第758話 冒険者の仲間入り⑨情報は人から入ってくる
テントを張らせてもらったのは村の広場だった。
ベッドがあるわけではない。ちょっぴり体は痛いけれど、もふさまと、もふもふ軍団に囲まれて寝たのでよく眠れた。
起きると、アラ兄もロビ兄もいなかった。
ふたりは先に起きたそうだ。そう、もふさまに教えてもらう。
大きく伸びをする。
もふもふ軍団は昨晩、アラ兄たちからご飯をもらってちゃんと食べたという。良かった。わたし本当に限界でテント張ってすぐに寝ちゃったからな。
起きると、鍛錬をしている人たち、それから食事を作ってくれている人たちがいた。村の中だけど、一応見張りもつけていたらしい。わたしたちはテントを張らせてもらっていたけれど、あとはみんな広場で雑魚寝していたみたい。
「おはようございます」
みんなに声をかける。朝ご飯の用意を手伝った。スープとパンはあったので、鉄板を出して、お肉をじゃんじゃん焼いていく。もふもふ軍団と体を動かす人たちには、朝ご飯といえど、スープとパンのみじゃ物足りないものね。
ガーシが帰ってきたのでどこに行っていたのかと思ったら、村のおばあちゃんの家が雨漏りして困っていると聞いたので、屋根を補強してきたようだ。
ガーシだけでなくフォンタナ家の人たちが、何かしらお手伝いをしたようで、村のおじいちゃんおばあちゃんの心をしっかり掴んでいた。
そういうことをやっているから、フォンタナ家の人はどこででも受け入れられるんだよね。顔が広いのも納得できる。
おじいちゃんおばあちゃんも呼んできて、みんなで朝ごはんを食べた。
魔物の肉はおいしいと大変喜ばれた。
もちろんもふもふ軍団にはテントの中にご飯を差し入れしている。
シモーネに水色の鳥が飛んできた。外からの情報だ。山崩れ調べの進捗を教えてもらった。道の復旧には最低でも5日はかかりそうとのことだ。死体は見つかっていないとのこと。ヴェルナーはいつ死体が出たと発表されるかと、心待ちにしているだろう。
うち、フォンタナ家、それからギルド。わたしたちと連絡の取れなくなっている面々が集まり、心配そうにしているとのことだ。
考え事をするのと、それから逗留させてもらっているお礼に、わたしの得意なこと、畑を弄らせてもらうことにした。みんなの目があるから、土人形は使えないけど。
土の状態をよくして、ウチの野菜を植えておく。
魔力のたっぷり染み込んだウチの野菜は、味はいいし、タネ株として繁殖力も高いのだ。
「お嬢さま、何をしているんですか?」
畑いじりをしていると、グリットカー男爵に話しかけられた。
「畑をいじってます」
「伯爵令嬢が?」
「家ではわたしが野菜を育てているんですよ?」
「お嬢さまには驚かされますなー」
何か話したいことがあるのかな?
男爵はあの時、処分されることを受け入れていた。
ということは、ヴェルナー氏が自分に対してもそういうことをする人だってわかっていたということだ。それなのに付き合い続けていた意味がわからない。
って、仕事の関係性だもの。気づいた時には、抜け出しても消される状態で、そのまま付き合いを続けるしかなかったのかもしれないけれど。
でも手先だとしても、13歳の女の子の顔に傷をつけ、犯罪者になると脅すつもりだったわけだから同情はしない。ここのことが終わったら、突き出すよ。
男爵の毒気は消えていた。ゴロツキたちもだ。一緒に処分されそうになっていたってこともあり、後ろ盾がいないのもわかっていて大人しくしている。
だから自由にさせている。いざとなれば、みんな強いからね。
もちろん、わたしも。
男爵の少し先には、木に隠れるようにしてガーシがいた。
おお、こんなところでも護衛してもらってたんだ。
そういえば、こういう場合護衛の仕事はどうなることになるんだろう?
初めての護衛は失敗で終わるのかな?
「ヴェルナー伯の証拠となるようなことはないと思うのですが、少し前に頼まれていたことがありまして、その話をさせていただこうかと」
「ヴェルナーに頼まれたんですね?」
「はい、ある家だったんですけど。そこのことをどんなことでもいいから、調べ上げてくれと言われまして」
「家を?」
「はい。半年前にセルヴィアン・ホアータという女性が買い取った、広めのお屋敷です」
セルヴィアンってどっかで見たことある名前だな。ファミリーネームは違ったと思うけど。
「人が住んでいるというよりは、複数の者が集まり、何かをしている場所のようでした」
あ、思い出した。セルヴィアンって、ドナイ侯の孫の名前だ。確か16ぐらいだから結婚できるけど、まだしてなかったはずだけどな。違う人?
「それで、魔具の開発をしているんじゃないかと結論づけたところでした」
その報告をヴェルナー氏にしたのかを尋ねれば、したという。
わたしはお礼を言って、また何か思い出したら話して欲しいとお願いした。
アダムにフォンをする。
ホアータというファミリーネームに覚えがないか聞いてみた。
「セイン国の公爵でいたな。どうして?」
わたしはヴェルナーがグリットカー氏にある家のことを調べてくれと言われていて、調べてみると、半年前にセルヴィアン・ホアータという女性が買った家であることがわかったと告げる。セルヴィアンという名前に覚えがあって、ファミリーネームは違うけれど、ドナイ侯の孫娘の名前だと告げた。
アダムが一瞬黙った。そして声が聞こえてくる。
「一応、伝えておく」
「うん?」
「ホアータってセイン国の公爵家の名前でもあるけど、グレナン王の末裔が名を変えた時にホアータって名乗った説があるんだ。これ、外でいうと、人亡くなってるから言わないようにね」
え。
「ドナイ侯孫のセルヴィアン嬢は、セイン国の第3王子、ミッナイト殿下との婚姻の噂がある。第4夫人候補だったかな」
「……ミッナイト王子って何歳?」
「21かな?」
21歳で、すでに3人奥さんがいるのね。そして新たに16歳を。ふーむ。
「ちょっと、こっちでも調べてみる。
山崩れの調査は難航しているみたいだ。まだ崩れそうで二次被害を警戒してる」
「そっか。ロビ兄たちに頼んで、もう崩れないように補強してもらうよ」
アダムが笑ってる。
「何?」
「いや、軽くいうなーと思って。多くの人が駆り出されて苦労してなかなかできないことを。君は兄上たちが難なくできると、信じているんだね」
まー、そうか山だもんね。そこらへんの土いじりとは違うだろうけど。
「わたしのお兄さま、だもの。実力もすごいの」
わたしは兄自慢をしてから、3Gフォンを切った。




