表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ決定】プラス的 異世界の過ごし方  作者: kyo
14章 君の味方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

600/1170

第600話 君の中のロマンチック⑩待たない

 わたしが猫ちゃんの入った袋を胸に抱き、兄さまがそんなわたしを抱え、もふさまに乗る。

 そして兄さまの別荘のあるタニカ共和国へバビューンだ。それでも1日はかかるので、途中何度か休憩を入れた。

 さすがに兄さまも体が辛いようだ。泣き言は決して言わないけど。

 わたしは例のごとく、ほぼ眠ってしまった。猫ちゃんもそうだったんじゃないかな。大人しかったから。

 休憩といっても、わたしの世話は兄さまにしてもらうことになるし、全然休めない。本当に申し訳ない。

 水を飲ませてもらいながら、わたしは尋ねた。


「報酬はどうすればいい?」


 お金がいいのかな? でも十分に持っているはずだ。

 金塊とか? 宝石とか? 宝石は今は手持ちがないけれど、父さまに用意をしてもらえると思う。


 もふさまがピチャピチャと水を飲み、そのお皿へと横から猫ちゃんが顔を突っ込んでいる。猫ちゃんのお皿、用意してもらったのに。

 恐れを知らない猫ちゃんだ。もふさまは優しいから、そんなことでは怒りはしないけど、森の主人さまなのに。


「ああ、報酬か……」


「なんでも言って。わたしにできることならなんでもするし、用意する」


 兄さまがため息をついた。


「……みんな君に甘くしすぎた。〝なんでもする〟なんていうものではないよ」


 わたしはムッとした。


「何を言われるかわからないぞ、君は警戒心を持つべきだ」


 わたしだって人をみて発言している。


「兄さまだから、そう言ったの」


 兄さまは、意地悪げに目を細めた。

 もふさまと猫ちゃんが仲良く並んで水をペチャペチャやりながら、わたしたちのやりとりを見ていた。


「じゃあ……その言葉に責任を持ってもらおうか?」


「どうぞ」


 わたしは促す。


「シュタイン家から出て、私と一緒に……」


「いいわ」


 間髪入れずに受け入れると、兄さまの顔が歪む。


「どうして、できもしないことに簡単に返事をする?」


「わたしは〝いい〟と言ったのよ」


「引くに引けなくなって言ってるだけだろ?」


「違うわ」


「本当に家族から離れられるのか?」


「兄さまが、わたしがついていってもいいと言うならね」


『そうか、リディアは最初から……』


 兄さまの顔が強張っていた。

 わたしを見つめながら、いろんな感情が顔を出す。

 わたしも感情が昂っていたけれど、兄さまもそうだった。

 その波がやがて鎮まり、兄さまがゆっくりと静かにわたしを抱きしめた。


「ごめん、悪い冗談を言った」


 ゆっくりわたしを遠くへやる。でもわたしの肩に手を置いているから、離れても兄さまの腕の長さしか離れていない。


「報酬を決めたよ」


 わたしは兄さまを見上げる。


「もう、婚約者でもない者にこんなことはさせちゃだめだよ」


 兄さまが近づいてきたと思ったら、口元すれすれの頬にキスをした。


「私を嫌って、私から逃げて。それじゃないとまた君を求めてしまうから」


 優しい口づけだった。

 兄さまからスッパリ嫌われていなかったんだと感じた。

 迷惑……というのもポーズだったのかもしれない。

 だけど、わたしたちを取り巻く環境は、何も変わっていない。

 兄さまはクラウスとバレるのもまずいし、濡れ衣を着せられてもまずい。

 わたしも呪術を使うほど、どこかから憎まれている。

 変わってないどころか、状況は悪くなっている気がする。


 それに婚約破棄をしたのは事実だし。わたしの存在は兄さまにとって〝重たい〟だろう。情は持ったままでいてくれたとしても。

 だから、心に決めて言ってみる。兄さまの気持ちを軽くするために。きっとその先の気持ちには気づかないだろうから、軽いままでいられるだろう。


「兄さま、言ったでしょ。わたし、待たないから。だから大丈夫よ」


 兄さまは形のいい口を少し開けたまま固まったけど、ぎこちなく笑った。


「……わかった」


 わたしは待ったりしない。兄さまが再び愛情を向けてくれる、希望的観測をして待つことはしない。

 わたしに向けられた悪意を振り切って、そして兄さまを覆う暗雲を取り除き、状況を変えて、兄さまが安全になったら……。

 わたしは待ったりしない。わたしから訪ねていく。それで玉砕したら……その時は……その時だ。

 

 それから兄さまは言葉が少なかった。


『それにしても魔力が戻ったわけでないのに、どうして人に戻れたんだろうな? リディアにはわかったのか? 何か特別なことをしたのか?』


「え、何も……」


 と、もふさまに答えながら、わたしには呪いが解けた、心当たりがあった。 

 わたしも驚いていた。わたしの無意識はずいぶんロマンチストだと。

 わたしが解呪されたと無理なく思えた時、呪いが解けるとハウスさんたちは言った。

 7年前、呪術というのは媒体を壊せば返せるものだと知った。だからきっとその媒体だと思うものを壊せたら、呪術は解けるかもしれないと思っていた。それでも解けなかったら、永遠にトカゲのままかとも思ったけど。


 でもその知識より前に、わたしに浸透していた〝思い〟があった。

 そう、りんごを齧って死んでしまったようにみえたお姫さまも、眠り続ける呪いにかかったお姫さまも……。

 愛ある王子さまの口づけは、いつだってお姫さまを救う。

 どんな凶悪な呪いも、愛あるキスには敵わない。解呪されるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[良い点] リディアには突っ走るのが似合ってる。兄さんは「待たない」の意味を勘違いしてそうだけど。 [一言] 王子様のキスで魔法が解けるのは前世幼少期からの刷り込み教育だから仕方ないのです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ