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プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
2章 わたしに何ができるかな?
63/1128

第63話 〝嘘〟の証明

本日投稿する2/2話目です。

 痛っ。

 

 馬のいななきと、何かにぶつかったような音がして馬車が揺れ、わたしはおでこを樽にぶつけた。


 ガッタン。馬車が止まる。

 罵声?

 何があったんだろう? ずいぶん長いこと止まっている。


 大きい声で話しているような音は聞こえてくるけれど、何を言っているのかまではわからない。もしかして、人売りの市場に着いちゃったとか? いや、そこまで時間は経っていない。イダボアを出たばかりだ。マップで確認する。近くに青い点がいくつも増えている。赤い点は3つのままだ。


 荷台が揺れる。複数の人が荷台に乗ってきた?

 会話がだんだん聞き取れるようになる。


「もういいって言ってんだろ?」


 さっきの人売りの親分の〝アニキ〟の声だ。


「そうはいきませんよ。うちの商会の面子に関わりますから。もし、何かがウチの馬車のせいで壊れたというのなら、弁償させていただきます」


 次は知らない声。どこか品のある感じ。


「あんたの心意気はあっぱれだ。さすが大きい商会だな。絡んで悪かったよ」


「……急に掌を返したように……。見られたら困るものでも積んでいるんですか? 密輸をしているとか?」


「馬鹿なこと言っちゃいけねぇ。そんな度胸はないよ。ほら、怪しい物なんかなんもねーよ」


 ふたりで言い合いをしている。言い合いってことは人売りの仲間ではないはず。マップが示しているのはどこまでが馬車の範囲なのかはわからないがわたしの緑の点の近く点は赤は3つしかない。後は青いから敵ではないはずだ。


 声をあげる? 気のせいと話を持っていかれたら? 

 そして荷台から人が退場したら終わりだ。

 それに助けようとしてくれた人が暴力を振るわれたりしたら?

 そちらが弱かったらアウトだ。

 だから鍛えているはずの門番さんのところで助けを求めるのがいいと思っていたのだが。

 でも、でも……。ええい!


 わたしは水魔法で水を樽の外に向けて流した。

 樽の中のわたしを確認してもらう必要がある。声だけじゃ弱い。


「水? 水が漏れてるぞ」


「水? あ」


 人売りが嫌なことに気づいたような声をあげる。


「樽にひびが入ったようだな。中身はなんだ? 弁償する」


「こ、これはただの水だから、弁償はしなくていい」


「ただの水? なんでそんな必死に避ける?」


「濡れるのが嫌なんだよ」


 人売りはわたしが樽に入っていることを知っている。その樽から水がチョロチョロ流れてきたから、アレだと思ったんだろう。なんという屈辱! 水魔法の水だから!


「なんで水を運んでいる?」


「別に俺らの勝手だろ?」


 声が近くなった! 今だ。


「助けて! 開けてください!」


 わたしは大声で言いながら樽を叩いた。


「な、なんだ?」


「こ、これは。ひっ、何をする?」


「いや、何、中を確かめるだけだ。そのまま、そいつを動かすな」


 樽の蓋の隙間から光が漏れてこなくなる。そして蓋が開いて、茶色の髪の、目の細い人が樽の中を覗き込んできた。


「助けて、ください。その人たち、人売りです」


「ああ、違いますよ。そのガキは俺の姪っ子で、あんまり嘘をつくんで仕置きで樽に入れてたんです」


「違います。さっき、会ったばっかり」


 糸目の人はわたしの脇を持って、樽から出してくれた。

 〝アニキ〟は、恐らく糸目さんの護衛に刃物を当てられていた。


「旦那、そんな嘘つきの言い分を信じたら、とんでもねー恥かくだけですよ」


 わたしは首を横に振った。

 糸目の人は探るようにわたしを見ている。


「お嬢ちゃん、お嬢ちゃんは、自分が嘘つきでない証拠は出せるかい?」


 わたしは唇を噛み締める。それは信じてもらうしかない。


「わたし、嘘つきではない証拠、ありません。けれど、その人、嘘つき、証明できると思います」


「こんのクソガキがー。そうやって嘘ばっかつくから、家族に厄介者扱いされるんだ。だから俺が連れ出してやったんだろ?」


 大人だし、向こうの言い分の方が事実のように聞こえるだろう。わたしは糸目の人を見続けた。


「どうやって証明するんだい?」


「姪っ子いうけど、その人わたしとさっき会ったばかり。だから、わたしのこと何も知らない。別々に、その人とわたしから、わたしの〝情報〟を聞いてください」


 糸目の人はしきりに顎を触って、頷く。


「嘘つきはお前だろう。旦那、そんな子供のいたずらに時間を使うなんてもったいないですよ。俺が後から叱っておきますから」


「いや、でも確かに、あんたは樽に水が入っていると嘘をついた。正直者ではないようだ」


「そ、それは、樽に子供を入れてるのは仕置きが過ぎるって言われると思って」


 と、愛想笑いを浮かべる。


「もし俺が人売りなら、そんな状態で樽に入れとくだけなんてしませんよ。眠らせたり、声が出せないようにするでしょ。俺だって、身内だから……」


「嘘。お菓子と、眠り薬入りお水渡して、眠ったか確かめた」


 わたしは握りしめていたお菓子を糸目さんに見せた。


「このお菓子食べれば、水、飲みたくなる言ってた」


「お前は本当に口だけは達者だな。叔父をそんな悪者に仕立てたいのか?」


「人売り、身内、いない」


 糸目さんが景気良く笑っている。


「姪っ子なら、わたしどこ住んでた?」


 男が慌て出す。


「なんだよ、どこって言ったって、お前は違う町を言う気だろう?」


「それなら、余計に言っても問題ない」


「それもそうだな、答えたらどうだ」


 糸目さんが後押ししてくれた。


「モ、モロールだよ」


「父さまと、母さま、わたし、名前」


「旦那、そいつが嘘を言うに決まってるんだから、一生答え合わせなんかできませんよ」


 まあ、それはそうだろう。


「それも、言えない?」


 焚きつけるため、鼻で笑う。


「どこ行くつもり? 家族でなく、なんでわたしここにいる?」


「だから、お前の父親に頼まれたんだよ。お前は町から出たことがないから、連れて行ってやってくれってな。連れてきてやれば、お前は嘘ばっかりつくし、仕置きで樽に入れられたんだろ?」


 さもあったかのことのように言うね。


「わたし、モロールから出たことない?」


「兄貴んとこは金がねーからな」


 借金があり育てられないから売られた設定になっているからだろう、墓穴をほった。糸目さんは商人みたいだから、イダボアの町をよく知っていることだろう。


「よし、お嬢ちゃん、こっそり君の名前を教えてくれ」


 わたしは屈んでくれた糸目の人の耳元でこっそりと名前を言った。背伸びしたときに足の裏が痛んで顔をしかめた。


「ん、どうした?」


 糸目さんがわたしを抱きあげる。足の裏を見て声をあげた。


「靴はどうした? 足の裏が傷だらけじゃないか。それに、これは……夜着なのか?」


「靴なく歩いた。れいぞく、札、眠っているとき呼び出されて」


「な、お前、隷属の札なんて、とんだ嘘つきだ。旦那、信じてくだせぇ、俺はそんな空恐ろしい物持っちゃいませんよ」


「持ってたの、カークさん。青のエンディオンのひとり。わたし、さらわれた」


「お前、何言ってんだ」


 人売りが本気で焦っている。


「カークさん、貴族わたし邪魔言って、請負った言った。殺すやめて売るって」


 わたしは事実しか言ってないが、子供のいうことをどれだけ取り合ってくれるかはわからない。


「さて、今度はお前の番だ。お前の姪っ子の名前を言ってみろ」


「そいつが嘘の名前を言ってるに決まってるじゃないですか」


 確かに、そいつの言うとおりだ。誰もわたしの名前を証明できる人はここにはいないのだから。


「まぁ、そうだな。でもお前、この子の靴はどうしたんだ? なんだって子供が足を怪我しているのに、そのままにしているんだ? それも姪っ子なんだろう?」


「そ、それはっ」


「この人、嘘言った。この人、姪っ子、家、貧乏。町出たことない。わたし、モロール知らない。行ったことない」


「ほら、知らないって言えば済むと思ってやがる」


「でも、イダボア、知ってる。町の店も言える。行ったことあるから」


 男が一瞬ハッとした表情をする。


「な……んだ、兄貴はお前をイダボアに連れて行ったことがあるのか。兄貴んとこと一緒に暮らしているわけではないですからね、知らないこともありますよ。嘘をついたのではなく、知らなかっただけだ」


「イダボア、自警団、ギルド、連れて行ってください。わたしを知ってる。証明できる」


「バカ言うな。なんで自警団やギルドがお前を知ってるんだ!」


「兄さん、何事だ? 遅いからきてみれば……」


 新たにひとり、荷台に乗り込んできた。


「ああ、ハリーか。馬車のちょっとしたイザコザがあってね。吹っかけられたから、喧嘩をかったら、中からとんでもないものが出てきたんだ」


 糸目さんより、薄い茶色の髪で、ひょろっとしている。見たことあるような……。


「あれ、君は、この間いっぱいジョウユを買ってくれた……」


「あ、ハリーの店の……」


 爆買いした調味料のお店の亭主さんだ!


「知り合いか?」


 糸目さんが亭主さんに首を傾げる。


「話しただろ? 東の国の調味料をいっぱい買い込んでくれた家族がいるって」


「隣の領地の領主って言ってなかったか?」


「ああ、そうだよ。そのお嬢ちゃんだ」


「お嬢ちゃん、家名は?」


「シュタイン。父さまは、ジュレミー・シュタイン。母さまはレギーナ・シュタイン」


 バサっと音がして。

 人売りたちが逃げようとしていた。護衛に反撃して隙をついて逃げようとしたが、護衛さんたちがそれを許さなかった。


 人売りたちを捕らえ、イダボアの自警団へと赴いた。

 イダボアのギルドのお偉いさんが謝りに来たときに一緒に来た自警団の人もいて、わたしを覚えていたので、よりわたしの証言が有利になり、ウチに馬を走らせてくれている。


 迎えが来るまで自警団で待たせてもらい、糸目さんとハリーさんが付き添ってくれた。足の裏を洗い、傷薬を塗ってくれた。

 糸目さんにも、ハリーさんにも改めてお礼を言った。

 糸目さんはハリーさんのお兄さんで、大きな商会の支部長さんらしい。

 わたしたちがこの間ごっそり買って行ったので、その補充分を届けにきたそうだ。


 すれ違うときに石が飛んできたとかなんとかイチャモンをつけられて、そこまで言うなら、それによって壊れたものは弁償しましょうと荷台に乗り込んできたらしい。


「リディア!」


 父さまだ。母さまも、兄さまも、アラ兄も、ロビ兄も、おじいさまもシヴァも。それからもふさま、みんながいた。

 もう、怖いことなんかちっともないのに、目の周りが熱くなる。唇がブルブルと震え出した。

 足を踏み出すと、足の裏が痛んだ。でもわたしは走った。頑張って走って、父さまの胸に飛び込んだ。

 わたしの泣き声が響いている。

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