表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
14章 君の味方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

604/1170

第604話 聖なる闇夜の祝い唄③聖酒

 もふさまが帰ってきた。白いはずの毛先が少し生成色に見える。くたびれた印象だ。


「もふさま、疲れてる? 大丈夫?」


『我はなんでもない。リディアよ、これを飲め』


 え?

 瓢箪? 先っちょを枝で栓している。


『聖酒だ』


「聖酒?」


『聖なる力を注いだ酒。聖なる力が聖水より密だ。リディアは聖なる者寄りだから、きっと効く』


 キラキラした目で勧められ、ヨレヨレになって取ってきてくれたんだと思うと、〝酒〟というところでためらいがあるけれど、そうとは言えず。

 わたしは瓢箪を受け取り、栓をキュポッと開けた。


『魔のかかった入れ物だ、そのまま飲むが良い』


 魔法の水筒か。きっと口をつけて飲んでも、問題ないような浄化システムがついているのだろう。

 わたしは目を瞑って、瓢箪を煽った。ひと口、コクンと飲む。

 アッツイ。

 喉が焼けるようだ。熱いものがわたしの中に伝わりながら、落ちていく。

 いけない! 瓢箪がわたしの腕から転がった。タプタプと入っていたはずなのに中身は溢れない。あ、魔法がかかっているからか、なんて思っているうちに、わたしはバタンキューとブラックアウトした。




 起きたときの爽快さは、どんな言葉を使っても言い表せない。

 目がぱちっと開いた。鳥のさえずりが聞こえる。

 体が軽い。頭は冴え渡り、今ならなんでもできそうな気がした。

 体も動く! ボードを見れば、魔力が戻ってる!

 635で停滞していた魔力が!

 もふさまも目を開けていた。


「もふさま、魔力が満タン!」


 横のもふさまを抱きしめれば、どこにいたのかソックスが間に入ってきて、なーごなごと頬擦りしてくる。


「おはよう、ソックス」


『聖酒の力は凄まじいな。やはりリディアは聖なる者寄り、ということだ』


「聖なる者寄り?」


『聖女候補とは神属性のスキルを持つことが条件だとしたら、リディアにはそれがないのだと思ってな。それにシュシュ族はお前が聖なる方を降ろせるというし、リディアが聖なる者寄りなら、聖酒を飲めば効果があると思ったんだ』


「聖酒ってどこで手に入れたの?」


『我の前の森の護り手の物だ。奴が引退してから、何度か会った』


 護り手は代替わりするんだね。


「やっぱり、スノーウルフなの?」


『いや、黒狼だ』


 黒い狼か!


『我が護り手になってからはなかったが、奴の時は神獣と諍いが絶えなかったらしい。神獣と戦うのに、聖酒を撒いてやったと聞いたのを思い出した。神属性の者には毒となるが、聖なる者たちには何にでも効く万能薬となる』


「……遠かったんだよね? もらいに行ってくれたんだ?」


『とっくに奴はくたばった。奴のことだから、きっと残していると思ってな』


 もふさまは少し照れたように横を向いた。

 フルっと身をふるわせれば、もふさまの毛は真っ白、艶やかになる。それが戻らないということは……。こんな毛を汚してまで、大変な道のりと距離を、全速力で取ってきてくれたんだと思う。


「もふさま、ありがとう。わたし、すっごく元気になった!」


『よかったな』


「うん。これで、いつ敵がきても大丈夫」


 これでいつでも向かい打てる! 戦ってやる!

 かかってきやがれ。

 一生来ないなら、その方がいいけど……。





 朝ごはんまでには、まだ時間があった。

 サブハウスの庭先で日向ぼっこをしていると、空が急に暗くなる。

 驚いて立ち上がった。もふさまも険しい目をして大きくなる。

 ソックスがにゃご?と 不安そうにひと鳴きした。

 雷鳴と共に、庭に光が舞い降りた。

 ここはサブハウス。この領域にやってこれるということは、人ではないね。


 ハレーションを起こしていたような光が、やがて落ち着いてゆき……光じゃなくて火?

 火を纏っている?

 シカ? とても立派な角が、枝分かれした木のように頭の上で主張している。

 ソックスがわたしの肩へと登ってきた。

 もふさまがのそりとわたしの前に立つ。

 あちらものそりのそりと距離を詰めてくる。


『お前、森の守護者か?』


 火を纏ったシカが喋った。


『いかにも。尋ねるときは、おのがまず名乗れ』


 シカは少し口を閉ざした。


『……これは失礼した。我は神より大地の守護を任された神獣・ノックス』


 ソックスが、にゃあと鳴く。


「ソックスが呼ばれたんじゃないよ、あちらはノックスさまだって」


「にゃ?」


『なんだお前は? ……人族?……人族の幼子よ、お前は我の言葉を理解するのか?』


「はい、わかります。わたしはリディア・シュタインと申します。神獣・ノックスさま。この子はソックスといいます」


『神獣よ、ここに何をしに来た?』


 もふさまが吠える。冷静そうだけど、苛立っている。もふさまが纏う気がピリピリしている。


『眷属から、前森の守護者の〝聖酒〟を持ち去った者がいると報告があった。〝聖酒〟で何をするつもりなのか尋ねるために追ってきた』


『その理由を話す謂れはない。だが、神に属する者への、〝手段〟として使うつもりはないとだけ、言っておこう』


 もふさまは、フンと鼻を鳴らす。

 お互い名前を聞いたぐらいだから初めて会ったのだと思う。でもふたりとも肌が合わない感じだ。


 ノックスさまが一歩一歩と近寄ってくる。もふさまには構わず、わたしに歩み寄る。火を纏って見えるけれど、それは幻影なのか、熱くもなんともなかった。

 ノックスさまはわたしの肩に鼻を寄せて、わたしの匂いを嗅ぐ。

 何? わたし、臭いの??

 昨日まで動けなかったから、体を拭いてやり過ごしていた。


『上質な魔だ……』


 あ、魔力か……。


『淀みのほとんどない。神力にも劣らない……なんて心地の良い』


 わたしの顔に鼻を寄せようとしたとき、もふさまが割って入ってきた。


『神獣よ、リディアにそれ以上近くな!』


『なぜお前が怒るのだ? お前はこの娘のなんなのだ?』


『我はリディアの友達だ!』


『なんだと? 娘、それはまことか?』


「はい、わたしはもふさまの友達です」


『もふさま? それがお前の名か?』


『これは友達のリディアがつけてくれた名だ』


 もふさまが誇らしそうに言う。

 ノックスさまは、黒曜石のような真っ黒の瞳で、わたしを見た。


『聖なる守護者が、人族と友達だと?』


 なんかガビーンと効果音が聞こえてきそうだ。


『ずるいぞ、羨ましい!』


 羨ましいんだ……。


『羨ましいなら、お前も友を作れば良かろう』


 鼻高々にもふさまは言った。


『話せる人族とは初めて会った』


 ノックスさまは寂しそうに下を向く。


『娘、いや、リディアと言ったな? 我と友達になってくれまいか?』


 もふさまが、鋭くわたしを見る。

 え。なんかものすごい難題きたーーーっ。

 短い毛だけど、もふもふの括りではあるのよね。

 うーーん。でも、簡単に友達になったら、もふさまが拗ねそう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] キラキラした目のもふさま [一言] てっきりリディアが自分達寄りで喜んでるのと思ったけど回復手段を見つけたからだったんですね。 なかなか回復せずで心配してたんだろうなぁ… リディア、神獣…
[気になる点] 聖獣の代替わりは役目を引き継ぐ形なんですかね? もふさまと黒狼さんは面識あるみたいだったので気になりました [一言] 聖酒でMP満タンになった途端かかってきやがれとか好戦的すぎる笑 …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ