第636話 王子殿下の婚約騒動⑥発表
慶事の公式発表は一致団結しているアピールなのか、王族みんなが勢ぞろいして行うことらしい。
ご一家が並ぶと壮観だ。
それでも病床の王妃さま、謹慎となった第4夫人と第3王子はいないのだ。
陛下、6人も夫人がいるんだ。いや、5人までは知ってたんだけど……。6人目なんてすっごい若いじゃん。20代前半だよね、絶対。そしてみんなめちゃくちゃ美人。
ロサのお母さんを初めて見た。いや、王族はロサとアダムと陛下、そして第3王子以外は見たことなかったんだけど。第2夫人は正統派、お姫さまって感じ。ロサの線の細いっていうか、華奢に見えがちなところは、お母さん似なんだなーと思った。
陛下の右隣りには、ソックス&わたしを抱えたアダム。足元にはもふさま。
陛下の左は第2夫人から第6夫人が並び、アダムの右側には第2王子のロサ、第4と第5と並ぶ。第5王子ってノエルよりさらに幼い。夫人たちのミニチュアのようにすでにお顔が整っていて、とても美しくかわいい王女さまたちは、まだ小さいからか夫人たちの隣りだ。ひとりは置物かというぐらい動かないが、もうひとりの一番お小さいお姫さまは、手を口の中に入れチュパチュパやっていた。
そういえば何回か、王都で王族の誕生を祝うために、店でお祝い商品を出すイベントがあったな。ホリーさんに相談されて、何かやった気がする。
やんちゃな下の双子の世話でてんてこまいだったし、王族にかかわりたくなかったから、情報を無意識にシャットアウトしてたのかもしれない。
今日は第1王子殿下の婚約のお知らせなので、王族の方々も控え目な格好をしている。華美ではないが、お祝い事にふさわしい格好であり、美しさを引き立てる素晴らしい装いだった。きれいな人たちがきれいにすれば、もっともっときれいになるのは当たり前だ!
いやー、でもほんと、すっごくキレイ。
王子殿下たちも、そりゃー、親がそうなんだもん。かっこいい。
金髪に紫色の瞳。第4王子殿下だけは、髪の毛が茶色に寄っている。それが理由かは知らないけれど、早々に王位継承権を手放した王子さまだったはず。
王族と向き合う形で、前には父さまがポツンと、その隣りは議会に連なるメンバーが集まっている。
各省のトップの人たちも呼ばれていた。
宰相さまの挨拶で始まる。
陛下からの言葉があるといい、陛下が話される。
「この度、めでたく、ユオブリアの第1王子、ゴット・アンドレ・エルター・ハン・ユオブリアが婚約の儀を無事終えたので、報告する」
3分の1ぐらいの人たちがざわざわした。
議会席の一番前の真ん中に座っていた白髪の老人が立ち上がり、鷹揚に拍手をした。
「第1王子殿下、ご婚約、おめでとうございます!」
品が良くて、優しそうな人だ。満面に笑みを浮かべ、心から喜んでいるように見える。……それなのに、なんだか怖く感じるのはなんでなんだろう?
「メラノ公爵さま、ありがとう存じます」
アダムがお礼を言った。
この白いなみなみウェーブの長髪の人が、メラノ公!
それを見て、周りの人たちも椅子から立ち上がり、お祝いの言葉を述べ出した。
ひと段落したところで、メラノ公は、これまた白い立派なひげを触る。
「殿下、婚約者をぜひ、我らにも紹介いただけませんでしょうか?」
笑みを絶やさずに、言った。
メラノ公はエレブ共和国のグレーン農場の現所有者。土地買いのことで何かやっているかもしれない人。わたしの呪い系とは関係はないかもしれないけれど、何か目論んでいるんじゃないかと思える。そして企てる人というのは情報を張り巡らせているのが普通だから、知ってるくせに。と言いたくなる。絶対、知ってそう!
昨日乗り込んできた人たちは、捕らえられ牢に入れられたけど、絶対どうにかして理由を聞いてそうだよなーと疑いたくなる。
アダムは、にこりとした。
「では皆に、のちに私の伴侶となる、婚約者を紹介する。さ、リディア嬢、みんなにご挨拶をして」
アダムが腕の中のソックスをひと撫ですると、心得たようにソックスが鳴き声を上げる。
「なーーーーご」
今だったらこの広さの中、針を落とした音も聞こえるかもしれない。それくらい辺りが静まりかえった。
「現在、この姿でありますが、私の婚約者、リディア・シュタインです」
またまたシーンとした。
「殿下、ご、ご冗談ではないのですよね?」
真ん中あたりにいた、真面目そうな青年が立ち上がり、言葉を発する。
ふと、アダムの纏う雰囲気が変わった。
「何をもって、冗談などというのかな?」
やば、アダム怖い。
「そ、その、その猫のように見える獣が、リディア・シュタインさまなのですか? 本当に……でしょうか?」
「第1王子である私が、嘘をつくとでも?」
「め、滅相もない。で、ですが、シュタイン嬢が獣の姿になれるとは、聞いたことがありませんし。その獣をシュタイン嬢と言われましても、にわかには信じられません」
もっともな意見が出た。
「そうだ、それは猫だ!」
「亡くなったことを隠すために、そんな小細工をしているのでは?」
「ほう、異な事を申すな?」
陛下が聞き咎める。
真面目な人の3つ隣り。淡い金髪の、とぼけた顔をした人は焦ったように言い募る。
「シュタイン嬢は、亡くなったと噂があったじゃないですか」
「ほう?」
「呪われて亡くなったんです! それを隠すのに、シュタイン伯が猫を令嬢だと騙しているんです!」
呪われて? ほう……。
だって死んだとはされたけど、呪術だとか呪いだとか、そんな話は聞いたことがないけどな、噂では。一瞬だけ、アダムと宰相さまと陛下の視線が交錯した。
「シュタイン伯、令嬢は亡くなり、其方が娘を猫にでっち上げていると意見があるが?」
「殿下の腕の中にいるのが、娘でございます。私は娘がその姿になるところを見ておりますので、確かです」
「ほら陛下、騙されてはなりません。すべてはシュタイン伯が、娘同様、王族を謀っているのです」
「では尋ねるが、そうしてシュタイン伯に何の得があるのだ?」
とぼけた顔が、ますます間が抜けたものになる。
「そ、それは……」
「人とは違う姿になることに、どんな益が?」
とぼけた顔の人は黙り込んでしまった。




