第75話 パスタ
長旅で疲れているだろうし、歓迎の意味も含めて、今日はわたしたちでご飯を作った。
遅いお昼をいただいた食堂で、パスタがおいしかったから、パスタ自体を売っていないのか聞いたら、売っているし、お店の人が気をよくして麺の配合を教えてくれた。あのあたりではパスタは普通に作って食べるものらしい。
今度生パスタも挑戦しよう。今日は買ってきたパスタ麺を使って、魚介のペペロンチーノだ。
大きな鍋にお湯を沸かし塩を入れる。乾麺ではないから茹でる時間はずっと短い。
ニンニクをいっぱいつぶして、オイルの中に投入。細い火でじっくり炒める。匂いがしてきたら下ごしらえをしておいたイカとエビと貝をたんまり入れる。9割火が通ったら、茹で汁少々とパスタを投入して、オイルと具を絡める。そしてサーヴするだけ。
作り置きの温野菜サラダと唐揚げもどき、そしてタコの足を茹でて、スライスして魚醤と酸っぱい果汁を絞って、ハーブを振りまく。うん、タコにあう。海の町で食べたパスタにもこのハーブをかけたかった。爽やかなんだけど、引き締めるんだよ。ものすごく相性がいいんだよ、爽やかなものと。
使用人だからと同じテーブルに難色を見せたけれど、格式あるお客様がいる時以外はみんなで一緒に食べようと父さまは提案している。
納得いかないような顔をしているアルノルトさんの背中を景気よくピドリナさんが叩いた。
痛そうな音がしたが、顔をしかめることもなく、手を胸にやり「かしこまりました」と首を垂れた。プロだ!
みんなでご飯を食べた。料理人であるピドリナさんもおいしいと言ってくれた。
「これはパスタですか?」
「今日行った町で、買いました」
「これは何ですか?」
「タタコ、海の生き物だよ」
ロビ兄がアルノルトさんに答える。
「海? ああ、ドラゴンの土産というものですか?」
「いや、今日は海辺の町まで行ったのだよ」
「……ジュレミーさま、ただいまの時間は学生時代の同期として、友達として過ごさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「……ああ、もちろんだ」
「馬で3日かかる海まで、この人数で日帰りで行かれたことと、お前が私を雇ったことは関わりがあるのだろうか?」
「夜、飲みながらじっくり話そうと思うのだが、手紙に書いた通りだ。お前の能力を余すことなく発揮できると思う」
にっこりと父さまはアルノルトさんに笑いかけた。
能力を余すことなく発揮だって、何だろう?
ふっと吹き出したのはピドリナさんだ。
「あら、ピドリナ、どうしたの?」
「子供たちが怯えるわって注意しようとしたんだけど、みんな目を輝かせて期待の目でアルノルトを見ているから」
アルノルトさんがわたしたちに目を走らせる。
「あ、今のはジュレミーの戯言というか、特別なことができるわけではないんだ、申し訳ない」
アルノルトさんは何故かわたしたちに謝った。
「ほら、お前が期待させるようなこと言うから」
父さまが吹き出している。
「アルノルトは執事として一流だ。護りにかけて右に出るものはいない。父さまは留守の家も安心して任せられる」
父さまが全幅の信頼を寄せているようだ。
「私の願いはひとつだけ、一緒に家族を守って欲しい」
「全力は尽くす。だが、私は所詮、人間だから、権力には弱いぞ」
アルノルトさんがチラリとわたしを見た。
「……ああ、それはこちらで何とかする」
サラダも唐揚げもどきも好評だ。そしてライズの話になった。ピドリナさんは嫌悪感を見せずに、興味を持ってくれた。
食後のお茶のときに、今日の大冒険の話をした。
「リーも大活躍したよ」
とロビ兄がいらんことを言うので、わたしは母さまに向かって言った。
「わたし、戦ってない。戦ったの、土人形」
「土人形って、畑でちょこちょこ動かしているあれのこと?」
母さまにも見られていたか。
「あれよりずっと大きい土人形で大きなソーイングマウスをころんって転がしたんだ」
「ソーイング……マウス……って魔物ではありませんか?」
アルノルトさんがおじいさまに首を傾げる。
「ああ、魔物を15匹、ほぼ子供たちが倒したぞ。危ないときにワシらと主人さまが手助けしたがな」
もふさまが言え、言えとうるさい。
「おじいさまとシヴァ、10匹、もふさま、20匹も倒した。それで、合計45匹、ギルドにおろした」
わたしは双子と兄さまを引っ張って、父さまたちの前に行く。
「あのね、父さま!」
「オレたち初めて魔物を倒してお金もらった!」
「それでこれを買ってきたんだ。リディー」
兄さまに促され、わたしはむき出しの贈り物を出す。
「父さま、いつもありがとー」
髭剃りを渡す。
「母さまも大好きー」
母さまには櫛を渡した。
「4人で相談して決めていたぞ」
おじいさまが父さまに告げる。
父さまは双子を、母さまはわたしと兄さまを抱きしめる。
「ありがとう。大切にするわ」
「ありがとうな」
わたしたちは顔を見合わせて、喜んでもらえたことを喜んだ。
「おじいさま」
「ん、何だ?」
「おじいさま、魔物名前、知ってたの?」
おじいさまはいいやと首を振る。
「あれはスキル・鑑定で知り得たことだ」
「鑑定?」
「ああ。鑑定のレベルが高ければ高いほど、名前、特性、弱点などわかっていく。人にもかけて調べる職業としてもあるものだ」
わたしは大きく頷いた。
みんなにおやすみなさいをして、部屋に戻る。夜着に着替えて、ベッドの上に座った。
『何をするつもりだ?』
「タボさんに〝鑑定〟をつけるの」
うふふふふふ。わたしのステータスボード、最強!
もふさまがわたしの横に座るので、わたしはステータスボードをオープンした。
「タボさん」
『Yes、マスター』
「ギフト、プラス・鑑定」
『新機能追加。以降〝鑑定〟することが可能になりました』
『おお、増えたな』
鑑定、ゲットだぜ!
「タボさん、ありがとう」
『ご用の際は、いつでもお申し付けください』
「もふさま、鑑定もできちゃうよ。すごいな」
寝っ転がって、もふさまのふわんふわんの毛に顔を擦り付けた。
だって今日は、頬擦りしほうだいだもん!