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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
16章 ゴールデン・ロード

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第740話 ローレライの悪夢<後編>

「どうしたんだい、リディー?」


 訝しい気な顔をする。


「兄さまのフリをしないで。あなたは兄さまじゃないわ」


「リディー、どうしたの?」


 心配そうな顔で聞いてくるけど。


「兄さまは守ってくれるけど、大好きなものだけに囲まれていればいいなんて言わない。一緒の景色を見て、一緒にいいと思ったり、よくないって思ったり、どうしたらいいか考えてくれる人よ」


 兄さまはわたしと同じ歩幅で、一緒に時を刻みたいと言ってくれた人だ。


「馬鹿な子だねぇ。いい夢の中に永遠にいればよかったのに」


 兄さまの姿で、兄さまの声で、そんなセリフが呟かれる。

 あたりが急に真っ暗になった。


 思い出す。

 わたしダンジョンに来てた。108階を攻略中に、湖の部屋に辿り着き、そしてメロディーが聞こえてきて……。


「みんなはどこ?」


 暗くて見えないけれど、目の前にいるのは変わらないのだろう。


「お前はここで私の養分となるのだ。そんなことを知る必要はない」


 多分、夢を見ているような状態だったんだと思う。

 ……大好きなものだけを集めた、夢のような世界。

 身分の差がなくて、みんな仲良し。ミニーも学園に通っていて、学園の友達とも混ぜこぜで……。家族のいる領地にわたしは毎日帰っていた。

 みんな優しくて仲が良くて、楽しくて、いつも笑っていて。

 ……わたしはとても愛されていた。

 アンドレ殿下が生きていて、ロサとアダムとも親交があり。

 ……そうか、それがわたしの望む、大好きなものだけを集めた世界……。

 好きなものだけしか存在しないそんな世界、それがどんなに素晴らしいかも分かっている。でも……。


 暗いので、とりあえずライトをつける。

 古城の一室という感じだ。わたしと兄さまに化けているローレライしかいない。


 空っぽダンジョンは、フィールドの性質が2パターンあった。

 ひとつは魔物とのガチバトル。本来のダンジョン通り、魔物の強さが全て。

 もうひとつは、ストーリー性があるフィールド。

 物語性のある魔物を作った人は、……恐らく戦うことに忌避がある人だ。だから、ダンジョンに生息しているのに、どこかチグハグな優しい魔物。

 地下2階のデュカート然り。地下3階の水辺のイグアナたち。地下7階の牧場といい……。その他にもヘンテコな魔物たちの物語が下地にあった。そのフィールドでは、魔物自体に勝つことが目的ではなく、その物語に気づけるかどうかが鍵であるような気がした。


 108階はアンデッドの徘徊するフィールドだ。一見魔物の力勝負のようであり、でも、この階はストーリーで成り立っていると、今、確信する。

 アンデッド、地に還ることのできない魔物たち。

 湖、メロディーといえば、ここのボスはローレライを模したものだろう。

 このローレライの弱点、なんだろう? そこにきっと物語がある。


「ちょっと、いつまで兄さまの姿でいるのよ?」


 挑発してみる。

 魔物は軽く目を瞑ってから、元の姿へと戻った。

 攻撃してくるかと思ったけど、素直だ。


 深緑の長い髪。年頃は15、6? ノースリーブのシンプルなワンピースの女の子だ。人魚の見かけではなく、足がある。顔が少しミニーに似ている気がした。


「あなたの好きな世界に閉じ込めてあげたのに、何が不服なの?」


 魔物の少女は口を尖らす。その仕草がまたミニーを思い出させる。

 言われて思う。


「不服というか、知っているから」


「何を?」


「哀しい思いも、糧にしていかないといけないことを」


 人は誰でもオリジナル。だから考え方も思いも違う。衝突したり、間違えたり、そんなことは当たり前。違うんだから当たり前。だから絶対に悲しみも、哀しみも発生する。辛いこともある。嫌なこともある。でも、それを覚えていて乗り越えていかないと、哀しみが残っていくだけ。辛いことが増えていくだけ。

 どんなふうでもいい、乗り越えていくことが、他者と生きていくということなのだ。生きているということなのだ。


「甘い夢を見ていたのに、自分から遠ざけるなんてバカね。こんな甘い魔力を出していたくせに」


「夢を見せて養分をとっていると言ったわね?」


 彼女はツンとした視線を寄こす。

 そして甘い魔力と言った。養分は魔力なんだろう。


「だったら、何よ?」


「もっと甘い魔力をあげましょうか?」


「何を企んでいる?」


「あなたはわたしを閉じ込めようとして失敗した。わたしは閉じ込められたけど、見破って、こうしてあなたと対峙している。だから、勝負しようと言ってるの。わたしに勝てば、あなたはわたしの養分を手に入れられる、そうでしょ?」


 少女はわたしをジロジロと見ている。


「あなた、油断ならない目をしている。だから、あなたの勝負は受けないわ。あなたを眠らせる」


 そうわたしに向かって片手をあげた。

 〝やっつける〟ではなく〝眠らせる〟なのね。

 養分を末長く取るため? でもそのためには生かしておかないとだわ。

 眠っている状態で……仮死状態にしておく能力があるんだろう。

 できるなら甘い魔力が欲しいから、大好きな世界の甘い夢に閉じ込めるって筋書き?

 なんでこの魔物は、幸せな夢の中に閉じ込めるのかしら?

 幸せだと甘い魔力になるといいたげに。

 けど、ずっと大好きなことだけの中にいて、慣れてきても、ずっと同じように好きだと思っていられるものかしら?

 夢に閉じ込める。それは戦いたくないからかと思ったけど。


 彼女は姿を表さなかった。歌だけ聞かせて、自分の姿は見せない。

 今は姿があるけれど。……兄さまにも、もふさまにも、ミニーにも、誰にでも化けていた。世界観はわたしが作り上げたのだろうけど、わたし以外の発言は、多分ローレライ。今の少女の姿も仮のものなのかもしれない。ミニーに似ているもの。わたしに合わせたんだ。


 姿を見せたくない??

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― 新着の感想 ―
[一言] アンデッドフィールドだし本当の姿はアンデッドになっててその姿が嫌だから見せたくないのかな リディアの大好きなものを集めた幸せな世界、アイラも仲良く学園に通っているのかそれとも善良な呪術師に…
[一言] この階は単純に倒すだけでなく特殊勝利条件もあるんですね。 ローレライの魔力を満たすとかでしょうか?
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