第782話 急病④公平
「ドナイ侯さまは果てしなく思い違いをされているようですが……」
ロビ兄は落ち着いた声で告げた。
「伯爵令嬢が両加護を持っていても珍しいだけですが、それが王族に嫁ぐとなれば話は変わってきましょう」
そうドナイ侯は微笑んだ。
「激しく勘違いされています。妹は現バイエルン侯と婚姻を結びます」
「ええ、わかっています。そういうことにしたいのですよね?」
ドナイ侯は本当にそう思っているの?
それともブレーンにそう言われてやってきた? だとしたら何が狙い?
「全く私の言うことを理解されてませんね。そうなると堂々巡りです。話せる状態ではないと考えます。お引き取りください」
ロビ兄はキッパリと告げる。
「まぁ、お待ちなさい。腹を割って話しますから」
ドナイ侯は、冷めた紅茶を一気に飲んだ。
「孫娘がミッナイト殿下の容姿に惚れ込み、結婚したいと駄々をこねられましてね。王族と婚姻できたら、一族も格が上がりますから、総出でこねを使い婚約まで漕ぎ着けました。
そのうちに、殿下のことが見えてきました。悪い方ではないですが、それだけだ。それでも孫は嫁ぎたいという。ですからいろいろと手を回してきましたが、あんなことがあった。もうセイン国はお終いです。いずれ印象が回復しようとも、神獣に制裁を加えられたことは永久に残ります。セインに移住するつもりでしたが……」
「ちょっと待ってください。私は何も取り引きするつもりはありません。それに妹のことも誤解です。何を話されても、それは変わりません。お引き取りください」
ロビ兄はいいところで、話をさえぎり、候を追い出そうとした。
わたしだったら情報、全部聞いてからにするのに。ロビ兄ストイック! っていうか、公平。スポーツマンシップに則ってる感じ。
「妹御のことだけじゃない、アランくんの魔具の訴えも取り下げる。だから話を聞いてくれ」
「アランは法を侵したり、危険な物を作り出したりはしません。それもドナイさまの誤解です。訴えてくださって構いません。アランは真面目で品行方正なヤツです。そのアランを訴えるあなたはどうかしている」
ロビ兄は立ち上がり、お引き取りくださいと、廊下へと続くドアを開けた。
ドナイ侯が立ち上がる。そして歩み出したと思ったら、続き部屋へとダッシュした。
え?
ドアを開ける。
ベッドに腰掛けているわたしが見える。まだ完全に目覚めていない感じ。目をこすっている。
「どうしたの? 何かあった?」
真っ白のお気に入りの夜着。この映像をみんなに見られた時は恥ずかしかった。
わたしが尋ねながらこちらを見上げる前に、やってきたロビ兄がドアをすごい勢いで閉めた。
「父に伝えて抗議させていただきます。デビュタントも済ませた妹の寝姿を見るなんて!」
「殿下の部屋から出てきていないと……」
「早く出ていってください」
ロビ兄は背中を押して、ドナイ候を部屋から押し出した。
こちらのブレーンはやはり大したものだ。
ドナイ侯と話すと言った時、もしかしたらわたしを見舞うっていうかもしれないという話になった。もちろん断るつもりだけど、もしものために、ドアを開けたら映像を映し出すようにしていた。
ロビ兄が寝ていて起きた姿ならこれだなと、この映像を推薦した。
なんで人の寝起きを映像に収めているんだ!
これはエリンの〝姉さまお宝映像〟だそうで、ロビ兄たちへの誕生日プレゼントだったらしい。何やってんの、エリンは!
王宮と違って、天蓋つきのベッドではない。それに気づかれたらまずいとは思った。けど、その前にまさか本当に部屋に入ろうとするなんて思わなかったから驚きだ。
エリンへの追求は帰ってからするとして。……それから他にどんな映像が入っているかチェックしなければ。渡す方も渡す方だけど、受け取る方も受け取る方だと思う。これがプレゼントなんて!
えっと、そうじゃなくて。
いろいろ納得いってないけれど、ロサの部屋にずっといた誤解は免れたはずだ。
集まるとそれがわたしたちの行動を気にしている人たちに伝わるので、フォンで経過を伝えた。
わたしが部屋から出なかったとスパイしたのは、わたしがちくったメイドと衛兵でひとり怪しいのがいるらしい。
でもそれで逆に情報を流すなどすることになるかもしれないから、そのままにしている。一応城で働く者が情報を漏らしているようだが?とチェックするポーズはとるらしい。情報が漏れたのを知っていて何もしなかったら、泳がせているのがバレバレとなるからね。
みんなで検討したところ、セインのブレーンがドナイ侯をこちらに寝返ったかのように見せている線も捨て切れないけれど、ドナイ侯自身がセインを見限り、ユオブリアで暮らしていくために、ウチとの和解、それからヴェルナーの件をなし崩しにしようとしているのではないかという見通しが強い。
親族が犯罪者になれば婚姻に思い切り影を落とす。孫は可愛いみたいなので、ヴェルナーを嫌いだろうけれど、血が繋がっているのでむげにもできないというところではないかと。
そこにホアータ3男から、わたしへのお見舞いの打診が入った。
事態が動かないことから、わたしはそれを受けることにする。
明日の見舞いを受け入れた。
ってことで、早急に人型に戻ることに。
兄さまに協力してもらって、そしてバタンキューとなり、ホアータが来る前に絶対起こしてと約束をした。




