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【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
15章 あなたとわたし

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第709話 役目を終えた君⑤友達の想い人への思慕

 アダムと兄さまが話しこんでいる。

 その後ろ姿を追いかけながら、ロサに尋ねた。


「大丈夫?」


「ん、ああ。こうなることは……わかっていたんだ。でもまだ実感していないってのが本当のところかもしれないな」


 ロサもアダムも今回の件では実働隊だったので、取り調べなんかにも参加していた。忙しかったようで、あまり学園に来なかった。だからわたしもロサとも話せていない。


「それより心配していた、友達の反応はどうだった?」


 みんなわたしの死亡説を聞いて、郵便で生きてるよね?って手紙が来ていたりしていたんだけど、生きてると伝えることができなかった。

 謝り倒さなければと言っていたのを、ロサは覚えていたみたいだ。


「うん、みんなすっごく喜んでくれた。謝ったけど、生きていたからそれでいいって。言えないことがあるのも察してくれて、丸ごと許してくれた!」


 めちゃくちゃ心配したんだからと叩かれたけど、それは心地のいい痛さだった。


「よかったな!」


 とピカピカの笑顔だ。

 ふと、ロサが足を止める。

 ん?


 わたしも足を止めた。

 歩みを止めなかったもふさまが、少し前にいき、振り返る。


「私は君が好きだった」


 え? ええ?

 でも、過去形?

 え、え、え、え。


「友達の婚約者に想いを寄せるなんてと、ずっと見ないふりしていた想いだ。

 けれど、フランツが、君の剣を自ら受け入れた時に、太刀打ちできないって思ったんだ」


 …………………………。

 ロサは微笑む。


「ごめん、こんなことを言って。でも、言うべきだと思った。自分の気持ちを変えていくためにも」


 ロサが弱々しく笑う。


「本当ごめん。兄弟揃って、勝手で」


「……なんて言えばいいのかわからないけど、好かれたことは嬉しい。ありがとう。わたしにとってロサはとても大切な人よ」


「これからも?」


 と儚げに言うから、わたしは笑った。


「もちろん。これからもロサが大切」


 ロサが片手を出した。わたしも手を差し出せば、その手を引かれ、ロサの口がわたしのおでこに触れた。

 赤い顔して、ロサは笑う。


「親愛の情だ。これからも友達としてよろしく!」


 きっと最後の親愛の情なんだと、わたしも笑った。頬は熱かったけれど。

 ロサは、一歩、二歩と大股で歩く。

 もふさまが寄ってきてくれたので、手を伸ばす。

 腕に乗ってきたもふさまを、わたしはふんわりと抱きしめた。




 帰り際、アダムが兄さまにチケットを渡した。


「会うのも久しぶりなんだろう? 人気急上昇の芝居なんだ。ふたりで行ってくれば?」


「じゃあ、義兄上はこれから私と一緒に行きませんか? ブライと共に騎士団長から稽古をつけてもらうんです」


「ブレド殿下、私を義兄上と呼ぶのはおやめください」


「その口調を改めてくれたら」


 アダムはため息をつく。


「見知った者の時だけだ。不敬罪で捌かれたくないからな」


 アダムの髪は茶色で瞳も同じだ。ゴーシュ・エンター。それが今の彼の名前。ロサも他のところではゴーシュ、事情を知るものしかいない時はアダムと呼んでいる。ふたりでいろいろ話したようで、お互いに思うところはあるそうだけれど、すっかり打ち解けている。


「で、どうする?」


「稽古か。現騎士団長の動きを見られるなんてそうそうないな。行く」


 みんなの行き先が決まったので、そこで別れた。

 わたしは兄さまの馬車に乗せてもらった。


「シュタイン家ほどの乗り心地ではないですけど、どうぞ、お嬢さま」


 兄さまが手を貸してくれた。

 兄さまはクラウスさまだと証明され、そのまま当主へと返り咲いた。手続きなどの関係で、1年は絶対に当主をする必要があるんだって。おじさんにあたるヨハネスさんもそれを望んでいたしね。

 取り留めのないことを話した。尋ねられるままに学園のことを話せば、嬉しそうに聞いてくれた。


「……そっちの暮らしはどう?」


 兄さまは腕を組む。


「うーーん、楽かな? 当主の勉強は大変だけどね。……ほとんど覚えてないけど、なんとなく昔住んでいたって感覚はあるみたいだ」


 へーーーー。


「屋敷の設えも、使用人たちにも共通するんだけど、無駄がないっていうか、遊び心がないんだ。何もかも、シュタイン家とは違う。でもそれが嫌ではない」


 兄さまは微笑んだ。


「ほら、君もだけど、シュタイン家はみんな好奇心が旺盛だ。私は気にかかったものにしか気が乗らないけど」


 え、そうかな?


「好奇心旺盛?」


「ああ、なんにでも興味を持つだろう? それでやってみないと気が済まない。食事がその最たるものだ。みんな揃って、食事のことを考えている時イキイキしてる」


 おかしそうに兄さまは笑った。


「兄さまは……違うの?」


 兄さまはしまったという顔をした。


「んー、私は本当のところ、食にこだわりはないんだ。そりゃおいしいものをいただける方がありがたいけど、生きていくのに必要だから、動ければいいと思うぐらいだし。

 アランもロビンもさすがに母さまの血が入っているだけあって、食にも興味シンシンだもんな」


 そうなんだ。兄さまはそこまで食に関心がなかったんだ。同じく、父さまと母さまの子ではない上の双子。けれど彼らは好奇心が旺盛で、食にも関心がある。

 それは幼い兄さまに、孤独を感じさせたのではないだろうか?


「私は食に関心はなかったけど、酒はいけるタイプみたいだ。いくら飲んでも全然酔わない。そういうのを〝ウワバミ〟っていうらしい。

 ……バイエルンの父上がそうだったみたいだ。酔える酒を作りたくて、共和国でグレーン農園を開き、グレーン酒を作った。自分が酔えるほどの強いやつを」


 陛下の計らいで共和国のグレーン農場はバイエルン家のものに戻された。だから現農場の持ち主は兄さまだ。

 あ、グレーン農場のエレブ共和国でのトップだったマンドリンは、ペトリス公爵に買収されていた。そうしていろいろ言いつけられ行動していたわけだが、ユオブリアの騎士が派遣された時にはマンドリンは逃げていた。その手下にあたるジャックたちも。


 兄さま、お酒が強いのは知っていたけど、ウワバミなんだー。

 わたしはちょっと飲んだだけで、おかしなことになるのに。


「だからか、酒が入っているのが少量だと、匂いもそう感じなくて、わからない。だからロサ殿下のお茶会で、君に酒入りの菓子と気づかずに取り分けてしまった。クリームがたっぷりのってたから好きそうだと思ったんだ」


 それがあんなことになってごめんと謝られ、わたしは謝ることじゃないよと慌てた。


 ……ずっと一緒に暮らしていた。

 兄さまのこと、なんでも知っているような気になっていた。

 けれど、兄さまがウチの血筋じゃないって感じていたなんて、想像したこともなかった……。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 前に進もうとするロサ。切ないが優しさと爽やかさのある良いやつ。 ロサとアダムの新たな関係。 [一言] フランツのアレはむしろリディアの心を壊すだけで状況は何の好転も解決もしてない行為だから…
[一言] ロサも自分の気持ちに折り合いをつけられたようですね。 アダムとロサの新しい関係性もいい感じ。 フランツが食事にこだわりが無いのは以外です。 料理が出来るようになったのもリディアへの愛ゆえで…
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