第757話 冒険者の仲間入り⑧逗留
さらにフォンタナ家の人と15人の捕縛した人たちを乗せ、スクワラン側の道に行ってもらう。
一部ではあるけど、街道にまで土砂が滑り落ちている。復旧に時間がかかりそうだ。しばらくは通行止めになるだろう。
まずヴェルナー氏の〝目〟をみつけて、どう連絡をとったのか聞き出す。自分たちも口封じされそうになったからだろう、素直に話した。
失敗した時に押す魔具を託されていたらしい。多分、山崩れを起こさせる爆発物的な何かに繋がるものだったのではと思う。
軽症で済み、誰ひとり残された人がいなかったのが救いだ。アオとレオにお願いして、馬を探してきてもらった。馬もみんな無事に逃げおおせていた。
手当てなどして人心地つくと、グリットカー氏が言った。
「なぜ我々まで助けてくださったのですか?」
「わたしは何もしていません。助けたのはお遣いさまと護衛の人たちです。わたしは何もできませんでした」
『我はリディアの意思を汲んでいるまで。我ひとりなら、人族のいざこざにはかかわらないし、気にすることでもない』
「もふさま……」
グリットカー氏が跪いた。商隊の人たちも跪き、それから捕縛されている人たちも跪いて頭を下げた。わたしに。
「だから、わたしではなく、あなた方を助けたのはお遣いさまと、護衛の人たちです」
もう一度言っても、彼らはわたしに頭を下げたままだ。
「私は生き汚く、悪事に手を染めたことも一度や二度ではありません。そんな私にも信条があります。良きことには良きことで返すこと。命を救っていただきました。私はリディア・シュタイン嬢に命で返します」
ええ、どういうこと?
「や、やめてください。そんな重たい誓いはいりません。それより感謝するなら……わたしはヴェルナー氏に相応の罰を受けてもらいたいと思っています。だから教えてください。この騒動にヴェルナー氏がかかわっていた証拠はありませんか?」
「……あったとしても、失敗とわかった時点で、全ての証拠は隠滅されているでしょう」
それもそうか。こんな山崩れまで起こしておいて、あいつはのうのうと高みの見物を気取っているのだ。
「なんでもいいわ。ヴェルナー氏のことで知っていることを教えて」
「いち姫、それは構いませんが、まず皆のところに報告を」
ジョインさんがいうと、ガーシとギルバートがすぐに反対した。
「これは口封じだ。生きているとわかったら、次に何を仕掛けられるかわからない」
ふたりの心配は尤もだ。
「そうですね。わたしたちは山崩れに巻き込まれ音信不通ということにしましょう。それをみんなに〝心配〟してもらわないと」
わたしの言いたいことがわかったようで、みんな頷いてくれた。
それぞれに連絡を取る。
さて、わたしも、と思うと3Gフォンが鳴った。
アダムからだ。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃないよ、無事? 山崩れが発生って聞いたけど」
早っ。
「早耳ね」
わたしはみんなから少し離れて、アダムに状況を説明した。
アダムは時折相槌を打ち、そしてわかりにくかったところを聞き返しながら、理解したようだ。
「とんだクズだな」
「わたしもそう思う。だから仕返ししたくて、今考えているところ。あ、その前に父さまたちにも山崩れの情報が届くと思うから、連絡しなくちゃ」
わたしは山崩れに巻き込まれて音信不通という状況を作り出すとアダムに告げた。
アダムは最後に無事で良かったと言って、フォンを切った。
父さまにも連絡をする。
山崩れにあったけど、もふさまのおかげでみんな無事だと。
怪我はないかと心配された。フォンタナ家の人たちが少し怪我をしたけれど、手当てはしたし、酷いものではないと言って安心させる。
そして音信不通ということにして、心配して騒いで欲しい旨を伝えておく。
それぞれにその連絡をしていることも伝えておく。
フォンを切った途端にまた鳴る。
今度は兄さまからだ。
「良かった、無事で」
無事だったものの、驚くべき出来事で気が昂っていた。それが兄さまと話していくうちに心がないできた。兄さまにも無事だけど、盛大に心配して欲しいと伝え、フォンを切った。
「姫、音信不通はいいが、どこに隠れる?」
それだよね。結構大所帯なわたしたち。スクワランに近い街はミノマイとビエント。どっちが情報遮断しやすいだろう?
って話をしていると、ゴロつきのひとりが、ミノマイとビエントの間に寂れた村があると教えてくれた。
若いものはミノマイとビエントにみんな移住しちゃったので、年老いた人しか残っていないという。ゴロツキのような彼らでも、悪さをせずに、お金を払えば、貴重な収入源になるので入れてくれたとのことだ。
じゃあそこに行ってみようということになった。
村についたのは夜だった。
近くには大きな街がある。それに夜だし、大変怪しまれた。
みんなはお金を出して、知らん顔してもらおうと言ったけど、わたしは話すべきだと主張した。
みんなに納得してもらい、村人たちに事情を話した。
口封じされそうになり、生き延びたのだと。
生きているとわかると何をされるかわからないので、とりあえず匿って欲しい。それから、わたしたちのことは黙っていて欲しい。
村のおじいちゃんおばあちゃんは、にわかに全てを信じるわけではないけれど、小さなわたしが眠そうなのが可哀想なので、とりあえず一晩、ここで過ごすといいと村門を開けてくれた。
わたしたちは村への逗留代を払い、食事を振る舞った。
わたしはみんなに任せて、すぐさま寝かせてもらった。
もう立ったまま眠れそうなほど、限界だったのだ。




