第708話 役目を終えた君④呪う人
では誰がそんなことを企てたかというと……これは後々にわかったのだが、実行犯はキリアン伯だった。
賄賂を受け取っていたことを兄さまの父さまに暴露され、裁判沙汰に発展し、嫌っていた。そこに目をつけられた。
若いが、有能。けれど、ちょっとばかり融通が効かない。そんな兄さまの父さまを邪魔に思う派閥はいくつかあった。その最たる人は今は亡きレント侯爵。キートン夫人からグレナン語を前々バイエルン伯と一緒に習っていたその人である。
レント侯爵は前々バイエルン侯をライバル視していた。兄さまの母さまを取り合ったライバルでもあるらしい。レント侯はグレナンの研究成果に引き込まれていた。なかでも人を魅了する、乗り移るというものに夢を見ていた。
猜疑心の強い人で、兄さまの父さまと母さまが結婚されてからは、それが酷くなったらしい。そして兄さまの母さまが亡くなると、追うように亡くなったそうだ。
けれど、これも後からわかったことだけど、どうやらレント侯爵その人は、乗り移りを解読し、ドナモラ伯爵になり代わっていた。
なぜ爵位も低くなるドナモラ伯に乗り移ったのかはわからないけれど、長年の恨み辛みなのか、グレナン語を知る者を潰しておきたかったか、はたまた両方か。前々バイエルン侯を探り、地図紛失事件で、彼は前々バイエルン侯を恨むキリアン伯を使い、侯を陥れることに成功した。
その後キートン夫人を狙い、詐欺に遭い盗みを働く、地に落ちた元侯爵夫人を演出しようとしたが、仲間のワンダ夫人にお金を持ち逃げされた。それゆえに計画は中途半端なものになり、夫人の家を取り上げるのが精一杯だった。
そんな時、夫人の家で第2王子殿下が参加するお茶会が催された。その主催者の子供が町の子に物語を聞かせていたのだが、まるでお前のやっていることに気づいているというメッセージのような内容だった。
彼は焦る。夫人が子供にやらせているのだろう。どこまで掴んでいる? 彼女はグレナン語がわかる。乗り移ったこともわかっているといっているのか?
やましいことがある彼は、子供を誘拐して、どこまでわかっているのかを確かめようとした……。
自殺したドナモラ伯とされる、元レント侯は、半年後エレブ共和国にて見つかった。ユオブリアは彼を引き取らせてほしいと願い出たが、エレブ共和国でも悪事を働いていたそうで、共和国の法に乗っ取り、捕まった後すぐに処刑された。それも急なことだったので、彼は共和国内の力ある者と組んで、きっと何かをやっていて、そこからいろいろバレないように口封じされたのだろうと推察される。
今回のことも、キリアン伯は元レント侯からクラウスはいずれ牙を向くと。子供のうちに潰しておかなければと囁かれたらしい。
ペトリス侯もドナモラ伯in元レント侯から、フランツはクラウスで犯罪者、それを庇っているシュタイン家もなんとかしないと、王になれても問題が発生するぞと言われたみたいだ。
フォークリング社の代表を抱き込み、何かと問題の上がるわたしとコンタクトを取らせる。あ、ヤーガン侯は関係してなくてほっとした。
話題になったわたしに外国からの求婚者が殺到したのは、企てられたことではないみたいだ。ガインのいうとおり、外国には力のある親戚がウチのバックアップに入ったことから、ウチと繋がればおいしい思いができるんじゃと思った人々と、王族に嫁ぐのでは? その前に潰さなくては派がいたようだ。
潰さなくては派が、わたしを亡き者にする依頼をし、呪術師集団がそれを請負った。王子がそれを禁じていたようなことを口走っていたが、本当のところはわからない。
とにかく、呪術師集団はわたしに呪いをかけ、それは成功した。けれど、わたしのスキルが発動し、わたしは命を落とさなかった。
媒体は壊れただろうし、依頼主は生きているが、わたしが死んだという発表がない。死んだという噂を流しても、反応もない。
アダムの推測だけど、王子はアダムになり代わるつもりだった。そしてわたしを得ようと思っていた。けれど、呪術師が依頼を請負い、呪い殺したという。
それで、彼は元婚約者のメロディー嬢を、また婚約者として迎えてもおかしくない噂をまいたのではないかと。
多分、呪術師たちは最初から第1王子と、メロディー嬢のカップルになり代わるつもりだったんじゃないかと推測している。王子妃にはアイラがなり代わるつもりだった。
ペトリス公も成り代わった呪術師を王族の近くに配置したいがため、噂をより好印象にしようと劇団に金をつみ、民衆がメロディー嬢に同情するような芝居をさせた。
ところが、予想していなかったことが起こる。
王子は年明けからアダムの面会を受けてなかったことで、この頃のアダムの動きを知らなかった。ペトリス公たちは寝耳に水だった。王族に慶事の予感。タイミングから見て、第1王子の婚約だと思われる。
相手は誰だ、貴族側に、そんな動きはなかったと……蓋を開けてみればびっくり。亡くなったはずのわたしが生きていて、それも猫になってるという。
それなのに、第1王子は猫と婚約するという!
ペトリス公は驚いたが、チャンスじゃね?と思った。こんな王族、民衆が認めるか。メラノ公も憤っている。今が謀反を起こす時だ!
王子も驚いた。でも、自分が思い描いた通りになっている。わたしと婚約したアダムになり代わればいい。アイラはメロディー嬢に。公爵令嬢なら、彼女は納得するだろう。
そんな感じで、あの城での出来事となっていったのではないかと思われる。
王宮にあるグレナンの書物は、もれなくキートン夫人に読んでもらい、王子がいたところなどもグレナンに関するものがないか調べたそうだけれど、何も見つからなかったそうだ。
これは1年後になるが、呪術師という職業が認められるようになる。グレナン関係のことが発表されるまでは、その職業の人には、なり代わりの手助けをした場合、罪に問われることを伝える。あ、呪いもだ。呪いは全面的に禁止となった。
トルマリンさんは宮廷で呪術師として働きだした。まずしたことは光魔法を持っている人に、呪術のこと、そして解呪方法を教えることだ。
そしてもう一人の偽呪術師、赤の三つ目氏は、驚くべき人だった。




