第635話 王子殿下の婚約騒動⑤第一の制裁
改めて、アダムが規格外だということがわかる。
本物の第一子が、陛下の次に魔力量が高いのはわかるけれど、それと同等にアダムには魔力が備わっているのだ。きっとその点が、王子殿下の影になった、最大の理由な気がする。アダムしか判断しちゃいけないことだけど、それは幸か不幸かと思いを馳せてしまう。
陛下は思惑通り、アダムを幽閉することになったんだからいいだろうと言い、それゆえに伴侶ぐらいは自分で選ばせたかったと言ったそうだ。
陛下の怒りどころを察した彼らは、軌道修正をした。
「第1王子殿下には酷いことを強いているのはわかっています。ですから余計に良い伴侶と過ごしてほしいのです。でも陛下、リディア・シュタインはなりません!」
と強烈なわたしのバッシングが始まったっぽい。アダムは言葉を濁した。
まぁ、理由としてあげたのが、わたしの悪い噂が絶えなかったこと。
しかも獣憑きが王族に名を連ねるなど言語道断。
それについては陛下がやり返した。
「お前たち、ゴットを幽閉した後、名を剥奪すると言っていたじゃないか。
それなら、どんな者でもいいのではないか?」
議会はとことんアダムに、ひどいことをしようとしていたみたいだ。
「それでも犯罪者はいけません」
「犯罪者?」
「自分が殿下の伴侶におさまりたくて、前婚約者を嵌めた張本人ではありませんか!」
「お前は噂を、ただ鵜呑みにしているのか?」
陛下が一喝した。
「陛下、煙のないところに火は立ちません」
「ウチの娘を侮辱するのか?」
父さまが参戦する。
部屋の中は激しい口論で、いっとき騒然とした。
その言葉の端々で、右肩上がりのシュタイン家が、今より力をつけるのは許せないと、そんな気持ちが見え隠れした。
そうやって不満を口に出させ、陛下とアダムは静かに見定めていた。真の敵を。
前から幽閉される第1王子を見下してはいた。
けれど、いくら止めるためと言っても、規制区に立ち入ってきたのは、あまりに馬鹿のすること。叛逆と取られても仕方のないことだからだ。もうこれは本当に小者で頭が悪い。
そんな者がわたしの一連の噂を動かしたり、今陥っている危機を企てることができるだろうか? 否、この頭で、できることではないと結論は出ていた。
ただ、真の敵にけしかけられたのは確実。一通りきいたところで、情報はこれ以上持っていないと判断する。
陛下は全ての者を牢に入れ、また、身分剥奪を言い渡した。
これには悲鳴が上がったが、オール無視。叛逆と同じことであるのに、家門の取り潰しはしないし、命があるだけありがたく思えと言い募ったそうだ。
ちなみに第3王子は3ヶ月の謹慎。第4夫人においては3ヶ月の修道院での奉仕を命じられた。
全ての決定権はもちろん陛下だけど、貴族に対しての統括は陛下のすること。王族に対しては王妃さまが音頭をとる。でも、王妃さまは伏せっているので、ロサのお母さんである第2夫人がその役を担っている。規制区域を告げたのに、それを守らなかったことは、王族は第2夫人に歯向かったことになるそうだ。なるほどね。
奉仕活動はもちろんだけど、そんな罰則を受けた夫人ということで、これからの王宮生活は辛いものになるそうだし、第2夫人からの制裁も、もちろんあるだろうというのがアダムの考えだ。
貴族たちに対しては、身分剥奪を言い渡し、牢に入れ、ひとりずつ呼び出す。
今日の聖堂の情報はどこから得たのか、聖堂に押しかけることは、誰が言い出し、どのように計画したのか? 正直に話せば刑を軽くしてやろうと悪魔のささやきをする。
ひとりずつ呼び、聞き出したので、小者らしく保身に走り、ぺらぺらとよく話したそうだ。メネズ候に情報を入れたのはデュボスト伯であることがわかった。第4夫人にも接触していた人だ。他にも名前が上がった人がいて、その人たちはデュボスト伯の傘下であることがわかった。
さて。陛下たちが強気でいたのには訳がある。
それは本物の反逆者を炙り出すためだ。
命に背いた対処としては妥当だが、シュタイン家を猫っかわいがりしているのは変わらない。こんな王家はついていけない、そう盛り上げるためでもある。
今後はデュボスト伯とその傘下、そしてデュボストが与している人を探っていくという。
明日、正式に発表することになるというので、トカゲは解かないことにした。
それからアダムは、父さまから預かったと、封書をくれた。
わたしは持てないので、もふさまに預かってもらった。
アダムはガインと会ったことを、話さなかった。陛下にも言ってないのかもしれない。何か考えがあるのかもしれないし、ただ言いにくいのかもしれない。
そこでお開きとなった。
わたしは大きめの入れ物で、お風呂に入れてもらった。新品の掃除用具だという歯ブラシのようなブラシで、身体をこすってもらって気持ちよかった。
ぽかぽかになったところを布で水分を拭いてくれ、もこもこのタオルに包んで、兄さまが作ってくれたベッドに入れてくれた。空き箱を利用した寝床で、上の半分まで蓋がスライドするようになっている。隠れられるようなところに安心するので、とても心地いい。
うとうとしている間に、兄さまはもふさまとお風呂に入ったようだ。
兄さまたちが戻ってきたので、父さまからの手紙を読んでもらう。
儀式の前に父さまが書いたものだった。
もふもふ軍団が帰ってきたそうだ!
新しい情報とともに、仕掛けてきたから、そのうちわかることがあるかもと、頼もしいことを言っている。
手紙を読み終わると、兄さまがわたしに質問していいかと言った。
もちろんと答えると、
「お嬢さまの変化した姿、第1王子は全く驚かれていませんでしたね?」
え。
ああ、アダムは領地に来た時に、わたしのトカゲ姿を見ている。
兄さまはそれを知らないから、どうしてかと思ったのだろう。
わたしはガインが来て、呪術師集団のことを教えてもらったことを告げた。
その呪術師集団のことを知らないか、情報通のアダムに尋ねたことを話した。その後、療養の噂がでて、心配して来てくれたこと。療養で誤魔化そうとしたけれど、お遣いさまの気配はあるのに?と言われ、トカゲの姿で会ったことを。
もふさまが通訳してくれた。
兄さまは息を呑み、無言になった。
なんともおかしな夜だった。
兄さまはぶっきらぼうに就寝の挨拶をするし、もふさまは機嫌が悪いまま。
どうしたのか聞いたんだけど、答えてくれなかった。
気にはなったけど、わたしのベッドをもふさまが抱えてくれて、その暗いところで、いつしかわたしは眠りについていた。




