第756話 冒険者の仲間入り⑦処分
わたしが思いついたのは、そうやってわたしを犯罪者とするところまでだった。オーナーはわたしだけど、成人していないから、その保護者である父さまに罰はいくだろう。
でもアダムは言った。いや、それを盾に脅すつもりじゃないかと。
どういうこと?と、わたしは尋ねた。
元々ヴェルナー氏はぬいぐるみの事業に着目したのではないかとアダムは考えたようだ。その要は中身のふわふわの物体。雪くらげの住処だ。その全てを賄っているのはシュタイン家。
ヴェルナー氏は、雪くらげの住処の秘密を知りたかった。使いようによっては莫大な益を生むからだ。それが発端で、わたしと婚姻を結ぶ気だったのかもしれない。
でもそれがポシャった。それだけでなく店の営業を停止し、罰金まで払うことになった。生意気な少女のせいで。
生意気な女を大人しくさせるには……夫人と同じように顔に傷をつける。
それからカモミンの幼体を送り込み、それは犯罪だと詰め寄る。これが世界議会に知られれば、シュタイン伯が拘束されることになる、と。
わたしはそんなものは知らないという。送ってこられたものだと。
そんなのはどうとでも言えると言われる。だって、お前は数日前にカモミンの幼体を討伐しているじゃないかと。
ちょっとずつ何体も外国から買ってるみたいだから、モロールの西の森にまたカモミンを置いておけばいい。ほら、7体と言っていたけど、まだこんなにいるじゃないか。絶対にもっと多く狩っていたんだと。
わたしはそんなことはしていないという。
でも奴らは畳み掛ける。質のいい繊維……、雪くらげの住処がなくなってきたんじゃないか? それで新しい代わる物を探していた。そしてカモミンを使う気だったんだろうと。
雪くらげの住処は不足してないと、わたしは言い張る。
信じられないな。雪くらげも住処も見たことはないし、嘘を言っているかもしれない。
……そうやって、雪くらげの住処を手にする手段を知るのが目的じゃないかと、アダムは言った。
そこまでする? 最初は半信半疑だったけど、反芻して考えているうちに、そうとしか思えなくなってきた。犯罪者にしたてあげれば溜飲が下るとしても、利益にはならないものね。でも雪くらげの住処の秘密を知り、手にできれば莫大な儲けとなる。
「脅しておいて、カモミンを討伐していたときのことは録画してあるからと、その証拠を出して、犯罪者ではないとする代償に、あなたは何を得るつもりだったんですか?」
思うのと反対のことを言ってきたから尋ねた。けれど、彼はだんまりだ。
「あなたは取り引きをしようとおっしゃいましたね。けれどあなたの実際されていたことは、山にわたしを傷つける者を潜ませ、わたしの店に犯罪に加担する物を送りつけ、犯罪者になりたくないなら言うことをきけと仰りたかったわけですよね? それは取り引きではありません。強迫というのです」
うなだれてはいるが、本当のところ何を考えているかはわからない。
「さらにわたしに、何をさせようとしたんですか?」
グッと唇を噛みしめている。
「このままだとヴェルナー氏に切られて、犯罪者となり終わるだけですよ。冒険者ギルドに喧嘩を売った時点で、あなた方は終わっていますが」
わたしが冷静に言えば、ギルバートが頷いた。
「全く、ギルドをこんなコケにされたのは初めてだ。あんたも、ヴェルナー伯も、二度とギルドに頼ろうなんて思うなよ。未来永劫、あんたらは冒険者ギルドから締め出す。たとえ姫さんが許したとしてもな」
「あら、許しませんよ?」
こんな胸に悪いことを企まれたらね。
「裁判でも正直にお話しされるのがいいと思います。ヴェルナー氏は絶対に守ってくれませから」
と、グリットカー氏が笑い出した。
びっくりして反射的に下がろうとしたみたいで、バランスを崩し、もふさまから落ちそうになった。
「お嬢さまはやっぱり子供ですね。そこまで予想していたということは、ヴェルナー伯についてもお調べになったことでしょう。きれいな経歴だったでしょう? それはなぜだと思いますか?」
顔をあげたグリットカー氏の目が、暗い色を帯びている。
「きれいな経歴にするために、汚点は残さないからですよ」
そして声を潜める。
「相手が悪かったですな。奴を相手にするには、お嬢さまは心がきれい過ぎる。……私が山に手配したのは13人です。ですが、捕縛されたのは15名。彼らはヴェルナー氏の〝目〟でしょう。私が失敗したとわかった今、全てをなかったことにするはずです。私たちは皆、処分されます」
地面が揺れた?
「逃げろ!」
ギルバートが敵を捕縛していた、フォンタナ家の人々に向かって大声で告げた。
わたしを乗せたもふさまが大きく、大きくなる。
すっごい勢いでフォンタナ家の人々が、捕縛した人を連れながら、街道へと走っていくのが見えた。
ジョインさんたちが、馬車から馬を放して、馬のお尻を叩いた。
パラっと上から小石が落ちてきた?
お腹に響くような轟音がした。山が怒ったような音。
パラっと落ちてくるものが、パラパラと量を増やし……。
『我に乗れ!』
もふさまの声がいつもと違う感じに響いた。
ジョインさんが、シモーネが。ガーシが。アラ兄、ロビ兄が、身近にいた誰かを掴み、もふさまへと向かい放り投げる。最後にガーシが、蹲っていたグリットカー氏をもふさまに乗り込ませ、自分も乗った。
もふさまが跳んだ。
ロビ兄に抱えこまれ、ロビ兄ごと、ガーシに抱え込まれる。
ドドドドドドドド。怖くなる音がして、ズザザザザザザ、何かが滑っていくような音。
上の重みが、ふと軽くなる。
顔をあげると、みんなが下を覗き込むようにしていた。
わたしもロビ兄に抱えられたままそうして、口を押さえた。
山崩れ。わたしたちが立ち止まっていたところは土砂でいっぱいになっていた。
もふさまの機転で〝上〟に逃げなかったら、わたしたちは土砂に埋もれてた。
「み、みんなは?」
シモーネの震えた声がする。
ジョインさんが指をさした。
あ、凄い、逃げられたんだ。
何人か少し埋もれているけれど、もふさまに近づいてもらうと、彼らは手をあげて応えてくれた。無事だ!




