第685話 彼女のはかりごと⑳反逆者
不思議だった。
わたしのただのイメージだけど。謀反を起こすぐらいなら、意志が確立し、もう人の意見は聞かないと思った。
だって、もうどうしようもないところまできて、頭をすげ替えるしか道は見つからなくて、それが最善と思って突き進んだ〝結果〟起こすことだと思うから。
だとすれば、捕らえることができたのだから、すぐに行使しちゃう方が話は早いと思うんだ。それはこの場合、陛下の命をとることだけど……。
そんなことをしたら陛下の魔力で押さえている〝瘴気〟を暴走させてしまう。だから陛下を生かしておく、そういうこと?
いや、メラノ公は陛下がいるからこそ、地下のものの暴走を押さえ込んでいるとは、信じていないようだ。だったら余計に、陛下たちに隙を与える前に、とっとと終わらせるのが普通じゃない? 血を流したくなくて、なるべく平和的にいきたいからなの?
とにかく、メラノ公は陛下と長々と話しているんだよね。それも、王位継承権を放棄する説得というより……見えてくるのは、不安と不満。まぁ、ずっと抱えていたんだろう。だからわかって欲しいのかもしれないけど、どこか違和感がつきまとう。
陛下もおっしゃっているから、本当にこの人は国を憂でいるのかもしれない。そしてちょっとフォルガードに思うところがあった。
陛下たちはそこを利用されたと思っているようだ。
他国のことを調べ、陛下たちに報告をあげていた。でもそれは一向に認可されることはなく、自分のために動いていた部下たちが不正をしたとして捕らえられ、自分から遠ざけられたように感じている。
その頃、ユオブリアが密かに攻撃を受けているような、ダンジョン事件が起こる。ほら、言わんこっちゃないと思っているところに、次代の王候補たちが議会を無視した婚約騒動をし、それが陛下も認めたことで、獣憑きの嫁で、陛下も受け入れている。獣憑きはフォルガードと繋がり自ら王子殿下と婚約するために、その婚約者だった公爵令嬢に罪を着せている(と自分には報告が来ている)。
絶望したのかもしれない。
次代の王に推したい人は、普通の流れでは候補のままで終わる人なのだろう。
陛下ではダメだ。陛下が王のユオブリアではダメだ。
そう思ってことを起こした。
でもメラノ公は陛下との対話を望んでいる。
ただ首をはねるだの、トップをすげ替えるなどではなく、陛下と話している。
それは血を流すことなく終わらせたいというより、陛下にわかって欲しくて……きっと今までは君主として支えるにふさわしいと思っていたのだろうし、とそんな思いも見え隠れした。
「だったらお前たちは、こんなことをせず、言動がおかしいと、王子たちを王位継承者から外せと、いつものように普通に訴えをあげればよかったのだ」
陛下が諭せば、捕らえられた貴族は声をあげる。
「婚約を止めました! それでも聞かなかったではありませんか」
「それは婚約のこと。王位継承の憂いごとは一度だって話が来たことはないぞ」
それは臣下が訴えていいことなのか、微妙じゃないかと思ってしまう。
それにさ、そう進言していたのがバレ、あの人王にならせないでって言ったその人が王になっちゃった場合、自分の身が危ないし。
「お前たちは手順を間違えたのだ。最悪な方法でな」
陛下が重たく言った。
「でもそれは大したことではない、1番の過ちが何か教えてやろう。お前たちが王にならせたい者は誰だ?」
「それは皆さまが知らなくていいことです。こちらの王位を退く書類に署名を」
「嫌だと言ったらどうする」
「署名をしたくなるよう、おひとりずつ、目の前で消していきましょう」
……それで幼い王女殿下たちもここにいさせたのね。
っていうか、わたしもここにいるってことは……そういえば連れてこられる時に、わたしの罪を詳らかにするとか言ってたけど。
「ひとり、まだ身内でない者もおるようだが?」
「ああ。こちらは元凶の娘ですな。文字通り皆さまの首をはねる結果となりましたら、民衆も動揺します。それを惑わすことになった発端の娘です。大いに役に立ってくれることでしょう」
メラノ公が口の端を上げて、ゾザザっと身の毛がよだった。
……っていうか、元凶が12歳の小娘って……そんなのでは誰も納得しないのでは? そんなのに滅ぼされる王族だったと信じられる? それほど堕落していたとするってこと?
「お前たちの望んだように事が運んだ場合の未来を、余が教えてやろう」
陛下がニヤッと笑う。
「王位を手に入れたあかつきには、フォルガードへの制裁でも約束されたか?」
猫なで声だ。
メラノ公は表情を変えなかったけど、わたしをここに連れてきた、恐らくダンボワーズ伯と、最初にこの部屋にいた貴族たち、エロワ男爵とブクリ伯が陛下を凝視する。
「でも、そうはならないぞ。いや、余たちが死ぬこともない。消されるのはお前たちだ」
一瞬虚を突かれた顔をした。そして歪んだ笑みを浮かべた。
「この状況から、私たちを消せる、と?」
「余たちが何かするわけではない。お前たちが信じた新たな王に推す者が、お前たちを反逆者だと消すのだ」
ああ、そういうことか……。バックがいないまま、メラノ公たちだけで、こんな甘い反逆をさせた理由。
反逆をしたとして、首謀者とされる人たちは一掃される。
真の反逆者は王に近づける。
すげ替えたら、それだけ民衆に動揺が走る。貴族の派閥だってあるから、それを落ち着かせるまでに時間がかかるし、そこを外国に狙われるかもしれない。外国から侵略まではされない見通しっぽいけど、だったら余計に国益になるはずだったものを掠め取られるとかありそうだ。
そんなリスクを侵すより、乗っ取る方がよっぽどスムーズだ。……身体は前の人のままなのだから、魔力とかも引き継がれるんじゃ? 陛下を乗っ取れば王位だけでなく、ユオブリアで1番の魔力も手にはいり……。
……そしてアイラはそっち側?
わたしはゆっくり、わたしの後方に立っているアイラを見上げた。
目が合うと、アイラもゆっくり口の端を上げて、にやらぁとこの場にそぐわない笑みを浮かべる。
「これから証拠を見せてやる」
陛下が悪い顔で口の端をあげた。




