第781話 急病③思い込み
まず、お城では3人が急病となっている。
ひとりはミッナイト殿下。
あんなことがあったからね。
勅使として外国にやってきて、神獣の怒りをかい、自国の教会に制裁を下された。もうたつ背がないなんてものではないだろう。
だから寝込む気持ちもわかる。
そしてロサも急に熱が出て、医師団がつきっきりだが、いまだ原因はわからず。
そしてわたしも風邪をひいて寝込んでいる。……ことになっている。
市井では早速それこそ〝呪い〟じゃないかと噂が出ているらしい。呪術の呪いではなく不運がお城に吹き溜まったような、そんな言われ方をしているみたい。
ここ2日、ナムル・ホアータの動きはなかったようだ。あちらさんたちもミッナイト殿下が寝込んでいるだけに、帰ることもできず動けずにいるらしい。
わたしもどうしたらいいだろう。
人に戻ったら、もれなくまた1日眠ることになるだろう。
お腹がいっぱいになると、とりあえず、ロサのところに行こうということになった。アダムともそこで合流だ。
医師たちにも席を外してもらった。わたしはもふさまの頭のところに乗らせてもらっている。
移動する時、ロサつきではないし、多分この廊下のメイドさんなんだと思うんだけど、なんか見ていないようにしながらもガッツリ見られている気がして気になった。みんなイケメンだからかなーとも思ったけど。チクっておいた。
子供たちだけになると、ロサが起き上がる。
わたしを呼ぶから、わたしはもふさまに見えるようにしてもらった。
「リディア嬢、私への呪いを取り込んでくれたとか。助けてもらったね、ありがとう」
わたしは何が起こったのかわかってないし、自分でやろうと思ってやったことでもないんだと真実を告げた。
でもそれは置いておいて、ロサがよくなってよかったと、もふさまに通訳してもらう。
ロサが目覚めてすぐにみんなが確認を取っただろうけど、わたしも聞かずにはいられない。
「ねー、ホアータの子息とは、その……触れ合ったの?」
もふさまの通訳で、ロサは一瞬顔をしかめる。
「その〝触れ合う〟って言われ方は嫌な感じがするのだが」
「触ったでもなんでもいいけど……。で、どうなの?」
「いや、挨拶をしただけだ」
「どんな話を?」
ロサは本当に雑談しかしていないと言う。
それも気に留めるようなことはなくて。
王族の業務もこなしながら学園に通っているところを褒めたたえられて、学園がどんなところかを少し話したと。
握手なんかもしなかったようだ。
ロサがホアータ子息から、口移しで魔力を移されたと言いにくくて黙っているのでは?とよく観察したが、隠し事をしているようには見えなかった。
それじゃあ、ホアータのやったことじゃないの?
陛下たちもロサから事情は聞き済みで、ホアータに対して何もできずにいるそうだ。
でもさすがに3日目になっても原因不明というのはまずい。なぜならロサは王太子候補1位の王子殿下。国で最高の医療スタッフがついているわけで、それなのに原因がわからないとあれば、医師団の権威が失墜してしまう。
それが本当なら仕方ないけど、原因は医師の分野ではなかったし、ロサはこうして元気なのだ。
さて、どうするべきかと悩んでいると、わたしとロビ兄に面会を申し込む声が。それがドナイ侯だった。
わたしは風邪っぴきということになっているし、この姿なので、ロビ兄ひとりが会うことになった。もちろんもふさまに張り付いて同席させてもらうけどね。
ロビ兄はみんなからくれぐれも気をつけるよう言われて、部屋に戻った。
訪れたのはドナイ侯ひとりだ。
「ご用件は?」
ロビ兄はドナイ侯に椅子を勧め、座ったところで切り出す。
その口調はとても冷たくて、普段とは全く違うロビ兄の顔を見た思いだった。
「双子といっても、全く違うのですね」
「それをお確かめに?」
ドナイ侯は横に顔を振った。
「お尋ねいたします。山崩れを起こしたのがモーリッツだと訴えたと聞きました。事実ですか?」
それは意外な展開だった。
「……事実です」
「訴えたということは証拠があるのですね?」
「もちろんです」
ドナイ侯は深いため息をついた。
「モーリッツがそこまで人でなしだったとは……。ご令嬢にお詫び申し上げます。とんでもない者と縁を持たせようとしてしまった」
ドナイ侯はアラ兄を犯罪者にしようとしている。そんな時にわたしに詫びる?
次の言葉を待つ。
「取り引きをしませんか?」
「領主の父とではなく、成人もしていない私とですか?」
ロビ兄は冷たい声で返す。
「モーリッツの案件はあなたたち兄妹とギルドが発起人。鍵を握るのは、失礼ながらご令嬢でしょう。令嬢と取り引きがしたい」
「妹はあいにく風邪をひいておりまして」
「出てこなかったと」
「なんですか?」
ロビ兄が不審な声を出した。
「第2王子殿下を見舞われた後、令嬢だけ部屋から出てこなかったと証言を得ています」
!
わたしトカゲになっちゃったから、兄さまに運んでもらった……。
「ご令嬢は隠しているけれど光の使い手なのでは? 殿下の部屋でずっと治療を続けられているのではないですか?」
ロビ兄は声を立てて笑った。
「何をおっしゃるかと思えば。妹は隣の部屋で寝ております。風邪をひき、喉をやられておりましてね」
「それが本当ならお顔を拝見したい」
「どんな理由だとしてもお断りいたします。妹の寝姿を見せろとは悪い冗談だ」
セリフの途中で、ロビ兄からブワッと何かが出てきたような気がした。
もふさまもロビ兄に視線を移したから、わたしだけの気のせいってわけではないと思う。
「婚約者のいる令嬢が、王子殿下の部屋に2日も。それもバイエルン侯も公認のようですね。ということはバイエルン侯との婚約は見せかけですか?
王族と婚姻するとなると、加護のこともあり周りがうるさくなる。だからバイエルン侯に協力を頼んでいる。王宮のデビュタントで派手に広めたのもそのため」
ドナイ侯、思い込みが激しすぎる!




