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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
16章 ゴールデン・ロード

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第745話 もふさまの悪夢④やがて裏切る少女

 ノックスさまが何かを唱えると、次の瞬間、わたしはいつもの川原にいた。

 いつもの川原?


 急に体がギシギシと痛んだ。

 わたしは自分を抱きしめる。

 精神体になっただろうに、なんで痛いんだろう?

 頭のどこかで、そんなことを冷静に考えていた。


 頭に響く声。

 スキル 呪詛回避発動ーー 変化の尻尾切りが施行されました。

 え、ええ? 呪い? なんでぇ?


 頭が痛い。これ、変化する!

 目を瞑っても視界が赤い。体がビクビクっと痙攣した。

 精神体で中に入ったはずなのに、トカゲになっちゃった。

 な、な、なんで〜!

 いや、人型でも魔法は使えなかったはずだから、人型でもトカゲでもあまり変わりはないか。

 服が落ちてない。なんでだろう? 精神体だから? うー、そのくせ変化(へんげ)したの?

 よくわからないが、そうなってしまったのだから、仕方ない。

 ああ、でもこの姿での移動はあまり得意でないのに。

 地べたを地道にペタペタと歩いていく。

 大きいのや小さいの、とりどりの石があってデコボコしているから、大変移動しにくい。


 あ、桃色の髪の娘だ。

 自然の中で柔らかい色合いは目立たないはずなのに、光を振りまいているかのように、そこだけ輝いている気がする。

 まだ7、8歳だろうけど、トカゲからすると大きすぎて、下からだとよく見えない。わたしは川辺に生えたひょろ長い木に登った。

 小さいけど整った顔をしている。ピンクの髪で、整っていて可愛い顔立ちだからか、少しだけアイリス嬢と似ている気がした。

 少女は身体中に傷痕があった。血が出ているところを、川の水で洗い流している。滲みるらしく、時々顔を顰める。

 彼女が、もふさまの記憶を封印することになった原因の少女だろう。

 現実が悪夢というキーワードで、もふさまはこの夢を見ているのだろうか?


「捨てられっ子、また転んだのか?」

「何もできないから、捨てられるんだ!」


 土手上にあたる道を、子供たちが少女を囃し立てながら走っていく。

 横に、もふさまがいた。

 オーラが溢れている。大型犬サイズ?だけど、ものすごく怖い。

 この川原にあまり動物がいないのが理解できた。

 

 もふさまがジロリとこちらを見た。その迫力に驚いて、わたしはトカゲでありながら地面に落ちた。背中から落ちて、けっこう痛い。何で精神体なのに痛みがあるのよ。

 ジタバタして仰向けからひっくり返ろうとするが、背中の痛みもあってうまくいかない。

 ひっ。

 もふさまがこちらに向かって手を伸ばしてきたのだ。

 ころんとひっくり返される。

 おお、動けるようにしてくれたのか。


「ありがとう」


 お礼を言うと、もふさまは何も言わずに川に視線を戻した。


「……あの子、怪我をしているね」


 そう話しかければ、もふさまは息をついた。

 それだけの動作で、ちょっとビビる。トカゲの体が。


『ガキどもに、いじめられているようだ』


 少女は歯を食いしばっている。泣くのを堪えているんだろう。

 もふさまがのそっと、背中の方に首をやった。あ、収納から何か出すのか。

 もふさまは果物をいくつか、少女の靴の横に置く。

 その様子を見ていると、わたしにもグレーンの一粒を分けてくれた。


「あ、ありがとう」


 もふさまは伏せをして、少女を見守っている。

 わたしはそんなふたりを見ながら、グレーンにかぶりついた。

 不思議だ。精神体なのに、食べられる。甘くて美味しい。

 一粒が口よりずっと大きいんだもんな。トカゲになった時の楽しみは食事かもしれない。大きな大好物を、口いっぱいに頬張って食べられる幸せったらないよね。

 あー、お腹いっぱい。ヤバイ、お腹が膨れあがっちゃった。

 ぽこりと見事に丸呑みでもしたように膨らんだ。


 おへっ?

 もふさまの顔が近づいてきて、固まっていると、顔をベロンと舐められた。

 グレーンまみれになった顔を、きれいにしてくれたみたいだ。


『お前は赤子だろう? 仲間とはぐれたのか?』


「赤子じゃない。……仲間は別の場所にいる」


『そういうのを、はぐれたというんだ』


 違う!と否定しようと思ったけど、あれ、かえって都合いいかとお願いしてみることにする。


「はぐれたわけじゃないんだけど、あのさー、一緒にいてもいい?」


『……なぜ我と一緒にいたいのだ?』


「友達になりたくて……」


『友達? 我とお前が?』


「うん」


 もふさまは思案顔だ。


『弱き者よ。我といて恐怖しかないだろう? それなのに我といたいなどと思うのはおかしなことだが……そうか、まだ自分で餌が取れぬのだな? 相、わかった。我が餌を取れるようにしてやろう』


 え。それはなんか違うんだけど。わたしは慌てて言った。


「あのベジタリアンなので!」


『べじたりあんとは何ぞ?』


「肉や虫は食べられませんので、野菜や果物のありかを教えていただければ」


『何? 肉を食わないのか? だからお前はそんな痩せ細って小さいのだな。選り好みをして、仲間から追い出されたのだろう?』


 ああ、もふさまの中で、わたしが残念なトカゲになっていってる……。


「虫を食べないのは正当な主張で!」


『ああ、わかった。あ、気づかれる、行くぞ』


 え?

 わたしはもふさまの尻尾に飛びついた。

 もふさまは空を駆け上がった。

 これ落ちたら、さっきの痛いどころじゃ、すまないんじゃない?

 わたしがビクビクしていると、もふさまが器用にわたしを咥えて、自分の背中に置いてくれた。

 ほっとひと息。


「ありがとう、もふさま」


『もふさま?』


「あ。もふもふだから、もふさま」


 もふさまは首を器用に曲げて、背中のわたしを数秒見た。


『まぁ、よかろう』


 と、前を向いた。

 真っ白の長い毛にしっかり掴まっていたけれど、こんなつかまり方で飛ばされていないのは、もふさまが魔法でガードしてくれているんだろうなと思った。

 もふさまは友達でもないトカゲにも優しかった。


 聖域で休んだり、果物を採って食べたり、おしゃべりしたり。

 時々、川に行き、桃色髪の子を見守った。

 もふさまの夢の中で、少女はどんどん成長した。

 最初、少女は話し相手を欲していた。

 もふさまの言葉がわかり、話せることをとても喜んだ。

 もふさまのお土産はどんどんグレードアップしていく。

 少女と話すときは、それが〝記憶〟だからなのか、トカゲのわたしは忘れさられる。

 もふさまの背中にずっといるんだけどね。

 近くで見ると、可愛いらしい顔立ちをしていると、よくわかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 服のまま変化した経験が今後に繋がれば良いなぁ。毎度真っ裸は困るだろうし。他の獣付きの人達と同じく服のままと自力変化解除はやはり欲しい。  優しいもふさまの性格だとレオ話の騙されたこと程度だ…
[気になる点] リディアのスキルが発動しましたが自分が夢に囚われていたときはどうして発動しなかったんですかね? [一言] このままレオに聞いた場面まで再現されるんでしょうか。 その時もふさまとリディア…
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