチャンと扉の閉まる音がした。
「出ていったでち」
アオにみんなの方にフォンを向けてもらう。
「どう、決まった?」
「……協力する。だから逃してくれ」
キノと呼ばれている子が5人のボスみたいだ。
「わかった。1日そこで頑張って」
「すぐに逃げないでちか?」
アオに尋ねられる。
「わたしはあなたたちをそこに縛りつけている男と、その玉作りを依頼した人に、法の裁きを受けさせたいの」
「あいつに?」
「子供をそんなところに閉じ込めて、働かせているってところで、よくない人だわ。あの人は悪いことに使うってわかっていて、あなたたちに犯罪に加担させていたの」
「り、リディア、この子たちは作らされていただけでちよ?」
「それはわかってるわ。でもね、知っておいて。仕方なく作ったものでも、それが悪いことに使われたら、犯罪に加担したって言われることもあるかもしれない。罰を受けることになるかもしれない」
「それはあんまりでち」
「そうでしょ? だからね、あなたたちは悪くない証拠を作りましょう」
「「「「「証拠?」」」」」
子供たちの声が合わさって聞こえる。
「そんなことできるのか?」
「そのために、1日はそこにいないとなの。我慢してもらうことになるけど」
「……俺たち、何をすればいいんだ?」
キノが落ち着いた声で言った。




